田幸和歌子さんのドラマ批評 - るなしい

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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るなしい

2026/5/11公開

「神の子」が失恋の復讐を果たす宗教純愛サスペンス

画像:るなしい

©「るなしい」製作委員会

 2022年7月、安倍晋三元首相銃撃事件を機に旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)による高額献金や霊感商法の問題が白日の下にさらされた。2025年3月には東京地裁が解散命令を下し、韓国では同年9月に韓鶴子総裁が逮捕された。しかし、2026年2月の冒頭解散による衆院選では自民が歴史的大勝を収め、教団との接点が指摘された議員の多くが当選。日本ではうやむやのまま、問題は棚上げにされ続けている。

 語弊を恐れず言うなら、カルト宗教が銃撃事件当時よりも堂々と私たちの生活に入り込んでいるように見える今、宗教×純愛を、禍々しくおどろおどろしく、ときにキラキラの青春と交えて描くドラマが誕生した。『るなしい』は、恋愛を禁じられた宗教二世の「神の子」が、初恋の人への復讐心から信者ビジネスに引きずり込んでいく、宗教純愛サスペンスである。

 原作は2022年上半期『週刊文春エンタ 漫画賞!』最高賞に輝いた意志強ナツ子による同名漫画。「火神の子」として生きる女子高生・郷田るなは、祖母と営む鍼灸院で自らの血を入れたモグサを使い「自己実現」を売る信者ビジネスを手がけている。学校で孤立し、唯一の理解者は幼馴染のスバルだけ。そんなるなが、いじめから救ってくれた人気者・ケンショーに恋をしてしまうが、「神の子」に恋は許されない。告白し失恋したるなは「その気がないのに、優しくしてきた。絶対許さない!」と復讐を誓い、ケンショーを宗教ビジネスへと引きずり込んでいく。

 ここに描かれるのは、二人それぞれの「生きづらさ」だ。るなにとって、恋をしないこと、処女を貫くことは「神の子」の才能——癒しの力、他者を感化するカリスマ性——を保つための「代償」である。一方のケンショーは、母子家庭の母を楽にさせたいという切実な思いから宗教ビジネスにのめり込む。しかしその代価は家族との絆を絶つことで、大切な人を守ろうとする行為が大切な人との関係を壊す——その逆説が、静かな残酷さをもって刻み込まれる。

 本作の鋭さは、二人それぞれの「正しさ」の危うさを容赦なく暴くところにある。るなには「神の子として使命を果たしている」という確信があり、ケンショーには「家族のため」という純粋な動機がある。しかし自分が正しいという信念は、他者への想像力を奪う。どちらも、相手の気持ちからも自分の気持ちからも目を逸らし続ける。その逃避の先で、「正しさ」はじわじわと毒に変わっていく。

 また、「自己実現」「夢」「人を輝かせる力」といった言葉の胡散臭さも、このドラマは浮かび上がらせる。信者ビジネスで売られるのは鍼灸でも救済でもなく、「あなたは輝ける」「夢は叶う」というフレーズそのものだ。自己啓発セミナー、SNSのインフルエンサー、就活の面接対策にまで染み渡るこの言葉たちと、カルトは地続きである——本作はそれを痛烈に示唆する。だからこそ、るなの信者ビジネスは笑えないリアリティを帯びる。

 さらに恐ろしいのは、「結果、それで幸せなら」という根拠のない結論への逃避だ。信者が「人生が変わった」と言い、ケンショーが母のためにお金を稼げれば、プロセスも手段も問われない。「結果さえよければ」という論理は感情の棚上げと自己欺瞞を正当化し、気づいたときには引き返せない場所にいる。

 このドラマの醍醐味のひとつは、光と影の落差だ。るなが初恋の相手と視線を交わす少女漫画のようなきらめき——その直後に、血を使った呪詛めいた儀式、鍼灸院の奥のおどろおどろしさが差し込まれる。青春の甘さと宗教儀式の禍々しさが、まるで同じ光源から生まれたかのように反転し合う。「神の子」の才能が人を輝かせる力であるなら、それは紙一重で、人を闇に引き込む力でもある。

 演じる俳優陣もまた、その光と影を体現している。郷田るなを演じる原菜乃華は、野暮ったさと同時に、謎の説得力と貫禄、オーラを放つ。朝ドラ『あんぱん』で可憐なヒロインの妹を演じた原が連ドラ初主演でこの役に挑んでいるが、見るほどにこの役は彼女しかいないと思わされる。一方、映画『少女は卒業しない』や日曜劇場『御上先生』で確かな存在感を示してきた窪塚愛流は、原作でのケンショーが帯びる翳りを脱ぎ捨て、より無垢でかわいらしい青年として役を刻む。だからこそ、その純粋さが宗教ビジネスに絡め取られていく様子が切ない。本島純政演じる幼馴染・スバルは、るなとケンショーの関係を最も近くで目撃する観察者として機能する。るなを守りたいという思いの裏に「るなは自分のもの」という執着をにじませる本島の繊細な芝居が、この三者の関係をより複雑に支えている。るなに恋愛相談を持ち込む後輩・大内塔子役の影山優佳、おばば役の根岸季衣も含め、キャスティングが見事にハマっている。

 おどろおどろしくも甘酸っぱく、滑稽でもあるこの物語は、「信じたいものを信じる」ことの人間的な切実さと、その先にある危うさを、正面から問いかけてくる。

今回ご紹介した作品

るなしい

放送
テレビ東京系にて毎週木曜24時30分~放送中
配信
U-NEXTにて配信中

情報は2026年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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