成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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忍びの家 House of Ninjas

2024/4/18配信

現代の日本で「忍者」として生きる家族を描いた物語

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

 Netflixで今年2月15日から配信された連続ドラマ『忍びの家 House of Ninjas』に注目が集まっている。
 本作は現代日本で忍びとして生きる俵家の人々の姿を描いた家族の物語だ。

 自動販売機補充のアルバイトをしている次男の晴(賀来賢人)、実家の酒造を経営する父の壮一(江口洋介)、専業主婦の母・陽子(木村多江)、長女で大学生の凪(蒔田彩珠)、祖母のタキ(宮本信子)、一人だけ俵家が忍びの家であることを知らない小学生の三男・陸(番家天嵩)。

 長男の岳(高良健吾)を失った6年前の任務を最後に、俵家は忍びの世界から離れ、普通の家族として暮らしていた。しかしある事件がきっかけで、再び血で血を洗う忍びの世界に巻き込まれていく。

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

『忍びの家』は、2020年の新型コロナウィルスの世界的流行による緊急事態宣言で仕事がストップした際に、賀来賢人が監督の村尾嘉昭とのZoom飲みの席で、時間があるから企画を考えようと考えたことがきっかけで生まれたドラマだ。

 ミーティングを重ねる中で「忍者」と「家族」という題材が選ばれ、その後、俳優・脚本家の今井隆文の手を借りて仕上げた企画書がNetflixに持ち込まれた。そして、日本文化に精通した米国人監督のデイヴ・ボイルが企画を膨らませたことで企画はスタートした。

 賀来は主演兼共同エグゼクティブプロデューサーとして本作に関わっているが、本作を観て強く感じるのは、役者が魅力的に撮られているということ。

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

 忍びの物語であるため、賀来を筆頭とする出演俳優の多くは日常の芝居だけでなくアクションにも挑戦している。たとえば主婦の陽子は退屈を紛らわすために万引きを繰り返しているのだが、その手捌きは実に軽妙。結局、万引きはバレて、家族に秘密でとある任務に参加することを強制されてしまうのだが、薄幸でか弱い女性役を得意としている木村多江が、強くてユーモラスな母親を演じていることが新鮮だった。
 一方、長女の凪は大学生として生活する裏で、博物館に忍び込み貴重品を盗んでは数日後に返すという奇妙な振る舞いを繰り返している。

 凪を演じる薪田彩珠は、子役時代から是枝裕和監督の映画やドラマの常連で、近年では連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK)などの話題作に多数出演する若手実力派女優だが、今作ではアクションにも挑戦し、新たな可能性を示している。

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

 アクションのイメージがなかった俳優が、あえてアクションに挑戦しているのが本作の隠れた面白さなのだが、日常芝居がうまい役者はアクションもうまいことが本作を観ているとよくわかる。日常芝居とアクションがシームレスにつながっているのが見ていて心地よく、俳優とは凄い職業だと改めて実感した。

 監督のデイヴ・ボイルの演出もユニークで、見せ場となるアクションシーンで60〜70年代のロックを流すことで異化効果を生み出している。終盤で幻想的な描写が登場するため、ヒッピーカルチャーのサイケデリックなイメージを音楽で表現しているのだと思うが、アクションと音楽の奇妙なズレがあることで、日本政府の下部組織として忍びが暗躍するスパイアクション・ドラマという枠組みから少しだけズレた奇妙な味わいが劇中に滲み出ている。

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

 海外でもヒットしている『忍びの家』だが、タイトルにあるように「忍び」という日本独自の諜報員の活躍を「家族」の物語として描いたことが、世界中で視聴者を獲得できた最大の勝因のではないかと思う。

 黒を基調としたストイックなビジュアルと、ケレン味を抑制した渋いアクションの見せ方はマニアックで癖が強いがものの、家族を中心に据えることで万人が楽しめる普遍的なドラマとなっており、多面的な視点が盛り込まれた群像劇となっている。

 そのため大人なら父の壮一や母の陽子に、若者なら晴や凪に感情移入して楽しめる。

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

 当初はバラバラに行動していた家族の物語が、ある時点から一つにつながり、同じ目的に立ち向かっていく流れが実に見事だ。映像も脚本も隙のない見事な仕上がりである。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2024年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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