成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!

2024/10/21公開

女殺し屋×日常! 笑いと本格的アクションが光る

 水ドラ25(テレビ東京系、木曜深夜1時~)で放送されている『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』は、二人の女殺し屋の日常を描いたアクションドラマだ。

 杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)は、殺し屋協会に所属するプロの殺し屋。格闘技と銃の腕はピカイチの二人だが、社会人としての常識と生活能力がないため、すぐにトラブルに巻き込まれてしまう。

 物語は二人が殺し屋としてのミッションを遂行するアクションパートと、料理を作ったりゲームをして部屋で和んでいる日常パートが交互に描かれるのだが、両パートがシームレスにつながっているため、観ていて飽きない。

 第1話冒頭では、殺しのターゲットとなる反社の拠点となっているファミレスで、担当マネージャーの須佐野(飛永翼)から仕事内容について説明を受けた後、二人が反社の男たちと激しいアクションを繰り広げるのだが、キッチンの狭い空間で包丁、フライパン、ウォーターピッチャー(水差し)いった小道具を駆使した接近戦闘が描かれる。

 その後、死体処理業者の田坂守(水石亜飛夢)と宮内茉奈(中井友望)が現れ、現場の隠蔽処理をおこなうのだが、殺しに発展した経緯を説明して調書に書けと言われたり、凄惨な現場について文句を言われる場面がとてもリアルで「殺し屋」という荒唐無稽な仕事に地に足のついたリアリティを与えている。

 第2話では、詐欺集団が資金洗浄の拠点にしていると噂されている居酒屋に、ちさととまひろがアルバイトとして潜入するのだが、ちさとがすぐに職場に馴染むのに対し、コミュニケーション能力が低いまひろは職場に馴染めず、自己嫌悪に陥っていしまう。

 アクションシーンに目が行きがちだが、オフビートな会話のやりとりの中に若者が直面している社会の息苦しさが描かれている。中でも労働とお金をめぐる描写は生々しく、コンビニやレストランの食べ物の値段が年々上がっていることに対して二人が愚痴を言う場面を通して、現代日本の貧困がとても切実な形で描かれている。

 本作は阪元裕吾が監督を務めている『ベイビーわるきゅーれ』シリーズをドラマ化したものだ。

『ベイビーわるきゅーれ』は劇場映画第一作が2021年に公開され、日本のアクション映画に新風を吹き込んだ。

 2023年には続編映画『べいびーわるきゅーれ 2ベイビー』が公開。そして第3作となる『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイ』がドラマ放送中の9月27日に劇場公開された。

 人気の秘密は、映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』等のスタントパフォーマーとして知られる井澤彩織と、近年は連続ドラマ『わたしの一番最悪なともだち』(NHK)などに出演して注目されている髙石あかりの、圧倒的な存在感だろう。

 一番の見せ場は、アクション監督の園村健介による格闘&ガンアクションの映像だが、ちさととまひろのグダグダとした要領を得ない会話劇が醸し出すリアルな日常描写も、近年の映像作品ではずば抜けている。

 監督・脚本を担当する阪元は28歳の若手。「殺し屋」という荒唐無稽な題材に異常な説得力を感じるのは、ちさととまひろの会話劇の背後に、今の若者から見た現代社会の描写の解像度の高さが上げられるだろう。

 そのため、阪元には連続ドラマをいつか撮ってほしいと思っていたのだが、今回の『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』は、連続ドラマ化したことで女の子の日常を描いた青春モノとしての魅力がより輝いている。

 シリーズファンはもちろん、現代の若者の気分を描いた青春ドラマを観たいという方にもオススメの深夜ドラマである。

今回ご紹介した作品

ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!

放送
テレビ東京系にて毎週水曜深夜1時~放送中
配信
U-NEXT、ネットもテレ東など

情報は2024年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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