地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
LORD OF THE FLIES / 蠅の王
2026/7/13公開
ウィリアム・ゴールディングの名作小説を英国BBCがドラマ化

© 2025 Eleven Film Ltd. All Rights Reserved.
シェイクスピアの「ハムレット」や「ロミオとジュリエット」からジェーン・オースティンの「高慢と偏見」、トールキンの「指輪物語」といった誰もが知るような名著は、実に多くの映像作品のルーツであり、多大な影響を与えていることは説明するまでもないだろう。
1954年に出版されたノーベル文学賞受賞作家、ウィリアム・ゴールディングによる名作小説「蠅の王」も、その一つ。無人島に取り残されたイギリス人の少年たちが、最初は救出を信じ、民主的なルールを作って秩序を保とうとするが、やがて恐怖と本能の衝突からグループが分断し、殺伐とした支配と対立の構図が激化していくというのが大筋だ。聖書に登場する悪魔「ベルゼブブ」を指すタイトルを冠したこの小説は、子供が純粋で無垢な存在だというイメージを打ち砕く衝撃作である。
その心を抉(えぐ)るような残酷なサバイバルドラマであるがゆえに、映像化は困難とされてきた。そのため、「蠅の王」にルーツを持つと考えられる作品は「バトル・ロワイアル」から「LOST」、「ザ・ソサエティ」や、近いところでは「イエロージャケッツ」など、あまたあるが、直球の原作の映像化作品は思いのほか少ない。
過去にはピーター・ブルック監督による1963年の英国映画、ハリー・フック監督による1990年のハリウッド映画版が、よく知られている。前者は原作小説にかなり忠実で、モノクロームの映像も相まってドキュメンタリーのようなリアルさが異様な雰囲気をよく伝えている。正直なところ、トラウマになりそうなほどのインパクトがある作品だ。一方、ハリウッド版はアメリカの陸軍士官学校の少年たちに設定を変更するなど、かなりハリウッドナイズされた大味な作品で評価も微妙だ。

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だから、今の時代に「蠅の王」を英国BBC制作のドラマ版「LORD OF THE FLIES / 蠅の王」として現代によみがえらせると知った時は、いずれにせよ不安が強かった。目を覆うほどの悲惨な場面を臨場感たっぷりに描きながら、少年たちの深層心理を浮き彫りにするのは、よほどの腕がないといけない。かといって、ライトにすると原作の世界観は伝わりにくいし、ドラマは長尺な分、冗長さが拷問のように感じることもある。しかし、驚くことに、本作はまさに2026年版と呼ぶべきアップデートされつつ、原作の世界観を現代に伝えることに成功していて「なるほどなあ」と思わされた。
残酷描写は控えめにしつつ、現実と幻覚の境界線を漂うような実験的な映像は、どこか生理的な不気味さを感じさせる。それはまるで、少年たちの悪意を映像で表現したら、こうなるのだろうかという感じ。一方で、カメラは徹底して少年たちの表情に寄って、彼らの複雑でムードが瞬時に移り変わるような、あるいは何か恐ろしい思いを抱いたであろう内面を映し出す。じっくりと、彼らを観察することを視聴者に促すように。このどちらもが、胸をざわざわとさせて、なんとも落ち着かない気持ちにさせられる。全体として、ストーリーを含めて大胆な翻案がなされているが、不思議と原作に忠実だという印象を抱かせる。
人間とは、そもそも残酷な生き物なのだろうか。誰か一人でも大人がいれば、無人島のサバイバルドラマには別の展開、別の結末があったのだろうか?

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興味深いのは、本作を手がけたのが英国の劇作家・脚本家・プロデューサーのジャック・ソーンだという点だ。当連載で何度も言及してきた少年犯罪を描いた秀作ドラマ「アドレセンス」の共同製作者・脚本家であり、舞台版が世界各国で上演されている「ハリー・ポッターと呪いの子」の著者だと聞けば、ソーンがいかに少年たちの内面を掘り下げることに長けているかはわかるだろう。そして、SNSやインターネットがある文明社会であろうが、魔法の世界であろうが無人島であろうが、いつの時代にも少年たちの残酷さは共通項なのだ。
無人島のサバイバルドラマには、友情や冒険物語もあるが、生き残るために野生の感情を剥き出しにしていく子供たちの姿を見るのはつらい。しかし、そこにある普遍性に、視聴者は魅了されるのではないだろうか。人間の悪意とは、どこから来るのか? 人は生まれながらに悪の心を持っているが、何がそれを抑制するのかというシンプルかつストレートな問いが胸に刺さる。
原作から読み取れるテーマ、民主主義の脆さ、専制政治への渇望や文明の危険性といった戦後の寓話的な要素は踏まえつつ、SNSによる集団心理や情報空間の分断と何が違うのかと思わせる描写もある。ソーンの持ち味を生かした少年の心理に寄った再解釈は、新味もあり見応えがある。
映画「ハムネット」の敏腕キャスティングディレクター、ニーナ・ゴールドとマーティン・ウェアによる、知名度の低い子役の顔ぶれが素晴らしいことにも触れなければならない。キーとなるピギー役のデヴィッド・マッケンナの熱演には、同情と共感が相まっていたたまれない気持ちになる。一方、ヒール役の筆頭とも言えるジャック役のロックス・プラットは、この年代特有の脆さと残酷さを美しく凛としたたたずまいで体現し、強烈な印象を残す。彼は、HBOで放送予定のドラマ版「ハリー・ポッター」シリーズのドラコ・マルフォイ役にキャスティングされている注目株だ。そうしたニューカマーたちが生み出す緊張感に満ちたアンサンブル演技もまた、子役の起用に熟練した腕を持つソーン作品の大きな見どころだろう。

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今回ご紹介した作品
LORD OF THE FLIES / 蠅の王
- 配信
- U-NEXTにて独占配信中
情報は2026年7月時点のものです。














