地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
海に眠るダイヤモンド
2025/1/24公開
1950年代の端島(軍艦島)をCGで再現
2024年12月22日。『海に眠るダイヤモンド』の最終回が2時間拡大枠で放送され、有終の美を飾った。
日曜劇場(TBS系日曜夜9時枠)で放送されていた本作は、2018年の東京の歌舞伎町から始まり、1955年の長崎県の端島に遡っていく壮大な愛の物語。
主演は神木隆之介。2018年の現代編ではホスト・怜央、端島が舞台となる過去編では鉄平という二つの役を演じている。謎の老婦人・いづみ(宮本信子)と出会った怜央は、彼女が語る過去の端島に興味を持ち、自分と似ているという鉄平にも関心を抱くようになる。
脚本は野木亜紀子。チーフ演出は塚原あゆ子。プロデューサーは新井順子。
この3人は連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)と『MIU404』(同)、そして今年劇場公開された映画『ラストマイル』を手掛けたチームだ。
『アンナチュラル』は法医解剖医、『MIU404』は刑事が主人公の一話完結作品で、犯罪の背後に現代社会の闇が見えるという社会派エンターテインメント作品として絶大な支持を受けた。『ラストマイル』では世界最大のショッピングサイトの物流センターを舞台に、宅配物の連続爆発事件というクライムサスペンス通して、配送業者や物流倉庫で働く労働者の苦しみを描いた。
女性差別を筆頭とする現代日本に蔓延する社会問題を描いた野木の脚本を、スタイリッシュな作り込まれた映像でありながら泣けるヒューマンドラマを演出できる塚原の演出によって極上のエンタメ作品に仕上げるという商業性と作家性の両立がこのチームの作品の魅力だ。対して『海に眠るダイヤモンド』は、日曜劇場での放送だったこともあってか、これまでの三作とは異なるテイストとなっている。
本作を観て一番に印象に残るのは、過去の端島を再現した圧倒的なビジュアルだろう。
端島は、石炭を発掘する炭鉱員とその家族が人口の大半を占める離島で、新宿駅ぐらいの大きさの土地に約5000人の人々が暮らしており、映画館等の娯楽施設も揃っていた。
インタビューによると塚原あゆ子は、現在の端島の寸尺に合わせてCGを先に作り、現場でその角度に合わせて撮影するという方法に挑戦したという。詳細はわからないが、現実の風景とセットとCGを組み合わせたかなりアクロバティックな方法だったようだ。地上波の民放ドラマとしては、画作りに破格の手間暇をかけていたと考えて間違えないだろう。
近年の日曜劇場の作品は映像に力を入れることで壮大な世界観を見せようと尽力しており、2023年に放送された『VIVANT』(TBS系)ではモンゴルでのオールロケの映像が話題になった。
対して『海に眠るダイヤモンド』は、CGを駆使して過去の風景を再現している。山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』やデビッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』などでも用いられた、とても現代的なアプローチである。
本作の端島のビジュアルが絵画的な美しさだけでなく、ゲームの世界のように島の中を歩き回れそうだと錯覚してしまいそうな奥行きのある空間感覚が存在していた。これは現実の風景とCGの組み合わせが絶妙だったからだろう。
これだけ壮大な世界観を構築する一方、物語は日常性を重視した地に足のついたものとなっている。
鉄平は炭鉱業を取り仕切る鷹羽鉱業の外勤職員として働いており、同級生の賢将(清水尋也)と百合子(土屋太鳳)、銀座食堂の看板娘で幼馴染の朝子(杉咲花)、そして進駐軍のクラブでジャズを歌っていたというリナ(池田エライザ)と鉄平の兄・進平(斎藤工)も含めた男女6人の素朴な恋愛模様が描かれる。
本作は情報量が多く、物語の時系列も入り組んでおり、あえて細かい説明をしない箇所も少なくなかった。毎週放送されるテレビドラマとしては、視聴者に対する負荷が強い作品となってしまった感は否めないだろう。
しかしだからこそ、作り手がやりたいことを全力でやりきったという熱が映像から伝わってくる。テレビ放送が無事最終回を迎え全話出揃っている今こそ、配信等で一気観したいドラマである。
今回ご紹介した作品
海に眠るダイヤモンド
- 配信
- U-NEXTにて配信中
情報は2025年1月時点のものです。