辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~

2024/12/6公開

韓国発、全世界640万View超える大ヒット漫画が原作

 上村謙信(ONE N' ONLY)と本島純政がダブル主演をつとめるドラマ「未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~」は、全世界で640万View以上を記録する韓国発の大人気BLがもとになっているそうで、期待が高まります。

 上村謙信はフジテレビのBLドラマ「ハッピー・オブ・ジ・エンド」の沢村玲と同じくONE N' ONLYのメンバー。このところスターダストプロモーションのBLでの躍進がめざましいです。

 高校のクラスメイトの蛭川晴喜(上村謙信)と水無瀬仁(本島純政)は正反対のタイプ。問題児でちょいワルの蛭川晴喜と、他人に無関心な優等生、水無瀬仁は最初は特に接点はありませんでした。あるとき、水無瀬は校内で先生の首を締めようとする蛭川を目撃。そのあと、水道でなぜか水をかぶって頭を激しく振り、バシャバシャと水滴を飛ばす蛭川を見て、目が離せなくなる水無瀬。普通だったら、こんなヤバい人絶対関わりたくないと思いますが、ダルビッシュを彷彿とさせる蛭川は、水が滴ることでさらに男前度が増していました。

 以来、お互いの存在を意識するようになった2人。「世の中には3種類の人間がいる。加害者、被害者、そして傍観者……」というのは、ドラマで何度も流れる水無瀬の心のつぶやきですが、次第に傍観者ではいられなくなってきます。そして世の中には「攻め」と「受け」という2種類の人間もいるということを次第に体感していくのでしょう……。先生の首を締めていた蛭川はハードな攻めを見せそうな予感です。

 問題児としてクラスで恐れられていた蛭川は、家では荒ぶった父親から家庭内暴力を受けていました。ある夜、父親に殴られて傷だらけで倒れている蛭川を水無瀬が発見。心配する水無瀬に「水、飲ませて」と、蛭川は突然おねだりします。うまく飲ませられず、口元からこぼれると「下手すぎ」と、やり直させられ、水無瀬は蛭川の頬に手を添えて水を飲ませることに成功。蛭川は嬉しそうです。早くも蛭川のペースに翻弄されています、興奮を冷まそうとしたのか、蛭川はまたペットボトルの水を頭からかぶり、水滴を飛ばしまくっていました。何かのメタファーなのでしょうか……。匂わせの演出に悶々とさせられます。

 また蛭川主導で、手当てプレイが続きます。誰もいない教室で、父親に殴られた傷にシートを貼っていたのを、交換してほしいと水無瀬にリクエスト。半裸の背中には痛々しい傷やアザが。優等生、水無瀬は言われるがまま、丁寧にシートを貼り替えます。嬉しそうにお礼を言う蛭川に対し、保身的で傍観者マインドを貫きたい水無瀬は、「学校では話しかけないで」と言い放ちます。

 それでも蛭川が気になって、話題に出ると擁護してしまう水無瀬に対し、メガネのまじめそうなクラスメイトが「水無瀬さ、マジで蛭川に近付かない方がいいわ」と忠告。「だまされてほだされて道を踏み外す」というのがその理由だそうですが、「ほだされる」とは恋愛で使われがちなワードで、「情に訴えられ相手の言いなりになる」というような意味。一見まじめそうな男子が、実は恋愛の予兆を見抜いていたのでしょうか。むしろ警告することで水無瀬がもっと蛭川のことが気になるように仕向けているのかもしれません。実は同級生のBLの展開を一番楽しみにしているのかも……と妄想が広がります。

 同級生や視聴者の予想と期待通り、次の展開は意外と早くやってきました。会話の流れで、実は蛭川がマイナーな映画好きで、大好きな作品を監督したのが、水無瀬の父親だと判明。イキり系の不良がディープな映画ファンだったとは……。しかも哲学的で暗い作品を観て「苦しみを乗り越える人もいれば、苦しみに侵蝕される人もいて、この映画は全てを肯定してくれる」と、不真面目キャラには似つかわしくない難解な言葉で映画の解釈を語ってました。もしかしたら優等生水無瀬と負けないくらいの知的レベルかもしれません。

 少し距離が縮まった2人。ある夜、またDVを受けて家を出た蛭川と公園で遭遇した水無瀬は「じゃあうちくる? 親いないし」と、声をかけます。「俺、かわいそうに見える?」「うん、かわいそう」といったやりとりで少し緊張感が和らぎ、2人は両親が不在の水無瀬の家へ。何かが起こりそうです。

 ソファーで恋愛ドラマを観ていたら、だんだんあやしい空気に……。蛭川はタンクトップで、トップスを半脱ぎ状態で肩を出していてセクシーです。さり気なく水無瀬の背後に腕を回した蛭川は、ドラマのキスシーンに触発されたように「キスしたことある?」と、問いかけます。「ない」「俺もない」「してみる?」という応酬が。「俺のこと好きなの?」「それ飛躍しすぎでしょ」「じゃあやってみろよ」と、煽り、煽られるうちに蛭川は水無瀬の顔に手を添えて、完璧な角度でキスしていました。しかも2回も。キスしたことない、というのが信じられません。

 突然のキスのあと、「おかしいよ」「おかしくてごめん」というやりとりがあり、ショックを受けた水無瀬は走って部屋を出て行きました。次の展開はどうなるのか……。今まであまり人と深く関わってこなかった水無瀬は、自分の内の知らなかった感情を見出すことになりそうです。3話のタイトルは「キスに意味なんてなかった」と、不穏な雰囲気です。

 BLドラマブームの火付け役になったタイのBLは、最初のキスシーンまで結構長くかかるものが多い印象ですが、日本の深夜のBLドラマは、キスシーンが来るのが早い傾向があります。これは、国の文化の違いなのか、それとも昨今の若者の「タイパ」を重視する習性に合わせているのでしょうか。美しいキスシーンは、タイパ度外視で視聴者の脳内で何度もリプレイされそうです。

今回ご紹介した作品

未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~

放送
読売テレビ系にて毎週月曜25時29分~放送中
配信
FOD

情報は2024年12月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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