通販生活®週刊テレビドラマ　成馬零一さんのドラマ批評　ピースメイカー

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき！」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

＞プロフィールを見る

リクエスト

ピースメイカー

2025/10/31公開

平和のためなら容赦なく殺すヒーロー

©2025 Warner Bros. Entertainment Inc. Max and related elements are property of Home Box Office, Inc. PEACEMAKER and all related characters and elements are copyrights and trademarks of DC. All Rights Reserved.

　2022年にシーズン１が配信され、今年の8月22日からシーズン２がU-NEXTで配信された『ピースメイカー』は、平和のためなら大人も子供も容赦なく殺すヒーローのピースメイカーことクリストファー・スミス（ジョン・シナ）が主人公の連続ドラマだ。

　白人至上主義者の父親に殺人マシーンとして育てられたピースメイカーは屈強な肉体の持ち主で射撃の名手。性格は粗暴で隙あらば差別的で下品なジョークを言って、周囲を唖然とさせるアメリカの白人男性のダメな所を煮詰めたような中年男性だが、父親の差別的な考えに対しては反発している。

　決して品行方正とは言えないが、ヒーローとして誠実に生きようとしている人間臭い男である。

　ピースメイカーを演じるジョン・シナは、プロレスラー出身の俳優で、まず何より鍛え上げられた肉体が印象に残るが、重そうな身体を機敏に動かし最小限の動きで敵を殺していく姿は、ヒーローと呼ぶにはあまりにも暴力的で、正義のためにヒーローが容赦なく敵を殺すという手段と目的の落差が、ヒーロー映画に対する鋭い批評であると同時に、乾いたブラックジョークとなっている。

　製作総指揮はマーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズやDC映画『スーパーマン』の監督を務めているジェームズ・ガン。

　唐突に訪れる暴力をポップな味付けで描くことによって生まれる恐怖と笑いと悲哀が混濁した『ピースメイカー』の手触りには、ガンの作家性が強く反映されている。

　父親との確執に悩む息子が内なる暴力性と向き合うという展開も、ガンが繰り返し描いてきたモチーフで、孤独なピースメイカーが心を開ける唯一の親友がワシのワッシー（英語ではイーグリー）というのも、動物好きのガンらしい設定だ。

　OP映像はシーズン１に続き、登場人物が主題歌に合わせてダンスを踊る楽しい映像だが、ワッシーもいっしょに参加しており、実にかわいい。

　残酷描写が続く殺伐とした物語なのに、音楽と映像はポップで、作品の根底に人間味と愛嬌があるため後味は悪くないというのが『ピースメイカー』の複雑な面白さだ。

　また、本作は『スーパーマン』、『バットマン』等のDCコミックスのヒーローが同じ世界で活躍する映画やドラマを製作するDCユニバースのフランチャイズ作品となっている。

　近年のアメリカン・コミックスを原作とする映像作品は、昔から活躍するスーパーヒーローたちが同じ世界に登場する壮大な物語を、映画やドラマといった複数のメディアで主人公を変えながら展開していき、ある作品では脇役だったヒーローが、別の作品では主人公として活躍する姿が当たり前のこととして描かれている。

　ピースメイカーも2021年にジェームズ・ガンが監督した映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に登場したヒーローであり、『ピースメイカー』シーズン１はこの映画の後日談としてスタートしている。そしてシーズン２は、今年の7月11日に劇場公開された映画『スーパーマン』の後の時間軸の物語となっている。

　今回のシーズン２では、ピースメイカーが異次元に繋がる装置の力で平行世界に行くことで、ありえたかもしれないもう一つの人生を体験することになる。

　この世界ではピースメイカーはヒーローとして国民から愛されている。シーズン１で殺してしまった父親や、幼少期に誤って殺してしまった兄も生きており、ピースメイカーとの関係は良好なようだ。

　しかし国内ではテロ事件が続出しており、何やら不穏な空気が漂っている。

　もう一つの世界（アメリカ）を舞台に、ありえたかもしれないピースメイカーと家族の物語をジェームズ・ガンがどう語るのか、必見である。　