地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ホットスポット
2025/3/3公開
バカリズム脚本「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディ」
連続ドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)は山梨県にあるビジネスホテル「レイクホテル浅ノ湖」で働くシングルマザーの遠藤清美(市川実日子)が、同僚の中年男性・高橋孝介(角田晃広)が実は宇宙人だと知ったことから始まるコメディテイストのSFドラマである。
宇宙人の高橋は、身体能力や記憶力を一時的に高めることが可能で、その能力で交通事故に遭った清美を助けた。正体を他人に知られたくない高橋は、自分が宇宙人だということは他の人には言わないでくれと口止めするが、清美は地元で暮らす中学の時からの幼馴染のみなぷー(平岩紙)とはっち(鈴木杏)に高橋が宇宙人だと話してしまう。
清美たち三人は身の回りで起こる些細な問題を、高橋の力で次々と解決していく。小さな田舎町に宇宙人がいるという噂がじわじわと広がっていく様子は、SFドラマのお約束をなぞっているが、予想を裏切るあっさりとした展開が続き、ドラマチックな盛り上がりは意識的に避けられている。その結果、脱力した笑いが生まれることが、コメディドラマとしての本作の面白さだ。
脚本を担当しているバカリズムは、多数のテレビ番組にレギュラー出演する人気芸人だ。テレビドラマの脚本も多く手掛けており、2017年に手掛けた深夜ドラマ『架空OL日記』(日本テレビ系)は高く評価され、第36回向田邦子賞を受賞している。
そして、ドラマ脚本家として注目度が一気に高まったのが、2023年に放送された『ブラッシュアップライフ』(同)だった。
本作は33歳の時に事故で亡くなった女性が、来世で人間に生まれ変わるための徳を積むために、人生を何度も繰り返すSFドラマ。
「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディ」と銘打たれた本作は、タイムリープというSF的アイデアを用いた物語と、「あるあるネタ」が散りばめられた淡々としたトーンの会話劇の面白さが融和した、非日常と日常の感覚が混在する稀有なSFドラマとなっていた。
今回の『ホットスポット』は「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディ」と銘打たれており、『ブラッシュアップライフ』で展開されたSF的アイデアの設定+微温感のある淡々としたトーンの会話劇を見せるという作風も継承されているのだが、どちらかというと日常性の方が強い作品となっている。
より正確に言うと、宇宙人という非日常の存在があっさりと日常の中に溶け込んでしまうのが、本作の独自性だろう。
宇宙人が人間の中に紛れ込んで暮らしており、いつ正体がバレてもおかしくないというサスペンスを盛り上がるシチュエーションを用意しておきながら、そこにはあまり踏み込まず、清美たちの日常を淡々と描くことに重点を置いている。
その結果、高橋の存在は清美たちの日常に完全に溶け込んでいるのだが、その溶け込み方がとても自然で、異物感が全くないことに驚かされる。
コメディとして面白いから、あっさり受け入れる展開を書いているだけで、深い意味はないのかもしれない。だが、この違和感のなさは逆にとても気になる。
話が進むにつれ、ホテルの同僚の磯村由美(夏帆)や支配人の奥田貴弘(田中直樹)といった高橋の正体を知る人が少しずつ増えていくのだが、彼らは宇宙人=少し変わった人ぐらいにしか高橋のことを考えておらず、興味本位で超能力を見せてほしいと言ったり「顔のシミをとってほしい」といった、しょうもないお願いはするが、彼の力を悪用したり「正体をバラす」と脅迫するようなことは考えない。
第6話では、清美の友人・あやにゃん(木南晴夏)も高橋が宇宙人だと知るのだが、海外からの移住者みたいなものだと納得し、あっさりと受け入れる。
そんな彼女の姿を見て「多様性を受け入れるとはこういうことなんだと思った」と清美は思う。唐突に「多様性」という言葉が出てくるため思わず笑ってしまったが、本当の多様性とは、淡々としたテンションで存在を許容することなのかもしれないと本作を観て感じた。
今回ご紹介した作品
ホットスポット
- 放送
- 日本テレビ系にて毎週日曜22時30分~放送中
- 配信
- hulu、Netflixなど
情報は2025年3月時点のものです。