地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
Missナイト&Missデイ
2025/1/17公開
20代就活女性が50代に変わってしまう!?
Netflixシリーズ「Missナイト & Missデイ」独占配信中
韓国ドラマには、タイムスリップものや、生まれ変わりもの、男女の入り替わりものがあって、それぞれに工夫を凝らした脚本が面白いのですが、このドラマは、ちょっと変わった設定です。
1人の女性が、夜は20代で、昼間は50代になるのです。
主人公は、地方都市に暮らす28歳のイ・ミジン(チョン・ウンジ)。
彼女は公務員試験に落ち続けている就職浪人で、三十路を前にして、同居する両親も友だちも心配しています。
今年も不合格になったミジンは、「公務員就職の口利きをしてやる」と語る詐欺師にだまされ、親から預かった大金を巻きあげられたところを、たまたま居合わせたイケメン検事ケ・ジウン(チェ・ジニョク)に助けられます。
Netflixシリーズ「Missナイト & Missデイ」独占配信中
そんなミジンは、ある朝、目がさめると、50代の見知らぬオバサン(イ・ジョンウン)になっていました。
20代のミジンは、背が高くて、スタイルがよく、髪は豊かで長いのですが、オバサンは背が低くて、小太り、短髪のパーマ頭です。
ミジンは仰天しますが、幸い、日が暮れると元の姿に戻りました。
ところが次の日も、朝日が昇るとオバサンになり、日が沈むと、元の姿に戻ったのです。
ミジンは考えます。
昼間は、どこかに働きに出て、親に見つからないようにしよう。夜になったら、いつもの若い娘になって、帰宅しよう。
そこで、地元の地方検察庁が高齢者を採用するシニア就労試験を受けると、公務員試験を受け続けてきたミジンは、トップで合格。
ミジンは、失踪して行方不明になっている叔母イム・スンの名を名乗り、地方検察庁で清掃スタッフとして働き始めます。
その地検で働くのが、イケメン検事のケ・ジウンでした。
彼は、ワーカホリックで、長時間労働もいとわず、自分に厳しいものの部下にも厳しく、秘書的な業務をする女性職員が、辞めてしまいます。
その後任として白羽の矢がたったのが、シニア就労試験にトップ合格した中年女性のイム・スン(中身はミジン)でした。
Netflixシリーズ「Missナイト & Missデイ」独占配信中
ところが検事のジウンと部下の男性は、さえない掃除係のオバサンと一緒に働きたくない、とばかりに、中年女性には難しいと思われる仕事を、わざと命じて、自分から辞めるように仕向けます。
大量の書類のタイプ入力、複雑なExcel関数を命じたのです。
ところがこのオバサンは、見た目はシニアでも、中身は若いミジンですから、早い書類作成はお手のもの。Excel関数も得意で、検事のジウンたちを、あっと驚かせます。
このドラマは、エイジズム(年齢差別)と女性差別も、サブ・テーマとして描いているのです。
中高年と女性は、パソコンが苦手だろう、仕事が遅いだろう、という偏見。そこから生じる中年女性へのうっすらとした侮蔑です。
Netflixシリーズ「Missナイト & Missデイ」独占配信中
中年女性のイム・スンは、そうした偏見をくつがえして見事に働き、職場で重宝され、地方検察で生き生きと働きます。
中身のミジンは、もとは公務員志望ですから、念願の就職が叶って、幸せなのです。
この町では、不法薬物売買事件、おぞましい連続殺人事件が起きていて、検察の一同は、捜査にあたります。
中年女性のイム・スンは、検事のジウンたちと一緒に、潜入捜査や張り込みをしますが、日が暮れると、若くて可愛い女性ミジンになってしまうため、ドタバタ喜劇の大爆笑が続きます。
やがて若いミジンとイケメン検事ジウンに恋が芽生えますが、まさか「昼間の中年女性は、わたしです」と言う訳にもいかず、夜しか会えない不思議なデートが始まるのです。
やがて検事のジウンの母親も、過去に失踪して、行方不明になっていること、ミジンの若い叔母の失踪事件と関連がありそうなことがわかってきます。
なぜ2人の女性は失踪したのか? 今は生きているのか? さらに、この町で起きている連続殺人事件の犯人は?
推理とサスペンス、若いミジンと中年女性イム・スンの早変わり、ミジンと検事の甘いロマンス、ミジンと家族との愛、良き友との友情、職場の同僚たちとの交流と、魅力が盛りだくさんのドラマです。
Netflixシリーズ「Missナイト & Missデイ」独占配信中
とくにイム・スンの台詞が印象的でした。
「年をとることは悲しいことです。若さは人生の贈り物なのです」
今生きている私たちの命も、人生の贈り物なのだと教えてくれる意味深いエンタメ作品です。
見た目は中年女性だけど、中身は恋する若い女性、という難しい役を、コミカルに演じた女優イ・ジョンウンは、さすがのうまさ。
しみじみとした人間ドラマ「私たちのブルース」、アカデミー賞受賞映画「パラサイト 半地下の家族」で知られる彼女が、本作では、コメディエンヌとしての才能を開花させています。
松本侑子さんの新刊
『赤毛のアン論 八つの扉』(文春新書)
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「Missナイト & Missデイ」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2025年1月時点のものです。