地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
THE PENGUIN-ザ・ペンギン-
2024/12/20公開
バットマンの宿敵「ペンギン」が主人公の犯罪ドラマ
©2024 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. MAX and related elements are property of Home Box Office, Inc. THE PENGUIN and all related characters and elements are copyrights and trademarks of DC. All Rights Reserved.
アメコミがルーツで、実写映画化でもおなじみの人気ヒーロー、バットマン。そのライバルの悪役(ヴィラン)、ペンギンを主人公にした犯罪ドラマ。ヒット映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に続き実力派スター、コリン・ファレルがペンギン役を演じ、『THE BATMAN~』のマット・リーヴス監督やファレルらが製作総指揮として参加。
舞台は米国の荒廃した大都市ゴッサム・シティ。『THE BATMAN~』で凶悪犯リドラーに水没された街では貧困層が広がり、犯罪者たちは彼らにドラッグを売って稼ごうとしのぎを削る。そんな中、イタリア系ギャング“コルレオーネ・ファミリー”に仕え、後にペンギンと呼ばれるであろう悪党オズ(ファレル)は、ボスのどら息子アルベルトを衝動的に射殺。オズが口八丁手八丁を駆使し、これを無かったことにしようと試みる一方、アルベルトの姉ソフィア(クリスティン・ミリオティ)は弟の復讐を誓う。やがてオズとソフィアは全面対決せざるをえなくなっていく。
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筆者のようなおっさんの映画好きだと、バットマン・ワールドのペンギンというと、映画『バットマン リターンズ』のそれがまず頭に浮かぶ。映画『ツインズ』のダニー・デヴィートが演じるペンギンは、見た目はみにくいが虚勢を張り、なんとかゴッサム・シティを乗っ取ろうとする。そして選挙に出馬するが落選し、暴力的手段に打って出る。この『バットマン リターンズ』の監督は後にドラマ『ウェンズデー』を手掛ける鬼才ティム・バートン。マジョリティー(多数派)を嫌い、マイノリティー(少数派)を応援する独自のクリエイターだが、だからか、『~リターンズ』のバットマンはいかんせんキャラが薄く、娯楽大作としては賛否両論分かれた。だが暗い世相を予言していたのは確かだ。
話はそれた。大胆にもそんなペンギンを連続ドラマの主人公にしたのが本作。猛者ぞろいの“コルレオーネ・ファミリー”で虎視眈々と下剋上を狙うマイノリティー、ペンギンは共感こそできるが、行き当たりばったりで暴力的。だがその二面性は現代人を象徴しているかのようで、一挙手一投足も予測不能。嘘つきぶりなどドナルド・トランプ風ではあるが、泥水をすする覚悟はトランプとまったく異なる。
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アメコミ原作なので派手なアクション満載の痛快編を期待する人がいるかもしれないが、凶悪犯罪が日常となった世界、オズもソフィアも自身の不幸に苦悩し続けるのでカタルシスは少ない(いくつかあるバイオレンス場面は鮮烈だが)。とはいえ、21世紀の混乱した現実を隠し味とし(水害や社会格差は韓国の傑作映画『パラサイト 半地下の家族』と同様にリアルな問題)、独自のダークなムードが高い緊迫感を生んでいる秀作である。
俳優陣のキャスティングも絶妙。以前は二枚目だったファレルはスランプを経て映画『イニシェリン島の精霊』で復活したが、『THE BATMAN~』に続く本作のオズ役でも精巧な特殊メイクの力を借り、まるで別人に生まれ変わったかのようにオズ役になり切った。
また、ソフィア役のミリオティの熱演も要注目。大きな目の美人俳優としてコメディドラマを中心に活躍してきたが、感情の揺れが激しいソフィア役をみごとに演じており、今後、演技派としての飛躍が期待される。
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本作に対して筆者は、バットマンが存在しないといけないほど壊れた世界を題材にしながら肝心のバットマンが登場しないという点に矛盾を感じなくもないが、名ヴィラン陣たちが充実した『バットマン』の世界観と魅力を再確認させられた。まずはファレルが引き続いてペンギン役を演じるという、映画版『THE BATMAN~』の第2・3作が楽しみだ。
今回ご紹介した作品
THE PENGUIN-ザ・ペンギン-
- 配信
- U-NEXTにて独占配信中
情報は2024年12月時点のものです。