成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」

2024/1/23配信

漫画の実写映像化が「ついにここまで来たのか」と興奮させられる1作

Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」
©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年 原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)

 Netflixで配信がスタートした連続ドラマ『幽☆遊☆白書』(以下『幽白』)は、週刊少年ジャンプで1990年から1994年にかけて連載され大ヒットした冨樫義博の同名漫画(集英社)を実写化したものだ。

 物語は不良高校生の浦飯幽助(北村匠海)が子供を助けるためにトラックに轢かれて命を落とす場面から始まる。霊界に連れてこられた浦飯は生き返ることと引き換えに霊界探偵となって人間界で悪事を働く妖怪と戦うことを命じられる。

 原作はオカルトテイストのバトル漫画で、浦飯がケンカの腕と霊能力を駆使した技で次々と現れる妖怪と戦い、次の回では倒した妖怪が仲間に加わり、より強い敵と戦うという型で物語が展開されていく。

Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」
©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年 原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)

 これは週刊連載に特化した結果生まれた作劇手法で、全体の整合性よりも、その場その場の盛り上がりを一番に考えるというライブ感が作品の面白さに繋がっていた。そのため、各登場人物の性格や造形も話が進むごとに変化していき、明らかに後付けだろうという性格や能力の設定も多い。全19巻のコミックスの中で、キャラクターも物語も作画もどんどん変化していき一貫性に欠けるのが『幽白』の面白さであり、難点だった。

 対して、話数の短いドラマ版では人気エピソードを抽出・圧縮したオリジナルエピソードに脚色されており、全5話という短い尺を一気に駆け抜ける高密度のドラマが展開されている。

 まず第1話で驚いたのが、実写ドラマの映像としては破格となるクオリティの高さだ。冒頭の大型トラックに巻き込まれるショッキングな場面や、火事で民家が燃える映像を見て「ここまで手間をかけるのか?」と驚いた。

Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」
©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年 原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)

 本作の見せ場は妖怪同士のバトルだが、日常描写がとてもしっかりしている。

 何より素晴らしいのが舞台となる皿屋敷のロケーション。日本各地の地方都市で別々に撮影した映像を繋ぎ合わせたそうだが、原作漫画が連載していた90年代初頭の空気が感じられ、懐かしさと禍々しさが劇中に生み出されていた。

 また、主演の北村匠海を筆頭とする各俳優の芝居も素晴らしかった。
 事前に公表された浦飯たちメインキャラクターのキービジュアルが、アニメ版『幽白』の影響が強く感じられるカラフルな毛髪や衣装だったため、コスプレ感が強すぎるのではないかと懸念していたが、ドラマでは彩度を落とした暗い映像にすることで違和感をうまく消している。同時にアニメに寄せたビジュアルのキャラクターの多くは妖怪側の存在となっており、実写寄りの人間サイドとコスプレ感の強い妖怪とでリアリティの水準を意図的に分けることで、ファンタジーとリアルの融和を目指しているのだが、人間界と魔界を繋ぐトンネルを開こうとする敵と浦飯が戦う本作の世界観にハマっている。

Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」
©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年 原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)

 監督は、映画『君の膵臓をたべたい』やドラマ『そして、生きる』(WOWOW)等の作品で知られる月川翔だが、少年漫画の連続ドラマ化につきまとう学芸会的なチープさをなんとか脱しようと奮闘しており、作品のクオリティを大きく底上げしている。

 また、アクション監督は映画『HiGH&LOW』で知られる大内貴仁が担当。
 火事の中で妖怪に寄生された高校生と浦飯が戦う場面を筆頭にどのアクションも見応えのあるものに仕上がっている。人間と妖怪がただ殴り合うのではなく、ジャッキー・チェンのカンフー映画のように、LPガスボンベや自転車といった小道具を駆使した戦いが猛スピードで展開されており、空間の奥行きを感じさせるアクションとなっていた。
 月川と大内が実写ドラマとしての水準を底上げしたからこそ、禍々しい妖怪のデザインや浦飯が放つ必殺技の霊丸といったVFXを駆使したファンタジックなビジュアルとアクションが、何倍にも際立つのだろう。

 アニメにだいぶ遅れをとっていた少年漫画の実写映像化だが、『幽白』を観ると「ついにここまで来たのか」と興奮する。原作ファンはもちろんのこと『幽白』を知らないドラマファンが観ても楽しめる一品である。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」

放送
Netflixにて独占配信中

情報は2024年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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