今祥枝さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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埋もれる殺意

2025/8/12公開

英国アカデミー賞でも高評価の本格ミステリー

(c) BBC Studios

 職業柄、「おすすめの海外ドラマ」を聞かれることが多いが、よほど親しくない限りは難題だ。仮に100人の海外ドラマファンがいたとして、全員が「面白い!」と感じる作品は皆無だから。翻って、私自身が休日に家に引きこもって何かしらのドラマを一気見するとしたら、確実に後悔しないのは5〜6話程度で完結する英国ミステリーである。欧米ドラマファンにとっては、割と共感を得られるのではないだろうか。

 ミステリーといえば英国とはよく言われることだが、ことドラマシリーズにおける魅力は、ミステリーとしてのカタルシスがきっちりあることと、事件主体でありつつ登場人物をよく掘り下げている点にある。さらに言えば、その語り口には百戦錬磨の確立されたスタイルがあり、製作陣のこのジャンルへの熟練度とプライドを感じるのが、英国ミステリードラマへの安心感につながっていると思う。

 あくまでも主観で書くが、「ミステリー」と謳っているなら謎解きが主体であるべきだ。それなのに事件とは関係なく恋愛話で尺を取り、イライラさせられる作品がどれほど多いことか。そうした無意味な雑音は極力排除した上で、刑事なり犯人なりのキャラクターや日々の生活の様子が有機的に事件そのもと共鳴することで、話数を重ねることの醍醐味が生じる。この条件を兼ね備えた近年のお気に入りの一つが、1シーズンで1つの事件が解決する英ITVの『埋もれる殺意』シリーズだ。

(c) Mainstreet Pictures 2024

 イギリスの民放局ITVが製作するドラマには、当連載でも紹介した『ミスター・ベイツvsポストオフィス』のように質の高さに定評がある。ミステリーでは『名探偵ポワロ』『バーナビー警部』や『ヴェラ~信念の女警部~』など、世界的な人気作がずらりと並ぶ。中でも中年女性が主人公の作品は、そのタフネスぶりと生活感が男性よりもリアルに感じられて味わいがある。

『埋もれる殺意』シリーズは、2015年に“『埋もれる殺意』〜39年目の真実〜”として始まった。英国アカデミー賞テレビ部門でも非常に高く評価され、2025年2月に本国で放送された最新作の“〜3年の悔恨〜”まで、全6シーズンが放送されている。舞台はロンドン近郊。ビショップ署の女性警部キャシー・スチュアート(ニコラ・ウォーカー)と警部補サニル・“サニー”・カーン(サンジーヴ・パスカー)のコンビを中心とした捜査チームが、未解決の失踪事件や殺人事件を解決していく。

 物語は現在見つかった手がかり、遺体などから大体の殺害時期が特定されて、過去に遡り事件を捜査していくスタイル。アメリカの人気シリーズ『コールドケース 迷宮事件簿』のような面白さがあるが、英国ドラマは基本的にかなり重めだ。時代時代の社会問題を当然のごとく取り入れていることもあるし、息子と高齢の父親と暮らすキャシーの人生の物語もまた、年齢的に仕事や生活への疲れがにじんでしばしば苦い。そんな彼女を支えるサニーもまた佇まいからして哀愁が漂うのだが、娘2人を抱えるシングルファーザーとしての苦労は想像に難くない。そんな二人が、被害者と加害者のそれぞれの人生に思いを馳せ、現在も生きている関係者たちの複雑に絡み合う人間模様を紐解いていく。説教や教訓的な色合いは薄いが(ここ重要)、真相が分かると、視聴者の倫理観を揺さぶる緻密な脚本に毎回うならされる。

(c) Mainstreet Pictures 2024

 便利なことに必ずしもシリーズを順番に観なくても楽しめる。シーズン5の“〜6年の封印〜”から女性警部キャシーが新警部ジェシカ・“ジェス”・ジェームズ(シニード・キーナン)にバトンタッチするので、そこから入るのもいいかもしれない。シリーズを観てきたファンにとってはキャシーに思い入れが強いので最初は反発があるが、ジェスもまたなかなかに強烈なキャラクターで、夫との間に問題を抱える人生に迷える中年女性として興味深い。もはや主演と言ってもいいサニーが、そんなジェスと反発しながら距離を詰めていく感じもいい。主演格の交代は人気シリーズにとって痛手になる可能性が高いが、この辺もITVの製作陣にとってはお手のものだ。

 最新のシーズン6“〜3年の悔恨〜”は、ロンドン東部の湿原で人間の上半身の骨が見つかるところから始まる。DNAから被害者は3年前に失踪したパブ経営者ジェラード・クーパーだと判明。同じ頃、ジェラードの元妻の大学教員ジュリエットは学生から人種差別で告発される。一方、ジェラードの元愛人で保守系TV局のリポーター、メリンダの恋人パトリックは事故で下半身付随に。また、ジェラードのパブの元従業員で自閉症スペクトラムの青年マーティは田舎町で暮らしており、高齢の母親を介護しながらネットで極右陰謀論や暴力的コンテンツにのめり込んでいた。ここにジュリエットの難しい年頃の娘やジェラードと関わりのあったアフガニスタン難民を支える通訳者アシフが登場し、被害者をめぐる一見バラバラに見える人間関係が提示される。

 実際にはもっと多くのキャラクターが絡んでくるのだが、サニーとジェスのチームが細い糸をたぐり寄せて事実を少しずつ明らかにしていくにつれて、事件は一つの絵を描き始める。パズルのピースが一つずつパチリと埋まっていくような感覚は、これこそミステリーの醍醐味だろう。

(c) Mainstreet Pictures 2024

 被害者ジェラードの人物像が浮かび上がってくるにつれて、パンデミックがどう世界を変えたのか、そのことがどのように今の社会に影響を与えているのかが事件の背景として浮き彫りになる。“ポリコレ云々”ではなく、どんな事件にも社会的背景が絡んでいないことはないはず。そうした社会問題を娯楽として昇華できるかどうかが、作り手の技量なのだ。その点、脚本と製作総指揮を手掛けるクリエイターのクリス・ラングを筆頭とする本作のスタッフ・キャストのレベルは、しつこいようだが信頼できる。きっと途中から本シリーズを観た人は、他のシーズンも網羅したくなるだろう。次のオフの日に“ハズレなし”の観たいドラマがあるというのも、日常のささやかな楽しみとしてよいのではないかと思う。

今回ご紹介した作品

英国クライムサスペンス「埋もれる殺意」~6年の封印~ (シーズン5・全6話)

放送
WOWOWプライムにて8/18(月)一挙放送

英国クライムサスペンス「埋もれる殺意」~3年の悔恨~ (シーズン6・全6話)

配信
WOWOWオンデマンドで配信中

情報は2025年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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