第2回
ピープルツリーの
リサイクルサリークッションカバー
ピープルツリー
環境問題と貧困問題を解決するために1991年から活動を開始した、フェアトレード専門ブランド。会社名はフェアトレードカンパニー。
オーガニックコットンをはじめとする天然素材を用いた、手仕事によるフェアトレード・ファッションの先駆者として、世界的に知られている。
ウェブ限定・50個限定で販売中
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衣類・雑貨商品企画
シニアマネージャー
上田真佐子さん
2000年の入社以来、インドやバングラデシュ、ネパールの生産者グループを数多く訪問し、フェアトレードのものづくりに携わってきた。商品開発、仕入を担当している。
途上国の人たちと協働しながら
商品を生み出してきた。
2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で8階建てのビル「ラナ・プラザ」が崩落した事故を覚えていらっしゃるでしょうか。ラナ・プラザには欧米で人気のあるファッションブランドの縫製工場がいくつも入っていました。この事故では1100人以上もの犠牲者が出ましたが、その多くが縫製工場で働いていた女性たちでした。
「最悪の労働災害」とも言われるラナ・プラザ崩落の現場。
(写真:ZUMA Press/アフロ)
「効率」や「コストカット」を重視する安価なファッションブランドの商品が大量消費される裏側で、途上国の生産現場では労働者がずさんな安全管理のなか、過酷な労働環境を強いられている。そんな状況が事故によって明るみに出ました。
ピープルツリーでは大量生産品とは正反対の「職人の手仕事によるモノづくり」を大切にしています。
手仕事でつくられたモノには、そこはかとないぬくもりや安心感があります。たとえば、ひと針ひと針、ていねいに刺し込まれた刺繍には、無機質で均一な機械の刺繍にはまねできない魅力があるのです。
それらを適正な価格で売ることができれば、途上国の生産者が大量生産のシステムに組み込まれることなく、自らの技術と能力で生活を守ることができる。これがフェアトレードです。
ピープルツリーでは、まだ日本ではフェアトレード自体がほとんど知られていない90年代から途上国の生産者を直接訪ねて、一緒に服やバッグ、小物類のオリジナル商品を開発してきました。
バングラデシュで女性職人たちと。
手に持っている紙に書かれた「Happy Life」は、彼女たちが書いてくれた将来の夢。
バングラデシュをはじめとして、インド、ネパール、フィリピン、ケニア……協働する生産者団体は、いまでは18ヵ国、145団体にもなります。
私も2000年に入社して以来、おもにバングラデシュ、インド、ネパールの生産者団体と商品を開発してきましたが、これはとても根気のいる仕事です。
フェアトレードを広めるためにも、お客さまにチャリティーではなく、本当に気に入って買っていただける魅力的な商品をつくらなければなりません。
ところが、手仕事ですから職人の能力次第で商品の質にばらつきが出やすい。たとえば、小さな村に暮す生産者たちは民族衣装を身にまとい、体にぴったりした服を着る習慣がありませんから、サイズが1センチ違っても気にならない。土間で編み物をすればわらが混じることは普通かもしれない。
でも、どれも日本のお客さまには受け入れられません。
日本の基準を理解してもらうために、返品になったものを生産者に見てもらい、どこがいけなかったのかを細かく説明しても、はじめはわかってもらえないこともあります。だから何度も説明します。
生産者たちから「もうたくさん!」「そんな完璧なモノをつくるのはムリ」と泣きそうな顔で言われることもありますが、あきらめずに何度も説明します。こうしたコミュニケーションの繰り返しで、生産者の技術と商品の質が上がっていきます。
子どもと離れて暮すことなく働ける職場。
生産者との協働は、たいへんやりがいのある仕事でもあります。
バングラデシュ北西部の農村地帯に位置するサイドプールという町に、1970年代から活動しているサイドプール・エンタープライズという生産者団体があります。ピープルツリー草創期からのパートナーで、私も入社以来のお付き合いです。
サイドプール・エンタープライズで働く女性たち。
子どもたちにはちゃんとした教育を受けさせたくて働く女性も少なくないです。
サイドプール・エンタープライズでは現在70名の女性が働いていますが、彼女たちの中には夫が突然、家族を置いていなくなってしまったり、夫の収入がほとんどなかったりで、一家の収入を支えることになった女性も多くいます。
バングラデシュは国民の約9割がイスラム教徒で、男性は4人まで妻を持てる一夫多妻制の社会。昔から女性の立場が弱く、特に地方や農村では女性が安定した仕事に就くのは非常に難しいのが現状です。
もしサイドプール・エンタープライズのような生産者団体がなければ、多くの女性たちは子どもと離れてダッカなどの都市へ出稼ぎに出ることになります。都市へ出ても労働環境が劣悪なファッションブランドの縫製工場や、男性に交じって日雇いの工事現場で働くことがほとんどです。
その点、サイドプール・エンタープライズの工房で働いていれば、子どもと離れて生活する必要もありません。まだ小さい子どものいる女性であれば自宅勤務で刺繍をすることもできます。
賃金の面では、ダッカなど都会の縫製工場で働く場合は基本給が4000タカ(1タカ=1.36円として5440円)、夜遅くまで残業しても7000〜8000タカくらいと言われます。ただ、これでも何かとお金のかかる都会の生活費としては余裕がありません。
サイドプール・エンタープライズの工房であれば最低でも7000タカ、さらに職場が支援する技術研修を受けて、より熟練者になれば8000〜1万タカを得る人もいるので、十分に家族との時間を取りながら金銭面でも余裕が出てきます。
6年前にできたサイドプール・エンタープライズの工房。
「妹を大学に通わせることができた」
「年老いた親の治療費を払うことができた」
「娘の結婚資金ができた」
「息子が食料品店を開くのを援助してあげられた」
「5ヵ月分の給料を使って、家の屋根のふき替えをすることができた」
働いている女性たちからこんな話を聞くと、一緒に開発した商品を日本で販売するという私たちの仕事が、彼女たちの生活の質を上げることにつながっているのだと実感できて、最高にうれしいです。
今回ご紹介いただく『リサイクルサリークッションカバー』は、このサイドプール・エンタープライズの女性職人たちがつくりました。
サリーというのはバングラデシュの民族衣装で、5~8メートルもある長い一枚布でできています。
サイドプールのあるベンガル地方では、「ノクシカタ」という伝統的な刺繍の技法があり、その基本になるのが布を何枚も重ねて刺し子をする「カタ」というステッチです。着古したサリーの生地を何枚か重ねて刺し子刺繡をして、ベッドカバーやテーブルクロスに再生させる。暮しの知恵から生まれた技法です。
このクッションカバーは、さまざまな柄の生地をパッチワークのように縫い合わせて重ね、「カタ」ステッチを加えました。パッチワークにしたのは、柄と柄の組み合わせの妙を楽しむことができますし、小さな端切れでも使えるので生地を無駄にすることがないからです。
女性職人がひとつずつパッチワークの柄の組み合わせを考える
『リサイクルサリークッションカバー』は、すべてが一点物です。
サイズや重ねる生地は3枚にする、といった規格はピープルツリーのデザインチームが決めましたが、どんな色、柄の生地をどういうふうに組み合わせるかは、つくり手の女性職人の感性に任せています。
「こういうのが人気だよね」「こういうのが素敵じゃない?」などの会話をしながら、一人ひとりの職人が一番良いと思う組み合わせでつくっていくので創作意欲が刺激されて、楽しく仕事に取り組めるようです。
仕事をするときは工房に来たり、自宅で家事の合間にやったり。家事や育児と両立しながら仕事ができるよう、それぞれのライフスタイルに合わせて働いてもらっています。
新型コロナだけでなく、最近の世界的なインフレや円安など、私たちの仕事もかなり影響を受けていますので、フェアトレードを続けることは決して楽ではありません。けれど、これからも努力を重ねて、生産者と私たちがあくまでも対等な立場で売れるモノをつくり、フェアであることが当たり前の世界をつくっていけたらと思っています。