成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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オレは死んじまったゼ!

2023/10/12配信

幽霊としての“生きざま”“生きることの意味”とは?

ⒸWOWOW

 WOWOWの連続ドラマW-30で放送されている『オレは死んじまったゼ!』は、幽霊たちの“生きざま”を描いた連続ドラマだ。

 場末のホストクラブで働く桜田和彦(柳楽優弥)は、ある日の朝、ゴミ清掃車に轢かれて命を落とし、幽霊になってしまう。周囲の人々に自分の姿が見えなくなり、声が届かなくなった桜田が彷徨っていると、同じ幽霊の桃山鉄郎(賀屋壮也・かが屋)に声をかけられ、幽霊たちがいっしょに暮らす萎びた蕎麦屋へと案内される。

ⒸWOWOW

 売れないスタンダップコメディアンだった桃山、看護師だった佐々木咲(川栄李奈)、ギャルの女子高生でパラパラが好きだった小森凛(長澤樹)、「わびさび」が口癖の幽霊歴およそ400年の千利休(三遊亭好楽)と出会った桜田は、五人目の幽霊として彼らといっしょに暮らすことになり、幽霊として「生きることの意味」を考えるようになる。

 劇中では各幽霊の過去に焦点を当てられ、彼らが生前に残した未練が語られていく。
 未練を解消した幽霊たちは一人、また一人と成仏していく物語は、あらすじだけ抜き出すと、シンプルなヒューマンドラマだが、映像、台詞回し、音楽があまりにも独特なので、ドラマの形を借りた、別の映像表現を見ているかのようだ。

ⒸWOWOW

 監督・脚本は長久允。CMプランナーとして活動していた長久は、四人の女子中学生が400匹の金魚を中学のプールに放ったという実話をもとにした短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』を2017年に監督し、第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門のグランプリを受賞。
 その後、両親を亡くした四人の子どもたちが、音楽を通して心を取り戻していく姿を描いた音楽映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』、俳優の森田剛主演のコンテンツとして制作された自分の死ぬ日を知っている男の人生を描いた短編映画『DEATH DAYS』といった斬新な映像作品を続々と手がけている。

 長久は光と闇のコントラストが極端な映像に乗せて登場人物が哲学的葛藤を繰り返す姿を繰り返し描いている。
 WOWOWでのドラマ化は今回が二作目だが、前作の『FM999 999WOMEN'S SONGS 』もミュージカルテイストの群像劇を通して「女とは何か?」という問いかける哲学的なドラマとなっており、どの作品もとても独創的である。

ⒸWOWOW

 また、劇中で流れるポップだが、どこか歪んで聴こえる音楽も長久作品の大きな特徴だ。
 今回の『オレは死んじまったゼ!』の劇伴は、長谷川白紙が担当しているのだが、ポップでユーモラスだが寂しげに聞こえる劇伴は、本作の世界観とマッチしている。
 本作の主題歌となっているザ・フォーク・クルセダーズの名曲「帰って来たヨッパライ」のアレンジも長谷川が担当している。もともと「帰って来たヨッパライ」自体が、早回しテープによるボーカルで「死」を楽しげに歌った実験的な曲だったが。長谷川のアレンジが加わったことで、歪さが強まっており、幽霊たちの物語を描いた本作にふさわしい主題歌となっている。

ⒸWOWOW

 桜田たち幽霊は一見どうでもいいような会話を延々と続けているように見える。しかも幽霊同士の関係が必ずしも良好とは言えず、常にギスギスしているので、序盤は何を見せられているのかと面食らうのだが、この一見どうでもいいようなグダグダのやりとりが次第に愛おしくなっていく。

『そうして私たちはプールに金魚を、』を映画化した理由について長久は「中学生がプールに金魚を放った」というニュースを見て「この子たちのことを一行で表現できるわけがない」と思ったことがきっかけで、映画ではあえて無駄なシーンを入れたと、WEBマガジン「HOUYHNHNM」で語っている(*)。
 あえて無駄なシーンを入れるという考え方は、おそらく全ての長久作品に通底している。そして、この「無駄」こそが作品世界を、とても豊かにしているのだ。

*『そうして私たちはプールに金魚を、』特別インタビュー。 長久允監督とNATURE DANGER GANGのふたりによる生・雑・談。

第1話無料配信中(2023年10月31日、18時まで)

今回ご紹介した作品

オレは死んじまったゼ!

WOWOWオンデマンドで全話配信中

情報は2023年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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