地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
グレイトギフト
2024/2/27配信
殺人球菌に翻弄される人々の姿を描くサバイバル医療ミステリー
テレビ朝日系で木曜夜9時から放送されているドラマ『グレイトギフト』は、殺人球菌に翻弄される人々の姿を描いたサバイバル医療ミステリーだ。
病理医の藤巻達臣(反町隆史)は、検査入院中に急死した元総理大臣・愛宕克己(山田明郷)の病理解剖を行なった際に、採取した組織から、宿主を急性心不全に至らしめた後、存在自体が消滅する新種の殺人球菌を発見する。
理事長の奥野信二(坂東彌十郎)に命じられ、殺人球菌の感染経路とその性質の調査を行なうことになった藤巻だが、病院では殺人球菌による新たな犠牲者が見つかる。
果たして院内に殺人球菌を持ち込んだ犯人は誰なのか?
本作は殺人球菌を用いた連続殺人事件を病理医が追うミステリーだ。新型コロナウィルスのパンデミックと比較して殺人球菌の感染拡大を不安視する藤巻の姿が第1話で描かれたが、コロナ禍に生きる人々の不安を比喩的に描いた社会派医療ドラマだと言うのが最初の印象だった。しかし、犯人探しと感染拡大の不安以上に大きく描かれるのは、殺人球菌の存在を知った医師たちが私利私欲のために暴走していく姿だ。
藤巻を騙して殺人球菌を培養させた心臓外科医の白鳥稔(佐々木蔵之介)は、殺人球菌を神から贈られた偉大なる「ギフト」だと言い、医療界の頂点に立つために邪魔な人間を次々と殺すようになる。一方、藤巻の同期で白鳥を尊敬する心臓外科医・郡司博光(津田健次郎)も、ギフトの存在を知ると白鳥のためにギフトで邪魔者を始末していく。
他にも、藤巻のギフトを盗んで密売した事務長の本坊巧(筒井道隆)、会員制ラウンジ「アルカナム」を経営する愛宕元総理の愛人・安曇杏梨(倉科カナ)といった怪しい人物が次々と登場し、ギフトに取り憑かれた者たちのデスゲームが連鎖していく。
中でも一番怪しいのが検査技師の久留米穂希(波瑠)。彼女は藤巻に協力するバディ的存在だが、何を考えているのかわからないところがあり、殺人球菌を院内に持ち込んだ真犯人は彼女ではないかと藤巻が疑う場面も登場する。
本作を観ていると、誰も彼も怪しく見えてくるのだが、それは主人公の藤巻が気弱な中年男性で、誰が敵で誰か味方かわからない疑心暗鬼に囚われているからだろう。
藤巻を演じる反町隆史は、『GTO』(フジテレビ系)の鬼塚英吉や『相棒』(テレビ朝日系)の冠城亘といった、飄々としているが頭がキレるカッコいいヒーロー役を得意としてきた俳優だが、『グレイトギフト』の藤巻は、うだつの上がらないおじさんの悲哀が画面から滲み出ており、それがなんとも言えないユーモアと繋がっている。
ギフトの存在を知って怪物化していく人々に翻弄され、泥沼にハマっていく藤巻は視聴者の分身と言える存在で、彼の弱々しい受け身の姿が中心にあるからこそ、闇鍋のようななんでもありの展開が続いても話に説得力が宿るのだろう。
一方、脚本を担当している黒岩勉は『TOKYO MER〜走る救急救命室〜』(TBS系)、『マイファミリー』(同)、『ラストマン-全盲の捜査官-』(同)といったドラマで知られる人気脚本家。犯罪に巻き込まれ、極限状況に追い込まれた主人公が、短い時間の中で少しでも最良の選択をしようと足掻き、短い時間の中で決断して行動していく物語を黒岩は得意としている。
そのため、劇中では常に緊張感が漂っているのだが、迷いながらも即断即決でテキパキ行動する各登場人物には妙な潔さがあり、ひどい状況を描いていてもカラッとした爽快感がある。
かつて黒岩は、出世作となったドラマ『僕のヤバイ妻』(カンテレ・フジテレビ系)について「スポーツ中継のようなドラマにしたかった」と語っていたが『グレイトギフト』も、極限状態にいるプレイヤーの心理がリアルタイムで伝わってくる実況中継型ドラマだと言えるだろう。
第6話以降、物語は後半戦に入るが果たして藤巻の逆襲はあるだろうか? スポーツに熱狂する観客のような気持ちで藤巻の今後を見守りたい。
今回ご紹介した作品
グレイトギフト
- 放送
- テレビ朝日系で毎週木曜21時~放送中
- 配信
- TELASAで過去回を全話配信中、TVerで最新話ほかを1週間無料配信中
情報は2024年2月時点のものです。