成馬零一さんのドラマ批評 - ザ・ボーイズ

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ザ・ボーイズ

2026/5/22公開

「最低最悪のヒーローVS人間」の最終決戦

画像:ザ・ボーイズ 1

© Amazon MGM Studios

 最終シーズン(シーズン5)が始まり、『ザ・ボーイズ』が盛り上がりを見せている。

 2019年にAmazonプライムビデオでシーズン1の配信が始まった『ザ・ボーイズ』は、アメリカを舞台にしたヒーローモノのドラマだ。

 本作のヒーローたちは、犯罪組織や敵国と戦う特殊能力者であると同時にヴォ―ト・インターナショナルという巨大企業に雇われてCMや映画に出演するセレブリティでもある。

 ある日、人気ヒーローチーム「セブン」に所属するAトレイン(ジェシー・T・アッシャー)は、特殊能力で高速移動した際に、女性に激突し命を奪ってしまう。

 恋人を殺された平凡な青年のヒューイ・キャンベル(ジャック・クエイド)は、Aトレインとヴォ―ト社に対して何もできず、強い無力感に苛まれる。そんな時にブッチャー(カール・アーバン)という謎の男に誘われて、ヒーローたちと戦う秘密組織「ザ・ボーイズ」に参加し、ヒーローたちと戦う決意をする。

 本作のヒーローは特殊能力を持った怪物だ。その圧倒的な強さと社会的身分の高さゆえに倫理観が欠落しており、一般人を間違って殺しても何とも思わない。

 そんなヒーローたちに武装した普通の人間たちが、知恵を絞って闘いを挑むという、異色のヒーローバトルドラマとして、本作はスタートした。

画像:ザ・ボーイズ 2

© Amazon Content Services LLC

 同時に描かれるのが、ヒーローたちがテレビ番組や動画サイトに出演して商品を宣伝したり、映画やテレビドラマに出演する姿。

 本作のヒーローはSNSで自分の姿を発信して人気を博しているインフルエンサーのような存在で、自身を広告塔にしてメディア露出することが求められる。

 劇中にはヒーローが出演する映画やCMが挟み込まれるのだが、その滑稽なビジュアルは、ヒーロー映画だけでなくメディアで活躍するタレントに対する強い皮肉となっている。

 そして、本作をもっとも象徴する存在が、セブンのリーダーを務めるヒーローのホームランダー(アントニー・スター)である。

 星条旗を模した衣装を身に付けたブロンドヘアの白人というホームランダーの姿は、スーパーマンやキャプテン・アメリカを思わせるスーパーヒーローだが、性格は最悪。

 自己愛が強くわがままで、常に高圧的に振る舞い、恐怖で人を支配しようとする。

 その意味で最低最悪のヒーローだが、面白いのはシーズンが進むにつれて、彼の過去が掘り下げられていき、両親に愛されなかった哀しい存在だとわかってくること。

 だが、彼の背景がわかったとしても、共感や同情の気持ちが一切湧かないのがドラマとしての『ザ・ボーイズ』の面白さだ。人間的な葛藤や弱さを描きながらも不気味さを保っているのが、ヴィラン(悪役)としてのホームランダーの魅力である。

画像:ザ・ボーイズ 3

© Amazon Content Services LLC

 物語は最終シーズンに入り、ザ・ボーイズとホームランダーの最後の闘いが描かれる。その過程でホームランダーが抱える父親のソルジャー・ボーイ(ジェンセン・アクレス)や、息子のライアン(キャメロン・クロヴェッティ)との確執が掘り下げられていく。そして、他のキャラクターも父親との関係に問題を抱えていることが明らかとなり、「父になれない男たちの物語」へと収斂していく。

 ヒーローのいるアメリカを舞台に最悪の状況を、これでもかと描いてきた『ザ・ボーイズ』だが、アメリカのドナルド・トランプ大統領がイランに対して戦争を仕掛けて以降の世界情勢を見ていると『ザ・ボーイズ』の世界以上に最悪の状況だと感じる。

 2019年から年々ひどくなるアメリカの状況を、ヒーローたちの姿を通して社会風刺劇として描いてきた『ザ・ボーイズ』だが、最後に描くのは、現実以上に最悪な絶望なのか、それとも混迷の現実に抗うような希望なのか?

 ホームランダーの末路といっしょに、最後まで見届けたい。

画像:ザ・ボーイズ 4

© Amazon Content Services LLC

今回ご紹介した作品

ザ・ボーイズ

配信
Prime Videoにて独占配信中

情報は2026年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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