今月のSDGsの服 漁網を回収してつくった再生ナイロンで、春に重宝するコートとバッグができました。

『通販生活』早春3・4月号に掲載している
『オーシャンナイロンジャケット』と『オーシャンナイロントート』。
その原料となっているのは、使い捨ての漁網です。
この漁網のリサイクルに取り組んでいるのは、メーカー・モリトアパレルの船崎康洋さんです。
静岡県下田市の漁港で、回収した廃漁網に混ざった釣り針やゴミの除去作業をする
船崎さんにお話を伺いました。

船崎康洋さん

――なぜ漁網をリサイクルしているんですか?

 漁網の素材は丈夫なナイロンです。大量の重い魚を捕まえても切れないし、魚の脂で劣化することも少ない。この丈夫さが仇となって、海に流れ出てしまったら、分解されるまでかなりの時間がかかると言われています。
 使い終わった漁網は産業廃棄物として処分する決まりですが、小さな船で漁をしている漁師さんにとっては、数十万円かかる処分費の負担はむずかしい。浜辺で保管しているうちに、台風で海に流出してしまうこともあります。そこで海に流れてしまう前に漁師さんから回収する事業に取り組んでいます。

今回取材したのは静岡県下田市の漁港。

漁港はすぐそばに道の駅や定食屋さんがあり、新鮮な海の幸が食べられる。

――なぜ下田なのでしょう? 漁網を回収しやすいのでしょうか?

 下田の金目鯛は毎年1000トン以上が水揚げされており、日本一の漁獲量を誇ります。漁網再生プロジェクトのために、全国の漁港をめぐりましたが、下田は1年を通して金目鯛漁を行なっているので、安定して漁網を回収できる点がありがたいです。
 いまでは同じく漁が盛んで入漁網が多く回収できる北海道などを含め、年間400トンの廃漁網を回収できています。効率よく再生ナイロンがつくれる仕組みをつくって、ゆくゆくは全国に広げていきたいと考えています。

写真のズダ袋1つ1つに漁網が詰まっている。これから再生ナイロンになる「宝の山」。

 ただ、最初は協力してくれる漁師さんを探すのに苦労したんですよ。
 このプロジェクトを始めた2017年は環境問題が現在ほど知られていないため、廃漁網が原因になる海洋プラスチック問題も理解を得にくかったのです。また、漁網についた細かいゴミの除去や置き場所の指定など、漁網の回収前に漁師さんにお願いしなくてはいけない工程が多く、『そんなことまでしなきゃいけないの?』と面倒がられることもありました。もっとはっきり『邪魔』と言われたことも……(笑)。
 回収した漁網からリサイクルされた糸で実際にバッグなどをつくってお見せすると、協力してくれる漁師さんが少しずつ増えていきました。協力してくれた漁師さんから『漁網を使った商品を孫にプレゼントしたい』と言ってもらえた時は嬉しかったですね。

釣り針やゴミを取り外す前の廃漁網。作業中は軍手が必須。

――この釣り針を取り除く作業、漁網の大きさを考えると気が遠くなりそうです。機械化はできないのでしょうか?

 漁網はぐるぐると巻き取って海から引き上げられるため、どうしても不規則に絡まってしまいます。また、漁網は海水や潮風に触れているため釣り針が錆びやすく、触るだけで折れてしまうことも多くあります。ここから釣り針やゴミだけを取り除くことは機械では難しいため、1つずつ手作業で取り除いて、初めて漁網を再生ナイロンの原料として使えるようになります。

再生ナイロンのペレット(左)と、実際に再生ナイロンから作られた小物入れ(右)。

――この作業が終わったらどうするのでしょう?

 不純物を取り除いて洗浄した漁網は、加工しやすいように切って、溶かして混ぜ合わせたペレットをつくり、それを糸状に加工して再生ナイロンに生まれ変わります。
 実は私、以前は漁網の回収もしていましたが、現在は漁網ナイロンをはじめ、再生生地を使った繊維製品の開発を担当しています。今回『通販生活』さんで販売している『オーシャンナイロンジャケット』『オーシャンナイロントート』も私の企画です。『環境に優しいから』いって手に取っていただくというよりは、まず『おしゃれだな』『素敵だな』と思っていただけるものに仕上がったと自負しています。
 ただ、まだまだ課題も多いです。現時点では製品化するときの再生ナイロンの割合は10%しかありません。20%、50%と増やすことは技術的には可能ですが、製造コストがかかるため、出来上がった製品が高価になってしまいます。コストを下げながらリサイクル率を高めていくことが次の目標です。