地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ずっとあなたを待っていました
2024/12/9公開
連続殺人事件の意外な真犯人と巨悪のおぞましい動機
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「ずっとあなたを待っていました」は、サスペンス刑事ものです。
刑事ドラマは、一話ごとに新しい事件が起きて、一話のなかで犯人を捜して解決するパターンが多いように思いますが、この作品は、全14話を通じて、一つの連続殺人事件の複雑な背景をじっくりと追っていく意欲作です。
発端は、ソウルで、一人の女性が足首を切られて吊された死体が見つかった事件。
被害者には麻酔薬が使われ、意識を失ってから殺害されたのです。
被害者の夫は歯科医で、妻と仲が悪く、仕事柄、麻酔薬を所持していることから、容疑者として事情聴取され、逮捕直前までいきます。
ところが彼は、有力な国会議員の息子だったため、父親が警察や司法などの関係部署に手をまわして、釈放されます。
つづいて、第二の犠牲者が出ます。
同じように足首を切られて吊された女性の死体が、ソウルで発見されたのです。
釈放された歯科医にまた疑惑がかかりますが、アリバイがありました。
さらに、第三の犠牲者が出ます。
場所は、主人公の刑事ジサン(ナ・イヌ)が暮らす海辺の小さな田舎町。
女子高校生が、足首を切られて殺害されたのです。
容疑者として、刑事ジサンの弟ジヌ(レン)が逮捕されます。
弟は被害者の友だちだったこと、さらに弟は料理人であり、刺身包丁で足首を傷つけたと考えられたのです。
しかし弟は、心の優しい控えめな男性です。
ジサン刑事は、弟は無実だと確信して、弟の濡れ衣を晴らすために、ソウルの検察で、幼なじみの女性検事ヨンジュ(キム・ジウン)とともに、全力で真犯人を捜します。
すると弟は、誰かに仕組まれて、連続殺人事件の現場へむかうように、指示されていたと分かります。
ところがその弟も海辺で殺されたのです。
ジサン刑事は、弟を殺した人物が、連続殺人事件にかかわっていると考え、必死で捜査します。
俳優ナ・イヌは、このドラマでは、地方の警察で働く素朴な熱血刑事役で、口より先に手が出る足が出る、といった豪快な男を演じています。
捜査チームが置かれているソウルの中央検察へ出ていき、事件の解決にあたりますが、ソウルの検察は、大病院を経営する財閥の御曹司ヨンウン(クォン・ユル)が、エリート検事として采配をふるっていました。
繊細な美男子のヨンウン検事は、母親の病院長に溺愛されていて、いかにも育ちのいい上品な男性です。
田舎から出てきた荒くれ男のジサン刑事と、都会の財閥の貴公子ヨンウン検事の対立。
そして有能な女性検事ヨンジュをめぐる、二人の男たちの恋のライバル意識もおりまぜながら、捜査は、さまざまな紆余曲折を得て、意外な方向へ進んでいきます……。
人々が隠していた過去の複雑な家族関係、そこに巻きこまれた人の復讐心が、少しずつ明らかになってきます。
複数の容疑者が浮かんでは、捜査線上から消えていき、ようやく最後に、事件の背後にある組織的な巨悪、親たちの身勝手な欲望、人々の長い歳月が明らかになっていき、予想もつかない真犯人があらわれる超大作です。
韓国の格差社会の問題を描きつつ、後半まで、犯人が予測できない抜群のスリルさです。
また共演者が、名優ぞろいです。
主人公ジサン刑事の母親は、アカデミー賞映画「パラサイト」で半地下に暮らす貧しい母親役を、ドラマ「愛の不時着」では北朝鮮のデパート社長役を演じた個性派女優のチャン・ヘジン。
事件を取材する、どことなく怪しい新聞記者は、大ヒットドラマ「私の名前はキム・サンスン」で、サムスンの元恋人役を好演したイ・ギュハン。
ソウル中央検察の同僚捜査官は、「冬のソナタ」のヒロインのユジンが働く職場の先輩役パク・ヒョンスク。
こうしたベテラン俳優の落ち着いた演技と、熱血刑事役のナ・イヌの若々しくエネルギッシュな熱演が一体化して、見応えがあります。
松本侑子さんの新刊『赤毛のアン論 八つの扉』(文春新書)発売中。。
今回ご紹介した作品
ずっとあなたを待っていました
- 配信
- Huluで配信中
情報は2024年12月時点のものです。