成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ハウス・オブ・ザ・ドラゴン

2024/7/5公開

『ゲーム・オブ・スローンズ』の前日譚、壮大なスケールで描く王位継承争い

©2024 Home Box Office, Inc. All rights reserved.

 6月17日。U-NEXTで『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』(HBO)の第2シーズンの配信が始まった。

 本作は2010年代に世界中で人気を博したファンタジードラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(HBO、以下『ゲースロ』)の前日譚となる物語だ。

 舞台は『ゲースロ』の約200年前。ウェスタロス大陸の七王国を統治するターガリエン王朝では、次の王座をめぐって、王の後妻・アリセント王妃(オリヴィア・クック)の派閥・翠装派と、王の娘・レイニア王女(エマ・ダーシー)の派閥・黒装派が対立を深めていた。

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 やがて王が崩御したことで、アリセントは次の王に息子のエイゴン(トム・グリン=カーニー)を据えようと戴冠を宣言。一方、父の崩御を知ったレイニラは女王として戴冠を宣言し、翠装派との戦争に備えて各国の諸侯に使者を送る。

 前作『ゲースロ』は、ドラマでは破格と言える中世ヨーロッパ風の世界を構築したビジュアルが話題となったが、物語の中心となる主人公が存在しない多視点群像劇となっていたのが、ドラマとして斬新だった。

 魔法やドラゴンといったファンタジー要素も多数登場するが、善と悪が戦う神話的な英雄譚を『ゲースロ』は拒絶しており、各登場人物は国家間の政治力学と権力欲に煽られて行動する。舞台となる世界の政治、歴史、国家も実に精密に描かれており、とてもリアルだった。その意味で純粋なファンタジーと言うよりは「ドラゴンの存在する中世ヨーロッパの歴史を描いた架空の大河ドラマと言った方が正解なのではないかと思う。

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 また、架空の世界を舞台にしているため、現代の視点からみるとアンモラルな描写も多く残酷なシーンも多い。剣と魔法の世界というと日本ではRPGの『ドラゴンクエスト』シリーズ(スクウェア・エニックス)のような異世界を舞台にした少年少女の冒険譚というジュブナイル的なイメージが強いが、ダークファンタジーと称される『ゲースロ』の世界は、現実以上に残酷で勝ったものが正しいという無法の世界となっており、エロスとバイオレンスが剥き出しとなっている。

 登場人物が多く人間関係が複雑だった『ゲースロ』と比べると『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、王座を巡って二つの勢力が衝突するシンプルな構図となっている。『ゲースロ』では最大の見せ場となっていた空を飛ぶドラゴンが描写も頻繁に描かれており、シーズン1の最終話(第10話)では、ドラゴン同士が戦う壮絶な空中戦が描かれた。

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『ゲースロ』の時代はドラゴンは絶滅していたと思われており、劇中には3体しか存在しなかったが、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』ではドラゴンが多く登場し、レイニラを筆頭にドラゴンに搭乗して戦うドラゴンライダーも多数登場する。その結果、エンタメ作品として、とても見やすくなっている。

 また、本作では劇中で時間が飛ぶ「タイムジャンプ」という手法が活用されており、シーズン1の時点で20年近い時間が流れている。ジョージ・R・R・マーティンの原作小説『炎と血』がターガリエン家の歴史を綴った年代記として書かれていることもあるだろうが、時代が次々と切り替わっていく展開によって、歴史劇としての側面がより強まっているように感じた。

 興味深いのは前日譚でありながら本作が『ゲースロ』のやり直しに見えるところだ。特にドラゴンに搭乗するレイニラは『ゲースロ』に登場した三体のドラゴンを従えて戦ったデナーリス・ターガリエン(エミリア・クラーク)を彷彿とさせるキャラクターとなっている。ドラゴンの母となった彼女が放浪の末に成長していく姿は英雄神話的で『ゲースロ』でも一番人気のキャラクターだったが、最終的に悲しい挫折を迎えることになる。

 最終章(シーズン8)は話の展開が急すぎたこともあり「作り直せ!」というファンからの反発も多かったのだが、何より一番批判されていたのがデナーリスの結末だった。

 レイニラが今後、どのように描かれるかは『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のもっとも注目すべきポイントだろう。

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今回ご紹介した作品

ハウス・オブ・ザ・ドラゴン シーズン1
ハウス・オブ・ザ・ドラゴン シーズン2

配信
U-NEXTにて見放題で配信中

情報は2024年7月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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