寺脇研さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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弱いヒーロー Class 2

2025/7/28公開

暴力の蔓延る学園で友情と成長を描く

Netflixシリーズ「弱いヒーロー」Class1~2:独占配信中

 前回取り上げた『弱いヒーロー』の続編である。

 前作の結末は、決して後味の良いものではなかった。主人公は、不良グループの横暴やイジメの横行と対決したがために、「ソウル大3名合格」を誇らしげに掲げる進学校を追い出され、共に闘った同級生は卑怯な襲撃を受け意識不明で病院のベッドで寝たきりだ。

 これで終わられてはたまらない、と思っていると、すかさず続きの話が用意された。

 進学実績で高校が序列化された中で、主人公の転校先は一つしかない。序列最下位の、事実上学力競争入試と関係ない誰でも行ける男子校だ。登校シーンでは、煙草をふかしながら来る者、バイクに二人乗りで来る者……。

 1980年代の日本がこうだった。1点刻み(東京のような大都市だとコンマ刻み!)の偏差値で序列が敷かれ、中学校の進路指導によって、業者テスト(民間業者が都道府県単位で行う学力テスト)で算出された偏差値に合った高校にしか受験が許されないのだ。低位の学校を「底辺校」、このドラマで主人公の通う学校は「最底辺校」と呼ばれた。

 あれが、どれだけ子どもたちの心を荒らしたことか。底辺校の不良少年たちを描いた『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズが85年~88年に6作連発され全国の高校生たちを中心に大ヒットしたのは、その反映だろう。仲村トオル、清水宏次朗のツッパリ二人組が喧嘩をやりまくり、ヤンキー連中や宮崎萬純の女ツッパリが周辺を賑わせる。五十代の方々なら、ご記憶にあるはずだ。

 さて、韓国の「最底辺校」である。イジメは日常茶飯事で隠す気配もない。壁際に並ばせてボールをぶつける、とかの他愛なさそうなものもあるが、毎朝イジメ側のグループ全員にそれぞれの好みの飲料やパンを買ってきて貢ぐとなると恐喝の一種だ。学校中走り回って配達させられる生徒は日本だとパシリだが、韓国語にもシダバリとかパンシャトゥルとか、これに相当する言葉があるという。

Netflixシリーズ「弱いヒーロー」Class1~2:独占配信中

 最近読んだ900ページを越す大著「see you again」(小林篤・著、講談社)は、1994年に愛知県で起きた中学生イジメ自殺事件を30年にわたって追跡取材し尽くし、この種の本のうちで最も実情に迫ったものだと思う。そこでは、ボス以下10人を超すグループが3人のパシリを支配する過程といじめる側いじめられる側の関係性が赤裸々に描かれている。

 単なる精神的支配関係ならまだしも、親の財布から何万円もの現金を抜き取り上納させるとなると、もはや犯罪の域に入る。このドラマでも、パシリとなった生徒は、パシリの語源である使い走り的なことをやらされるだけでなく、グループのボスが換金する組織に上納するために同級生たちのスマホを盗んでこさせられる。

 そんな乱れた状態に、当初主人公は我関せずの姿勢でいる。いや、彼の心中はそれどころではない。自分のせいで仲間を意識不明状態にしてしまったトラウマを抱え、悪夢に苛まれる日々に苦しむ。周囲は周囲で、前の学校で人を殺したとの風説を信じているから恐れて寄りつかない。しかし、彼のスマホをパシリが盗んだのを機に、主人公は変わっていく。

 盗ったんじゃなく無くしたんだと嘘をついて誤魔化すパシリに対し「自分が楽になりたいんだろ」「すごく卑怯なことだぞ」と畳み掛けるとき、それは無気力になっている彼自身へも向けられていることが潤んだ眼でわかる。だから、勇気を出したパシリが盗った全員へスマホを返しボスに抵抗すると、ついに立ち上がるのだ。

 ここからは前作の痛快な展開と同じく、主人公と仲間たちとの活躍が始まる。最初の仲間は元パシリ、そこへバスケ部の快男児たちが加わってくる。まずは、校内のイジメや窃盗といった悪行の根絶、そして次は、行きがかり上スマホ上納の元締めである街全体の非行組織の打倒……。

Netflixシリーズ「弱いヒーロー」Class1~2:独占配信中

 前作と違って悪い大人の暗躍はほとんどなくて高校生同士の戦いだから、権力の悪用や武器の使用よりも、彼らの肉体の力が存分に発揮される。どこへ向かうにも全力疾走だし、全エネルギーを発散しての喧嘩アクションも気持ちいい。前記『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズや、96年~00年に4作出た『岸和田少年愚連隊』シリーズ、07年~14年にかけて3作あった『クローズZERO』シリーズなど、時代時代に登場した日本映画お得意の「ヤンキーもの映画」を彷彿とさせる集団アクション場面を楽しむことができる。

 ただ、主人公はヤンキーではなく本来は進学校にいるはずの秀才なので、おバカな連中が理屈抜きで殴り合う「ヤンキーもの」とは一線を画す。

 前作冒頭に引用されたヘルマン・ヘッセ「デミアン」に続き、今度はJ・D・サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」だ。高校生の主人公を語り手にした世界的に名高い青春小説の「言うならばライ麦畑の守り人になりたい」という一節が示される。日本でも、この影響を受けた69年のベストセラー青春小説「赤頭巾ちゃん気をつけて」(庄司薫・著、70年には映画化も)があるように、十代ならではの単純ではない悩みが込められている。

 作用あれば反作用あり、の「ニュートンの運動の第三法則」が引用されるなど主人公の理屈に裏付けされたアクションはご愛嬌だが、ご愛嬌といえば、パシリの4人組が揃って漫画オタクだとか、校内一の喧嘩強者であるバスケ部員が「スラムダンク」にかぶれていて桜木花道気取りだとかなのも笑える。

 敵同士でも心の通う部分があったりもするし、最後はすっきり決着がついて、気持ち良く観終えることのできる青春ドラマである。

Netflixシリーズ「弱いヒーロー」Class1~2:独占配信中

【最近の日本公開韓国映画では、LGBTQの問題を提起しつつ新しい男女の関係を提示した『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』、脱北劇をひと味違う視点で組み立てた『脱走』、韓国映画の王道ともいうべき人間ドラマの熱さを感じさせる『消防士 2001年、闘いの真実』を推したいと思います。】

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「弱いヒーローClass2」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2025年7月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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