伊藤ハルカさんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ONE PIECE

2023/11/9公開

7年の月日をかけてついに出航。世界的人気コミックを実写化

Netflixシリーズ「ONE PIECE」独占配信中 / (C)尾田栄一郎/集英社

『ONE PIECE』は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の尾田栄一郎氏による日本を代表する世界的人気コミックだ。伝説の“海賊王”ゴールド・ロジャーが残した“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を巡り、麦わら帽子がトレードマークの青年ルフィが仲間たちとともに大海原へと繰り出す壮大な海洋冒険ロマンで、老若男女、幅広い層にファンを持つ。

 多くのファンをもつからこそ、本作品の実写化プロジェクトは、慎重に、そして念入りに進められてきた。本ドラマシリーズのエグゼクティブプロデューサーにも名を連ねる、原作者の尾田氏は「昔は実写化は絶対に無理だと思っていた。でも今の技術ならできる」と、実写化に踏み切った背景を語っている。映像として世に出るまで、実に約7年の月日を必要とした本作。ネット上では、制作期間中の尾田氏とNetflixとのやりとりが公開されている。「僕はファンとの信頼関係がある。だから、絶対に嘘をつけない」「実写化は再現ではありません。表現です」など、これを見るだけでも、双方が本作にいかに想いを込めてきたかが伝わる。

 キャスティング、CG技術や大規模なセット、衣装などの美術、ヘアメイクなど、関係者全員が一切の妥協を許さなかったことが、この作品を見ると伝わってくる。大海原を舞台に大暴れする海賊たち、彼らが立ち寄るユニークな島の数々、仲間たちとの出会い、そして繰り広げられる乱闘など、原作で描かれるダイナミックな世界観が、ドラマシリーズでも違和感なく、そのまま表現される。どこを切り取っても完璧な完成度だ。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」独占配信中 / (C)尾田栄一郎/集英社

 特に掘り下げて紹介したいのはキャスティングだ。麦わら帽子がトレードマークの主人公ルフィを演じるのは、メキシコ出身の俳優イニャキ・ゴドイ。幼い頃にメキシコのミュージカル演劇学校で学び始め、演技、歌、ダンスを習得。舞台の出演作にはミュージカル「リトルマーメイド」「美女と野獣」「グリース」などがあるほか、メキシコ制作のNetflixシリーズ「そしてサラは殺された」(2021)でブルーノ役を務めたことも有名だ。

 キャスティングチームは、オーディションで彼を見た時に「彼しかいない」と感じたそうで、のちに「彼と出会えたことが本当にラッキーだった」と話す。原作者の尾田氏も「ルフィ役は君以外に想像できない」とイニャキを絶賛。制作チームがラブコールを送るイニャキ自身も、「(尾田栄一郎)先生のONE PIECEで世界中の人が幸せになっています。ルフィを演じられるのは夢のようです。全身全霊を捧げたいと思います」と、作品やキャラクターへのリスペクトを語っている。

 実際に、イニャキが演じるルフィは、夢と野望に満ち溢れるまっすぐでパワフルな原作のルフィそのもの。イニャキには、キャラクターをより身近に感じさせる力がある。

 そのほか、ルフィ率いる麦わらの一味として、世界一の大剣豪を目指すゾロ、元海賊専門の泥棒ナミ、臆病でお調子者なウソップ、コックのサンジがドラマシリーズには登場する。

 一筋縄ではいかない仲間たちの中でもひときわ目立つのが、ブルーヘアが印象的な大剣豪のゾロだ。演じるのは、日本での知名度も高い俳優の新田真剣佑で、彼自身『ONE PIECE』を読んで育ったことを後のインタビューで語っている。中でもゾロは一番好きなキャラだそうで、演じるにあたって三刀流の殺陣を鍛錬したらしい。冒険ドラマである一方で、アクションシーンも多分に含む本作。その多くは、ゾロによるもので、どう戦えばよいか検討のつかない強敵を相手に、刀を両手に立ち向かうゾロの圧巻のアクションシーンも必見だ。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」独占配信中 / (C)尾田栄一郎/集英社

 小ネタとして、ドラマシリーズを視聴する時、日本語字幕版もいいけれど日本語吹き替え版での視聴もおすすめだ。なぜなら、それぞれのキャストの吹き替えをアニメシリーズでおなじみの声優陣が担当しているからだ。

 田中真弓(ルフィ役)、中井和哉(ゾロ役)、岡村明美(ナミ役)、山口勝平(ウソップ役)、平田 広明(サンジ役)をはじめ、ルフィが海賊王を目指すきっかけとなるシャンクスや大海賊時代をもたらした海賊王ゴールド・ロジャー、海軍の英雄と言われる伝説の海兵・ガープや海賊船の雑用として働くが、誰にも負けない正義感を胸に秘める青年コビー、コビーをこき使い、ルフィと対峙することとなるアルビダや“斧手のモーガンなど、アニメシリーズと同様の豪華声優陣が集結し、日本語吹き替えを担当している。懐かしのキャラクターの再演もアニメシリーズのファンからすると興奮するポイントだ。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」独占配信中 / (C)尾田栄一郎/集英社

 もしかすると、「原作を読んでいないと楽しめないのでは」と思う方もいるかもしれない。結論、そんなことはないので安心してほしい。タイムラインが丁寧に描かれ、キャラクターそれぞれがしっかりと深堀りされているため、前提知識がなくとも十分に楽しめる。

 特に、ルフィの唯一無二なカリスマ性には改めて驚きを隠せない。海を冒険した経験さえないのに「海賊王に俺はなる!」と目をきらきら輝かせながら叫ぶルフィ。仲間に誠実、そして冒険心を胸に夢に向かってひたすらに突き進むまっすぐさ。裏切られても裏切らない、そして失敗を恐れないルフィを見ていると、自分もなんでもできる、そんな気にさえなってくる。

「海賊には平穏も計画も必要ねェ。冒険と自由があればいい」や「楽だと感じたら、その選択は間違ってるんだよ」など、本質をつくルフィのセリフも多数登場。それらは時に私たちの背中を押してくれたり、大切なことを思い出すきっかけを与えてくれたりもする。

 目の前に広がる壮大な大海原に、自分自身もルフィとともに大海原の大冒険に繰り出したような没入感を楽しめる本作。ルフィのまっすぐで力強い言葉にときに心動かされることも。視聴後の爽快感が癖になる海外ドラマだ。

今回ご紹介した作品

ONE PIECE

配信 Netflixで独占配信中

情報は2023年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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