地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
さよならのつづき
2024/12/23公開
有村架純と坂口健太郎がW主演を務める恋愛ドラマ
11月14日。全8話のNetflixシリーズ『さよならのつづき』が、一挙配信された。
本作は、恋人の中町雄介(生田斗真)を交通事故で亡くした菅原さえ子(有村架純)と雄介の心臓を移植することで一命を取りとめた成瀬和正(坂口健太郎)の奇妙なつながりを描いた物語だ。
大学職員の成瀬は雄介の心臓を移植したことで、雄介が得意だったピアノが弾けるようになり、以前は苦手だったコーヒーも飲めるようになる。そして偶然出会ったさえ子に対して、どこかで出会ったのではないかと思うようになり、次第に気持ちを通わせていく。
妻のいる成瀬は、自分の中にあるさえ子に対する暖かい気持ちは心臓の持ち主である雄介のものだと初めは思っていた。しかし、さえ子と交流を続ける中で、彼女に対して抱いている感情が、雄介のものなのか自分のものなのかわからなくなっていく。そして、さえ子もまた、自分の本当の気持ちがわからなくなり、苦しむようになる。
さえ子と成瀬、そして亡くなった雄介の三角関係は、友情とも恋愛とも言えない不思議なつながりだが、成瀬の妻・ミキ(中村ゆり)から見れば不倫と取ることもできる。導入部こそ、ワクワクする現代のおとぎ話に見えるが、じわじわとさえ子と成瀬の関係が重々しいものに変わっていき、いつの間にか出口の見えない世界に変わっているのが本作の面白さだ。
この変化は一挙配信だからこそ可能な面白さで、毎週放送されるテレビドラマだったら、全く違う印象だったのではないかと思う。
本作の脚本は岡田惠和。監督は黒崎博が担当している。
今作は二人にとって初めてのNetflix配信のドラマで、一挙配信ならではストーリーの見せ方やロケーションを多用した豪華な映像美は、これまでの作品にはない新たなテイストだと言える。
だが、それ以上に強く感じたのは、これまで岡田が手がけてきたテレビドラマと同じ手触りである。それは簡単に言葉にすることができない複雑で曖昧な‟何か”だ。
岡田と黒崎が組んだドラマというと、本作で主演を務める有村架純がヒロインを演じた連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)が有名だが、筆者が『さよならのつづき』を観て一番に思い出したのは、2012年に二人が手がけた連続ドラマ『さよなら私』(NHK)である。
本作は、高校時代からの親友である専業主婦・星野友美(永作博美)と映画プロデューサー・早川薫(石田ゆり子)の心と体が入れ替わってしまう物語。大林宣彦の映画『転校生』や新海誠のアニメ映画『君の名は。』を彷彿とさせる入れ替わりモノだが、早川が友美の夫・洋介(藤木直人)と不倫関係だったことによって、言葉にすることが難しい不可思議な三角関係に変わっていく。
『さよならのつづき』では心臓移植によるドナー(臓器提供者)とレシピエント(臓器移植を受ける側)の記憶と人格の融和、『さよなら私』では心と体の入れ替わりというアクロバティックなアイデアが用いられているが、おそらくこの二作も描こうとしていたのは、不可思議な状況ではなく不可思議な状況によって誕生した、言葉にすることが難しい人間関係だったのではないかと思う。
『さよなら私』では妻と不倫相手が夫を共有するようになるが、『さよならのつづき』でも、雄介の思い出を共有するさえ子と成瀬だけでなく、さえ子とゆりの間にも不可思議なつながりが生まれるようになる。
恋人とも家族とも友人とも言えない死者を介した不可思議な人間関係を岡田はテレビドラマで繰り返し描いてきたが、ファンタジックな設定を用いていたため、良くも悪くも思考実験の枠組みの中に収まっていた。だが例外的に、黒崎と組んだ『さよならのつづき』と『さよなら私』は、ファンタジックな人間関係を描きながらも、リアルな肉体の欲求の方が際立っている。
それは、間違っていると分かっていても身体のつながりを求めてしまう人間の悲しい性が描かれているからだろう。だからこそ黒崎と岡田のドラマは、常にエロティックなのだ。
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「さよならのつづき」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2024年12月時点のものです。