ペリー荻野さんのドラマ批評 - 豊臣兄弟!

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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豊臣兄弟!

2026/3/19公開

「豊臣兄弟!」でも注目。大河ドラマはタイトルバックでわかる!

 戦国乱世を生き抜き、兄・秀吉の天下獲りを実現させた豊臣秀長の人生を描く大河ドラマ「豊臣兄弟!」。展開は序盤から目まぐるしい。

 父を亡くし、故郷の尾張国中村で母や妹と田畑を耕していた小一郎(のちの秀長・仲野太賀)は、八年ぶりに突然返って来た藤吉郎(のちの秀吉・池松壮亮)に誘われ、織田信長(小栗旬)の軍勢に加わった。信長は今川義元の大軍を相手に桶狭間で劇的な勝利をおさめ、尾張統一を果たすと、美濃攻略へと突き進む。そんな中、豊臣兄弟は盗人の疑いをかけられたり、秀吉が人質にとられたり、敵から丸見えの墨俣に砦を建てることになったり、命がいくつあっても足りないピンチにさらされている。

 このドラマのポイントは、いずれ秀吉が天下人になることは、視聴者全員が知っているということ。その条件の中で、いかにそこまでのストーリーを面白く見せるかである。

 そこで生きてくるのが、「弟目線」というところだ。

 このドラマの秀吉は、自分は織田家で出世していると家族に偽ったり、屋敷だと豪語していた住まいも掘っ立て小屋だったりと話を盛るくせがある。寧々(渡辺美波)という愛妻がありながら、女好き。困るとすぐに小一郎に「なんとかしてくれ」と泣きついてくる。調子がいいのである。

 そんな兄の横で、小一郎は困惑しつつ、疑いを晴らしたり、調略する相手を説得したり、時に怖い怖い信長様にも言いたいことを言う。しかし、考えてみると、これは結局、困った兄貴のおかげで成長してるっこと?

 豊臣家の話は、秀吉のサクセスストーリーとして語られることがほとんどだが、最終的に秀長も「百万石」の大大名になる。これまであまり語られなかったが、弟もサクセスストーリーの人なのだ。

 ここで注目したいのが、ドラマ冒頭のタイトルバック。私は長年、大河ドラマのタイトルバックこそ、作品の味をぎゅっと凝縮したものだと思っている。「タイトルバックを観れば大河がわかる」のである。

 たとえば、斬新なオープニング映像とあわせて題字が注目を集めたのが、1987年放送の第25作『独眼竜政宗』(主演:渡辺謙)だ。

 タイトルバックには当時、技術が進んだレーザー光線を使い、題字や馬に乗った政宗の姿が浮かび上がる。それまで三年連続で現代を舞台にした大河ドラマだったが、ここで久々の戦国時代がテーマ、そこにまだ無名に近かった二十代の主役登場ということで新しさをアピールした。

 同じ戦国ものでも、女性が主役の「江~姫たちの戦国~」(2011年 主演・上野樹里)は、ピンクの背景に水がゆらゆらと揺れるような画面に題字が出る。しなやかで優しいイメージだ。女性ながら井伊家の当主となった「おんな城主 直虎」(2017年 主演・柴咲コウ)の冒頭は、林の中に忘れ去れた兜の端に一輪の赤い花が咲いていた。飛んでくるたくさんの矢と向かって飛ばされるのも赤い花たち。アニメーションでゆるやかに描かれるが、平穏な日々を望みながら、家を守り、命をかけた直虎の心が現れていた。

 初回から驚いたのは、「真田丸」(2016年 主演・堺雅人)。タイトルは、世界的に有名な盛ん技能士・挟土秀平氏が3メートル×6メートルの巨大な壁に真田家の赤い甲冑をイメージした赤土を塗り、一発書きで題字を掘り入れたもの。そのタイトルが砕け散った後、幸村が真田の赤備えの兵を率いて騎馬で疾走する。これは大坂夏の陣の幸村の姿。彼の人生で一番のハイライトじゃないですか! 幸村最後の戦シーン……。毎回始めに最終回を見る。タイトルバックにこんな仕掛けがあったとは。

 では、「豊臣兄弟!」のタイトルバックには、何が秘められているか。

 冒頭は林の中でふたりが木刀で打ちあう。顔は真っ黒。衣服も農民だ。それから少しずつ顔も衣服もきれいになりながら、二人は歩く。やがて武将らしい姿になり、茶会の場面が出たり、甲冑姿になったり、すっかり大名らしくなった二人が豪華な大坂城や豊臣の旗印の前でポーズを決める。

 気になるのは、背景だ。くるくると万華鏡のようにさまざまな絵図になるのは、ひとつ局面が変わった瞬間に違うものが見える戦国という時代と、そこですかさずチャンスをつかみとる二人の人生の目まぐるしさそのもの。雨や雷にさらされるのは、人生の苦難。その後、出てくる日輪は兄弟のパワーの象徴かもしれない。秀吉の馬印である千成瓢箪を思わせるひょうたんは、最初に出てきたときは茶色だが、後半に出てくるのはピカピカの金色というところも面白い。戦う二人の背景には漫画で使われる「描き文字」も出てくる。家臣がひとりもいないところから、仲間を増やし、敵を蹴散らして頂点を目指す物語は、まさに少年漫画だ。

 これから本能寺の変、中国大返し、清須会議など、名場面が続く。秀長がそこでどんな活躍を見せるのか。タイトルバックにちらっと出てきたあのアイテムは、ここで活きてくるのか~という発見もきっとあるはず。併せて楽しみにしたい。

今回ご紹介した作品

豊臣兄弟!

放送
NHK総合にて日曜20時から放送中

情報は2026年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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