能登半島地震が直撃した志賀原発を、再稼働しても本当に大丈夫なのですか。 能登半島地震が直撃した志賀原発を、再稼働しても本当に大丈夫なのですか。
解説/添田孝史
(サイエンスライター)

2024年1月1日の能登半島地震では、同半島の主要ルートが広範囲で通行不能になり、孤立状態に陥る地域が続出しました。建物被害も深刻で、住宅被害は5万戸以上。揺れの激しかった珠洲市では4割超が全壊したとされています。幸い、北陸電力志賀原子力発電所は大事に至りませんでしたが、避難経路や事前の想定に問題はなかったのでしょうか。この地震大国で原発を動かして本当に大丈夫なのでしょうか。原発と地震の関係にサイエンスライターの添田孝史さんに、引き続きお話を伺いました。

前編

外部電源を使うための変圧器で大量の油漏れが発生。

図提供/原子力資料情報室(クリックすると拡大します、以下同)。

──今回の地震が起きた能登半島の西側には北陸電力志賀原子力発電所があります。同原発には1、2号機の2基の原子炉があります。どちらも東京電力福島第一原発事故があった2011年3月以来停止中ですが、外部電源を使って、使用済み燃料プールで1657体の核燃料を冷却しています。地震のあと志賀原発で問題は起きなかったのでしょうか。

添田
今回の地震によって、外部からの電源を原発施設で使うための変圧器で大量の油漏れが起きるなど複数の変圧器が使えなくなり、系統の一部を別の系統に切り替えるといった対応が必要になりました。また非常用ディーゼル発電機も、一時的に操作ミスで停止しました。

──変圧器の破損や非常用ディーゼル発電機の一時停止などと聞くと、同じように外部電源が喪失した福島第一原発のような「最悪の事態」を想像してしまうのですが……。

添田
原子力規制委員会はこうした電源の問題について、外部電源がなくなっても非常用ディーゼルがあるので問題ないとしています。

──志賀原発の揺れは震度5強でした。このくらいの揺れで、一部とは言え外部電源が落ちてしまうのは、設計や設備に問題があるからでしょうか。

添田
確かに非常時の電源の多重化はしているので、「設計思想」としてはそれでいいという考えなのでしょう。でも2007年の新潟県中越沖地震では、東京電力の柏崎刈羽原発の変圧器から出火して、火災になった映像がテレビにも映し出されました。今回も同じようなことが起きたわけです。設備的に大きな問題がなかったかどうかは現時点では分かりませんが、柏崎刈羽原発では、新潟県中越沖地震から14年も経った2021年になって、核燃料や大型機器の搬入搬出をするための建物を支える地下の杭に損傷が生じていたことが分かりました。原発の施設はとても大きく、複雑なため、問題があってもすぐに分からないことも多いのです。今回の志賀原発についても、これから詳しい調査をするなかで問題が見つかる可能性がないとは言い切れません。何年も後に問題が出てくるかもしれません。

最大約2メートルの段差が2キロにわたって生じる。

──能登半島地震は、地形が大きく変わるほどの揺れでした。あちこちで地面が隆起し、場所によっては隆起が4メートルにも及んでいます。志賀原発の構内では大きな変動はなかったようですが、もし地盤沈下が起きていたら大事故につながっていたのではないでしょうか。

添田
原発の運転には原子炉などを冷やすための大量の海水が必要になります。その取水に影響が出ない程度のなだらかな隆起なら問題ないと思いますが、ズドンと段差が出るのはまずい。だから原発の審査では敷地内の活断層にこだわるのです。断層がずれて、もし何十センチも段差ができたらさすがに建物や設備が耐えられないだろうと。例えば、原子炉建屋とタービン建屋の間がズレてしまったら、最も重要な配管が破損し、場合によっては放射能漏れが起きるかもしれません。

──今回の地震では、揺れで原発の設備が大きく損傷することはなかったのですが、今後も問題はないのでしょうか。

添田
「分からない」としか言えません。実は今回の地震では、活断層が見つかっていなかった場所で最大2メートルくらいの段差が長さ2キロにわたって生じたんです。何もないところで突然、2メートルの崖ができるようなものです。地震の時に隆起する側の地盤では、こういうことが起きても不思議はないという地震学者もいます。

──今回の地震は海底が震源でした。海だと分からないことも多いのでしょうか。

添田
海底の活断層の調査は、調査に使う機材が小さくなり小型船が使えるようになったため、詳細に調査できるようになりました(下図を参照)。しかし、そうなったのは2007年の能登半島沖地震の後です。今回の地震を引き起こした活断層も、見つかったのは2010年です。長く調査の空白域でしたが、調べてみたら、沿岸の近くで大きな活断層が発見されたというわけです。

中部電力資料より

コストを下げるために地震規模の想定を甘くしたい電力会社。

──ところで、震源間近の珠洲市でも、かつて原発が計画されていました。今回の地震の後、当時の反対運動をしていた人のところに「計画を止めてくれてありがとう」という連絡がたくさん入ったそうです。

添田
原発を造っていなくて、本当によかったと思います。2006年に営業運転を開始した志賀原発2号機の設置変更許可申請書を見ると、海側の活断層がほとんど明記されていない(下図を参照)。今回の地震で動いた活断層も入っていません。つまり、調査ができていないということです。

志賀原発2号機の設置変更許可申請書より

──今回の能登半島地震では、すでに知られていた活断層の連動が問題になりました。

添田
北陸電力は2023年10月に規制委員会へ提出した資料で、複数の活断層が一緒に動く「連動」をした場合の長さは、いちばん長くなった場合で96キロメートルだと説明していました。ところが今回は、連動しないと考えられていた活断層も一緒に動きました。その全長は約150キロメートルにもなります(下図を参照)。ここまで長くなる活断層の連動はなかなかありません。活断層の連動が長くなれば、当然、地震の規模も大きくなります。

図提供/共同通信社

──別の活断層が連動するかどうか、判定の基準はあるのですか。

添田
原発の審査では、それぞれの活断層が基本的に5キロ離れていれば連動を考えなくていいことになっています。しかし今回は、17キロ離れている活断層も連動しました。

──どうしてそのような評価になってしまうのでしょうか。

添田
活断層が連動すると地震の規模が大きくなりますが、それに見合うように原発の耐震性を上げると、コストがかかります。電力会社としては、それは避けたい。だから活断層を細切れに評価しようとする傾向が続いていました。今回の能登半島地震を引き起こした活断層に関する北陸電力の予測も、「電力業界の水準」から取り立てて甘くしたのではないと思います。でも結果は、予測から大きく外れていました。

──それだけ予想を外して、大きな問題にならないのでしょうか。

添田
今後は、連動について相当に厳しく検証しないといけないかもしれません。活断層の連動は、原発ができた1960 年代からずっと、電力会社が頭を悩ませてきたテーマです。連動を想定すべきだと考える研究者と、連動させたくない電力会社との間では戦いが続いています。2007年の新潟県中越沖地震や、同年に起きた能登半島地震でも、電力会社の想定を超えて大きな地震になりました。今回の能登半島地震で、電力会社の想定が今でも甘いことが見えてしまった。原子力規制委委員会がこれをどう評価し、今後の審査に反映させるのか、注意深く追う必要があります。5キロまでの連動想定では足りない、20キロ離れていても連動を考える必要があるというようなことになれば、今動いている原発の審査がやり直しになる可能性もあります。

取材・構成:木野龍逸/協力:フロントラインプレス

後編

石川県は地震による「道路の損壊は1ヵ所だけ」と想定。

──能登半島地震では多数の家屋が倒壊したと同時に、道路が寸断されて奥能登地方の町や集落が多数、孤立しました。原発事故時の避難は福島第一原発事故の時も問題になりましたが、避難計画に実効性がないことを再び見せつけたのではないでしょうか。

添田
今回の地震でまっさきに思ったのは、そのことです。石川県の防災計画によると、原発事故があった時の主要な避難ルートに、金沢市と能登半島を結ぶ「のと里山海道」を想定していました。しかし、のと里山海道は地割れや崖崩れなどの影響で、一時全面通行止めになったのです。他の道路も被害が大きく、住民は安全に移動できない状態でした。これまでは壊れにくいと考えられていたトンネルも崩落しています。

土砂で寸断された能登半島の主要ルート国道249号線(写真提供/共同通信社)。

──石川県は昨年11月に原発事故の避難訓練を実施しています。どんな内容だったのでしょうか。

添田
震度6強の地震で志賀原発が事故を起こしたとの想定です。その避難訓練では、道路の損壊は1ヵ所だけと想定していました。これに対して「志賀原発を廃炉に!訴訟原告団」などの市民団体は、今回の地震の40日前に、実際の地震では道路の損壊が広範囲に及ぶ可能性があると指摘していました。さらに多数の家屋倒壊の可能性があるとして、「重大事故が起こっても、あたかも住民が皆安全に避難できるかのような、まやかしの訓練」だと批判する声明を出していました。どちらが正しかったかは明らかです。

──避難計画は、法的には原発再稼働の条件にはなっていませんが、国の原子力災害対策指針も避難計画の策定を求めています。

添田
原発のリスクを最小限にする方策は「深層防護」という考え方です。全部で5層の対策のうち、最終段階の第5層では、住民の安全を確保できるよう避難計画を整備しておく必要があります。しかし、いくら計画があったとしても、今回の地震は「石川県では避難は無理」という現実を示しました。道路が寸断されて外へ逃げることはできない。家が壊れて屋内退避もできない。つまり、原発事故から人命を守るための「深層防護」が成り立たないことになります。

道路の寸断と家屋の倒壊で避難できない。

──東海第二原発(茨城県)の運転差し止め訴訟では、避難計画の不十分さを理由に原告の請求が認められました。人口の多い日本で避難計画を機能させるのは無理に思えるのですが。

添田
家はともかく、道路がもたないのではないでしょうか。地震の後に、大勢の人がすんなり避難できると思うほうがおかしいと思います。原発事故の原因には、操作ミスや故障といった内部事象と、自然災害などの外部事象があります。以前、東電を取材した時に、東電の計算による発生確率では、外部事象が内部事象よりも一ケタ高いことが分かった。日本の場合は、原発事故の原因はほぼ外部事象、つまり地震や津波なのです。しかも、その場合には道路の被害は避けられないわけで、果たして第5層の避難計画は機能するのか、疑問です。

──原子力規制委員会の山中伸介委員長は2月14日の記者会見で、原子力災害対策指針で屋内退避を求めるケースは道路や家、避難施設が壊れていないことを前提にしているのであって、その時に家屋や道路が「どうなっているかは我々の範疇外」と答えています。

2月14日、記者会見する山中伸介・原子力規制委員会委員長(写真提供/共同通信社)。

添田
地震対策は地域防災計画でなんとかしてください、壊れない家や道路にしてください、ということですよね? 国の指針で屋内退避をすることにしているから、「家が壊れないことにしないといけない」という論理なのでしょうけど、無理ですよ。福島第一原発事故の前の、原子力安全・保安院の考え方に近づいているように感じてしまいます。

──それはどういう意味ですか。

添田
東京電力福島第一原発事故の1年前に保安院の審議官が上司の保安院長とやりとりした内容を部下に知らせたメールに、「貞観地震(平安時代の869年に発生)の再来を想定して津波を計算すると福島第一のプルサーマル(編集注:ウラン燃料のリサイクル)が予定通り進まないので経産省に怒られる」という趣旨のものがあります。貞観地震の津波は、福島第一原発で想定している津波の高さを超えてしまうので、それが露見して原発の運転が出来なくなる事態を規制官庁の側が恐れたわけです。だから考えない、見て見ぬふりをすることにした。今回の能登半島地震では、地震によって避難計画が機能しないことが分かったにもかかわらず、それは自分たちでは考えないという。今回の山中委員長の発言は、当時の保安院と同じ臭いを感じます。

M7以上の地震地域での原発の数は世界で日本が断トツ。

──でも、どうして石川県では道路の損壊が1ヵ所という甘い想定になっていたのでしょうか。

添田
石川県の地域防災計画で、「津波」については、能登半島北岸に沿った海底活断層がマグニチュード7.6で動くと想定していました。活断層の位置と規模は、今回の地震をほぼ予測できていたわけです。ところが、同じ防災計画でも「揺れ」については、マグニチュード7.0の活断層しか想定していなかった。0.6も差があります。マグニチュードは1違うと、地震のエネルギーは約32倍になり、2違うと約1000倍になります。0.6の差は、とても無視できるものではありません。「揺れ」については、活断層の位置も間違っていて、能登半島から十数キロ離れた沖合での地震を想定していました。これでは陸地の「揺れ」はぐんと小さくなってしまう。「津波を起こす活断層」と、「揺れを起こす活断層」の位置と規模が違っているなんてバカげた矛盾を、石川県は十数年も放置したままでした。最近、見直し作業を始めましたが、結局、間に合わなかった。見直しをしなかった理由について石川県は、政府の地震調査本部の評価が終わっていなかったためと説明していますが、2005年に政府評価が終わっていた邑知潟(おうちがた)断層という大きな活断層も石川県の揺れ想定の中に十数年も取り入れていなかった。県の説明は辻褄が合っていません。

──石川県には志賀原発があるので、地震の被害想定が大きいと電力会社にとって都合が悪いのではないかと勘ぐる人もいます。

添田
どうなんでしょうね。そこは石川県にきちんと説明してほしいと思います。隣の富山県では、同じ邑知潟断層を被害想定に含めています。なおさら石川県が長い間、放置した理由が分かりません。

──活断層の存在を無視した地域防災計画というのは、全国で他にも例があるのでしょうか。

添田
全部を調べたわけではないのですが、原発が7基も再稼働している若狭湾を抱える福井県は、いくつもある活断層の一部しか地域防災計画の対象にしていません。隣の京都府が想定に含めているのに、含めていない活断層もあります。大飯原発(福井県おおい町)の目の前にある「F53」という活断層がそれです。なぜこういうことになるのか、とても不思議です。

──日本は地震大国ですが、原発も多い。この状況をどう見ていますか。

添田
能登半島地震の後、世界で大きな地震が起きている地域と、原発の立地場所を重ねた地図を作ってみました(下の図)。これを見ると一目瞭然です。マグニチュード7以上の地震が起きている地域に原発を造っている国では、日本が圧倒的に多い。日本のほかは台湾と、アメリカの西海岸くらいです。

M7以上の地震発生地域と原発立地場所
図は添田さんの提供。

──今回お話を伺って、「原発を安心して動かせるほど、地震のことが分かっていない」ということがよく分かりました。

添田
日本海側は地震を起こしやすい「歪み集中帯」と言われている地域です。でも、それが詳しく見えてきたのは2000年代になってからです。1995年の阪神・淡路大震災以降、マグニチュード7クラスの地震が起きるたびに活断層や、それが起こす揺れの性質について新しい発見があります。17キロメートルも離れた活断層が連動するというのは、能登半島地震での発見です。日本で原発が増えたのは、たまたま地震の静穏期でしたが、今は違います。南海トラフ地震前の活動期とも言われています。その中で、何十年も前の地震学の知識をもとに設計された原発の危険性が明確になってきたわけです。新しい原発を造るという話もありますが、安全対策を徹底すると1基で3兆円近くもかかる。東電福島第一原発事故の前の10倍近い値段です。それなら再生可能エネルギーの方が安くできるのではないでしょうか。

取材・構成:木野龍逸/協力:フロントラインプレス

そえだ・たかし

元朝日新聞記者。原発と地震についての取材を続け、2011年5月に退社しフリーに。東電福島原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当。著書に『原発と大津波 警告を葬った人々』『東電原発裁判―福島原発事故の責任を問う』(いずれも岩波新書)、『東電原発事故 10年で明らかになったこと』(平凡社新書)などがある。