地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
地面師たち
2024/9/24公開
実際の不動産詐欺事件をモデルにしたクライム・サスペンスドラマ
©新庄耕/集英社
7月25日にNetflixで配信がスタートした大根仁が監督を務める配信ドラマ『地面師たち』は、土地の所有者になりすまして売却を持ちかけることで、多額の契約金を騙し取る不動産詐欺をおこなう地面師たちの物語だ。
物語は第1話で不動産企業「マイクホームズ」に10億円の不動産詐欺を仕掛ける地面師たちの姿が軽妙に描かれた後、100億円の不動産詐欺を大手デベロッパーの「石洋ハウス」に仕掛ける姿が、全7話を通して一気に描かれる。
本作の最大の魅力は、地面師という詐欺グループの大胆かつ繊細な手口が見られること。
地面師は5人で、リーダーは元暴力団幹部のハリソン山中(豊川悦司)。
交渉役の辻本拓海(綾野剛)は企業との契約を担当。
©新庄耕/集英社
法律屋の後藤(ピエール瀧)は元司法書士で交渉や仲介を担当し、拓海と共に契約の場にも同席する。手配師の麗子(小池栄子)は、土地の所有者に成り済ます人間のキャスティングを担当。図面師の竹下(北村一輝)は、ターゲットとなる土地や物件の情報を仕入れて地主の情報や土地価格の評定をおこなう。
他にも、身分証明書、公的証書の偽造やハッキングを担当するニンベン師の長井(染谷将太)。暴力的な汚れ仕事をおこなうオロチ(アントニー)など外部の協力者もいるが、基本的にこの5人の地面師の人間模様を中心にドラマは展開される。
一方、地面師のターゲットとなる石洋ハウスは、社長派と会長派の激しい派閥争いが繰り広げられており、開発事業部部長の青柳(山本耕史)は大井町の開発プロジェクトが頓挫してその代替案となる土地を探す中で、地面師たちが仕掛けた不動産詐欺の巻き込まれてしまう。
©新庄耕/集英社
社長派の青柳と専務派の須永(松尾諭)の出世争いを軸においた石洋ハウスの人間関係の描き方も日本の会社組織の嫌なところを煮詰めたようなドス黒い迫力がある。
つまり騙す方も騙される方も悪党で、悪党同士が潰し合う様子をエンタメとして昇華しているのが本作の面白さだ。
また、劇中で描かれる詐欺は、2017年に積水ハウスが55億5千万円を騙し取られた積水ハウス地面師詐欺事件をモデルとしている。この事件に衝撃を受けた大根仁は、いつかドラマにしたいと考えていた。そんな時に新庄耕の小説『地面師たち』(集英社文庫)と出会い、映像化の許可をもらいたいと直接、出版社に連絡したという。
©新庄耕/集英社
オフィスクレッシェンドに所属する大根は、師匠の映像作家・堤幸彦のフォロワーとしてキャリアをスタートし、音楽やマンガといったサブカルチャーネタを劇中に取り込んだ『モテキ』(テレビ東京系)のようなクオリティの高いマニアックな深夜ドラマを多数手がけることで注目された。
2010年代に入ると『バクマン。』や『SCOOP!』といった映画も手がけるようになるが、そこでも企画、監督、脚本の全てに関わるスタンスは健在で、自分の持ち味を細部まで反映させた作家性の高いエンタメ作品が評価されている。
近年は『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)や『エルピス -希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)のような演出としてのみ関わった作品の印象が強かったが、今回の『地面師たち』は、久しぶりに大根が企画を立ち上げ、監督・脚本を手がけたドラマとなっている。
映像のルック、役者の芝居、最後まで一気見したくなる粘りのある脚本といった永続作品としてのクオリティは突出しており、国産Netflixドラマの現時点における到達点と言って間違いない。何より最大の功績は、劇伴(劇中伴奏音楽)に電気グルーヴの石野卓球を抜擢したことで、硬質で抑制されたダークなエレクトロ・サウンドは本作の不穏な世界観に見事にハマっている。いわゆる劇伴は今回が初めてだったそうだが、今後、国内外から劇伴のオファーが殺到することは間違えないだろう。
ドラマ自体もどこか音楽的で、シーンごとに抜き出して観ても面白いし全体を通して観ても面白い。何度もリピートしたくなる怪作である。
©新庄耕/集英社
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「地面師たち」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2024年9月時点のものです。