ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~

2025/2/14公開

「江戸のメディア王」蔦重の出世物語

 今年の大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」は、これまでの大河ドラマとは空気感がまったく違う。第一話でいきなり語り手の綾瀬はるかが、九郎助稲荷のきつね役で、白いしっぽをつけ、スマホをかざしながら出てくるとは。長年の大河ファンもびっくりだったに違いない。

 初回から「攻めた大河」といわれるこのドラマのみどころはどんなところにあるのか。
 みどころその1は、主人公・蔦屋重三郎(蔦重)のキャラクターだ。

 幼いころ、親に捨てられた蔦重(横浜流星)は、吉原の引手茶屋・駿河屋の親父(高橋克実)に拾われ、育てられた。吉原は、幕府公認の唯一の遊里。そこで蔦重は𠮷原の案内や女郎たちに向けた貸本屋をやっている。そんな彼はやがて「耕書堂」という本屋を開き、出版プロデューサーとして、江戸のメディア王となるのである。

 親も金もない蔦重がいかにして、後世に名を遺す人物になったのか。その背景には、多くの有名人との出会いがある。喜多川歌麿、山東京伝、葛飾北斎、曲亭馬琴、十返舎一九ら多くのクリエイターとともに吉原の超有名花魁となる花の井(小芝風花)や天才発明家・平賀源内(安田顕)、長谷川平蔵(中村隼人)、将軍の側近である老中・田沼意次(渡辺謙)……多彩な人物との出会いが、蔦重の人生と時代を映し出す。

 とはいえ、蔦重は失敗も多い。第一話では、こどものころ世話になった女郎の朝顔(愛希れいか)が、ひもじいままに亡くなり、着物もはがれて裸で捨てられた姿を見た蔦重は、吉原を脅かす非公認の遊里である岡場所や宿場を取り締まる「警動」をしてほしいと奉行所に訴えるが、相手にされない。怒った蔦重は、田沼屋敷に潜り込み、意次本人に願い出たものの、宿場の繁栄は重要と一蹴された。意次に「(吉原は)人を呼ぶ工夫が足りぬのではないか」と言われ、目が覚めた思いの蔦重は、大急ぎで吉原に戻る。勝手な行動をして、吉原の親父たちにボコボコにされても、吉原のガイドブック「吉原細見」をもっと広めようと工夫するのだ。

 みどころその2は、変死、怪人、陰謀など、次々起こる謎めいた事件の真相にどう迫るか。

 蔦重が生きた時代。十一代将軍となるはずだった徳川家基が十六歳で急死している。通説では、鷹狩りの最中に急に体調を崩したとされるが、聡明で文武両道の若様だっただけに、意次による毒殺説や嫡男を将軍にしたい一橋家の徳川治済による毒殺説など、さまざまな陰謀説も出ている。その後、十一代将軍には、一橋家の豊千代(家斉)が就き、治済が将軍の父として暗躍し、権勢を誇ったのは有名な話。「べらぼう」二話、江戸城で治済の嫡男誕生の宴で、意次はじめ殿様たちはニコニコしていたが、それはみんな作り笑いだったのか……。そう思うと、治済(生田斗真)の存在が不気味に思えてくる。ちなみに生田斗真は、22年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、頼朝の弟・全成の息子・頼全を誅殺した源仲章を怪演。血を流す頼全を見て、舌打ちはするわ、ベーっと嫌な顔はするわ、とっても感じが悪かった。斗真の治済、何かが起きる気がする。

 一方、意次は、田安徳川家の七男・田安賢丸(のちの松平定信・寺田心)に深く恨まれ、田沼家は、意次の嫡男・意知(宮沢氷魚)の刺殺事件、意次失脚と悲劇が続く。旗本の佐野政言が、なぜ意知への刃傷事件を起こしたのか、「乱心」「私怨」と言われるが、これまた謎を残している。田沼家一連の悲劇には黒幕がいたのか?

 もうひとり、天才発明家の源内は、偽名を使ったりして、初回から蔦重を振り回す。このドラマの源内は貨幣経済を確立したい意次の意向を受けて、全国の鉱山を調べて回っていた。江戸の有名人だが、彼のエレキテルは、注目を集めたものの、次第に評判を落としたともいわれる。そんな中、源内は人を殺して投獄され、結果、獄死したとされる……しかし、ちゃっかり生き延びたとの説もあるんですけど、どうなっちゃうの!?

 そして、もっとも大きいミステリーは、蔦重が晩年に世に出す絵師・東洲斎写楽だ。寛政6年5月、突如世に現れ、役者の大首絵など斬新な作風で大評判とりながら、約10カ月ほどの間に145点余りの作品を出して、忽然と姿を消した。その正体については、能役者・斎藤十郎兵衛という説をはじめ、浮世絵師、戯作者、中には蔦重本人だったのではなんて説まであり、研究もされているが決定的証拠はない。このドラマでは、果たして「誰」が写楽なのか。

 大河ドラマが江戸中期を描くのは初めて。主人公が江戸の町人というのも新鮮だ。

 ライバル本屋の圧力、企画倒れ、金策、「そううまくはイカのくちばし」(蔦重のセリフ)で、さまざまな失敗を続けるものの、本屋になったきっかけは女たちのため。この心意気が「べらぼう」なアイデアを生み出し、作家や絵描きなどに慕われたのかも。前半は、蔦重の青春ドラマ、後半は江戸の仕事ドラマとしても楽しめそうだ。べらぼうな活躍に期待したい。

今回ご紹介した作品

べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~

放送
NHK総合にて日曜20時から放送中

情報は2025年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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