地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
冬のなんかさ、春のなんかね
2026/3/6公開
一人の女性の恋愛遍歴を緊張感のある演出と演技で描く

©日本テレビ
水曜ドラマ(日本テレビ系水曜夜10時枠)で放送されている『冬のなんかさ、春のなんかね』は、一人の女性の恋愛遍歴を緊張感のある演出と演技で描く物語だ。
27歳の小説家・土田文菜(杉咲花)は、夜中にコインランドリーで知り合った美容師の佐伯ゆきお(成田凌)と仲良くなり、その夜のうちに彼の家に行き、付き合うことになる。その後、二人の交際は続いていたが、実は文菜は浮気をしており、先輩の小説家・山田線(内堀太郎)と居酒屋やホテルに行く関係を続けていた。
文菜は恋愛に対して考えすぎてしまう傾向があり、「きちんと人を好きになること」や「きちんと相手と向き合うこと」ができず、恋人がいても、別の男と浮気をしてしまう。
物語は文菜がなぜ、そのような考え方をするようになったのかを、過去に付き合った男性との恋愛模様を描くことで少しずつ解き明かしていく。
本作の第1話は衝撃だった。登場人物が少なく、基本的な物語は文菜がその時々で付き合っていた男性とのやりとりを見せていくだけなのだが、二人がデートをしている場面も喫茶店や居酒屋で向き合って喋っている場面がほとんどで、盛り上がりは抑制している。しかもその会話もとりとめのないものばかりで、ドラマを観ているというよりは、現実のカップルがデートしている姿をこっそり観察しているようで、とても生々しい。
本作を観ていると、10~20代の学生時代から社会に出て働き始めた未熟な若者だった頃に経験した恥ずかしい記憶を色々と思い出してしまう。
その恥ずかしさがある場面では冷静でいられないくらい苦しいのだが、ある場面では恥ずかしすぎて逆に心地良いという不思議な気持ちにさせられる。
各登場人物の振る舞いを観ていると他人事とは思えず、ある場面では文菜の不器用さに感情移入し、ある場面では、先輩小説家の山田線や文菜に片思いしている早瀬小太郎(岡山天音)や文菜が大学3年の時に付き合っていた佃武(細田佳央太)の中に、昔の自分の姿を見て落ち込んでしまうのだが、だからこそ目が離せない。
脚本・監督を担当する今泉力哉は映画『愛がなんだ』を筆頭に、数々の映画やドラマを手掛けているが、プライムタイムの連続ドラマは今回が初めて。
静かなトーンで淡々と役者の芝居を見せることで物語の緊張感を高めていく演出は本作も変わらないが、映画や深夜ドラマなら違和感なく成立した今泉の映像が水曜ドラマで展開されると、異物感が凄まじい。
逆に言うと『冬のなんかさ、春のなんかね』を観ていると、いかに地上波のプライムタイムのドラマが過去のお約束に囚われて自由度を失っていたかに気付かされる。
同時に本作は先鋭的な実験作では終わらず、連続ドラマだから可能なことに挑戦している。
それは第1話では理解しがたい存在に思えた文菜の内面を毎話、異なる角度から掘り下げていくことで、彼女の本当の姿に迫っていくという連続性のある物語だ。
特に第3話からは文菜が過去に付き合った男性とのエピソードを描かれるようになり、文菜がどのような経験を経て「きちんと相手と向き合うこと」ができなくなったのかを見せようとしている。
ただ、文菜の姿を観ていると彼女が人と向き合うことができない人間だとはあまり思えない。むしろ逆で、彼女は目の前の相手と真剣に向き合い過ぎてしまうからこそ、深く傷ついてしまうのではないかと感じる。
それは本作に二人芝居の場面が多く、文菜を演じる杉咲花の演技がもたらす親密感が凄いからで、むしろ本作の濃密なやりとりを観ていると、こういう風にきちんと人と向き合えたらと感じる。このあたりの演技の濃密さと内面のズレが最終的にどう着地するのかも楽しみである。
今回ご紹介した作品
冬のなんかさ、春のなんかね
- 放送
- 日本テレビ系にて毎週水曜22時~放送中
- 配信
- huluにて配信中
情報は2026年3月時点のものです。














