成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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笑ゥせぇるすまん

2025/8/15公開

令和版・喪黒福造をロバートの秋山竜次が怪演

 7月18日、Amazon Prime Videoで『笑ゥせぇるすまん』の配信がスタートした。

 本作は藤子不二雄Ⓐの同名漫画(中央文庫)を原作とする一話完結のドラマ。
 様々な悩みを抱えた現代人が、謎のセールスマン・喪黒福造(秋山竜次)と出会い、ある契約をかわしたことによって起こる悲喜劇を描いたブラックユーモアとなっている。

 脚本には宮藤官九郎、マギー、細川徹、岩崎う大(かもめんたる)が参加しており、どの話も現代的なドラマに仕上がっている。

 第1話「たのもしい顔」は、顔のせいで自信満々だと勘違いされている男・頼母子雄介(山本耕史)が、周囲から押し付けられる理想の姿を演じることに疲れ果てた時に喪黒と出会い、聖母が居るという聖堂に案内される。

 第2話「シーソーゲーム」は30歳差の恋人、肌野羽里世(斉藤由貴)と庵地英治(千葉雄大)が年齢差に悩んでいたところ、喪黒から、肌野のシワを庵地に移すことができる「シワあわせパック」を紹介される。パックの力で肌野は若返り、庵地は老けていき夫婦の見た目はどんどん近づいていくのだが……。
 この二作は宮藤官九郎が脚本を担当しているのだが、物語はコメディ寄りとなっている。

 第3話はマギーが脚本を担当した『ソックリさん』。見栄っ張りの三重岳ハルオ(本郷奏多)は、パーティーで一瞬だけ挨拶を交わした人気俳優の高嶺華(あの)とデートの約束をしたと、友達に嘘をついてしまう。その夜、ハルオは偶然出会った喪黒に高嶺華そっくりの女性・造田花(あの)を紹介されるのだが、次第に彼女自身に惹かれていく。

 第4話は細川徹が脚本を担当した『決断ステッキ』。何をするにも決断が遅くて迷ってばかりの会社員・大井真宵(黒島結菜)は、喪黒に悩みを打ち明けたところ「決断ステッキ」という杖を渡される。

 杖には不思議な力があり、たとえば合コンに行くか迷った時は二枚の紙に「合コンに行く」、「合コンに行かない」と書いて空中に投げると、杖はどちらかの紙に刺さり真宵に道を示してくれる。決断ステッキの指示どおりに行動した真宵には次々と幸福が舞い込むのだが、ある日、杖が示した選択肢とは逆の道を真宵は選んでしまう。

 どの物語も都会の寓話という印象で、喪黒に悩みを解消する手段を与えられて、瞬間的に幸福になった主人公が約束を守らなかったことで破滅的な結末を迎えるという流れは共通している。

 大人向け情報番組『ギミア・ぶれいく』(TBS系)内で1989~92年にかけて放送された10分間のアニメシリーズを筆頭に、『笑ゥせぇるすまん』は何度もアニメ化、ドラマ化されている。原作(当時のタイトルは『黒ィせぇるすまん』)が連載されたのは1969~71年という古い漫画だが、令和に舞台に変えてリメイクしても物語に説得力があるのは、偶然手に入れた幸せだけでは満足できずに、より強い欲望を抱いたことで自滅していく人間の姿に、時代を超えた普遍性があるからだろう。

 過去のアニメシリーズや原作漫画と比べるとコメディ色が強まっている今回のドラマ化だが、時代が変わっても絶対に変わらない人間の暗部に触れる手触りは存在し、だからこそ背筋が寒くなる恐ろしさがある。

 何より今回のリメイクの最大の功績は、お笑いトリオ・ロバートの秋山竜次を喪黒福造に抜擢したことだろう。

 昨年は『不適切にもほどがある!』(TBS系)や大河ドラマ『光る君へ』(NHK)に出演し、俳優としての評価が高まっている秋山だが、元々彼は架空の有名人やクリエイターを演じる「なりきりモノマネ」を得意とする芸人として怪優ぶりを披露していた。

 今回の喪黒は「なりきりモノマネ」の延長線上にある役作りだ。漫画やアニメのキャラクターと比べると巨漢で顔が日焼けしており、威圧感が増しているのだが、同時に芸人・秋山が持つ愛嬌もあるため、愛すべき不気味な怪人となっている。

 物語も面白いが、喪黒が見せる不気味さと愛嬌を秋山と各話の脚本家がどう料理しているかにも注目である。

今回ご紹介した作品

笑ゥせぇるすまん

配信
Amazon Prime Videoにて配信中

情報は2025年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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