桜木紫乃さん(作家)特別エッセイフジヒートと私。

桜木紫乃さんのプロフィールを見る

桜木紫乃さん

さくらぎ・しの●作家。13年に『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞受賞。20年に『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞。

肌着、レッグウォーマー、スパッツ、腹巻、腹巻ショーツ……
昨年11月からフジヒートシリーズをつぎつぎとお申込みいただいた
北海道江別市在住の桜木紫乃さんに、ご愛用理由をエッセイにまとめていただきました。

 蓄熱インナーマニア、と呼ばれて久しい。
 冷え性にとって真冬はもちろんのこと、春秋の寒暖乱高下は自律神経が我を忘れる季節であるからして、冷えは禁物なのだ。
 毎年のように購入する季節の友だち、蓄熱、発熱、知恵熱、私に熱を与えてくれるものには飛びつき野郎と化していた。
 夏場、冷房の厳しい本州へ赴く際は、パジャマ代わりの蓄熱インナー持参という筋金入り。無難な黒のボトム姿を見た家族に「力道山先生」と呼ばれるも返事はしない、たとえそう見えたとしても。

 マニアであるから、あちこちのブランドメーカーを試しに試す日々だ。試して試して、たどり着いたのがフジヒートであった。薄いの厚いの上下、腹巻、パンツ、これ以上蓄熱は無理というくらい試しているうちに気づいたのだ。
「あ、わたし真冬に春物を着ている――」
 ありえない現象が起きた。蓄熱インナーの上に着るものは今まで分厚いセーターだったはず。それが、気づけばポリエステルのつるつるしたブラウスを着ているのだ。冬場のトークイベントで、もこもことしたセーターを着る際、腹回りを気にしていた身としては天の助けであった。これぞ、守り刀に相応しい。
 厚手と薄手がある、というのも蓄熱に自信があることの現れか。季節はグラデーションである。これは日本の真心というやつだ。
 自らの熱とはいえ、何にでも逃げられるのはつらい。わたしの情熱もフジヒートに包まれ、この冬も笑みを傍らに蓄え続けられるのだろう。