村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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フェイム・ゲーム ある女優の秘密

2023/02/22公開

国民的女優の失踪の陰になにが…?インド発ミステリードラマ

Netflixシリーズ「フェイム・ゲーム:ある女優の秘密」独占配信中

 このところインドのアクションエンタメ映画『RRR』が世界を魅了し日本でも大ヒット!イギリス植民地時代を舞台にふたりの男の友情と権力への戦いを圧巻のダンスシーンも交えて描き、今年のゴールデン・グローブ賞ではオリジナル歌曲賞を受賞。非英語圏の作品では異例の快挙でした。

 ボリウッド映画に注目が集まる今こそ、観てほしいのが『フェイム・ゲーム:ある女優の秘密』です。

「インド屈指の大女優が失踪。カメラが映していたのは、愛する家族に囲まれた完璧な人生。だが捜索が進むにつれ、表の顔とは裏腹の苦悩に満ちた真実が見え始める」(Netflix 公式サイトより)

 周りからは「完璧な人生を歩んでいる」と羨望の的だった国民的女優アナミカ。仕事での大成功と夫と息子と娘の家族にも恵まれ私生活も充実していたはずが、突然、スマートフォンも財布も自宅に置いたまま失踪。警察が捜索する過程で、次第にアナミカの苦悩に満ちた私生活が明らかになっていきます。

ここからネタバレありです。

 豪邸で母親も一緒に贅沢な暮らしをしているアナミカ一家。その生活は彼女の稼ぎによって支えられています。結婚前、勉強を諦め女優となり懸命に働いたのは母親に説得され家族が貧困から抜け出すためでしたが、母は女優として出世できたのは自分の力だと断言。

 共演者との悲恋の末、母の希望で母親の甥ニキルと結婚します。ニキルはアナミカのコネで映画プロデューサーをしているにも関わらず高圧的。息子が大学を中退し自殺未遂を図ると「お前が甘やかすからだ」と批判。露骨なセクハラ発言をする男に映画の出資を頼んだり、義母に頭が上がらず、世間から妻の七光りで仕事をしていると見られることに苛立ち、何かとアナミカに当たります。

Netflixシリーズ「フェイム・ゲーム:ある女優の秘密」独占配信中

 女優を夢見る娘は母親と比べて自分の外見と演技力にコンプレックスを持っており、アナミカは表向き夢を応援しますが芸能界の厳しさを知っているだけに困惑します。映画の撮影をこなしながら、アナミカは夫のモラハラにも耐え、子供たちにも向き合ってきたのですが、元恋人との再共演で愛が再熱。
「私は人に与えてばかり。もう空っぽ。私を満たして」
「長い間メイクしてると素顔を忘れる」
「名声は美しいものじゃない。危険よ」
「私の役割は娘で母親、そして女優。もう嫌なの。どう生きるかは自分で決める。もう誰の言いなりにもならない」
と、漏れるアナミカの本音。

 国民的女優の失踪の真相は?誘拐事件か?とマスコミも国民も騒ぎ立てるなか、警察が捜査を進めると妻の財産を使い込んだ夫、アナミカのストーカーなど疑惑の人物が浮上してきます。

Netflixシリーズ「フェイム・ゲーム:ある女優の秘密」独占配信中

 でも、単純な犯人探しのストーリーではありません。過去と現在が交錯し、しだいに明らかになるアナミカと家族、それぞれの秘密が複雑に絡みあい二転三転。アナミカのしたたかさも垣間見えるラストは意外すぎる着地点でシーズン2に繋がるような展開です。サスペンス仕立てでインドの映画界の裏側と女性の社会問題にスポットを当て、2倍楽しめる作品に仕上がっているのです。

 連載第1回で取り上げたインドの『ボンベイ・ベイガムー私たちのサバイバルー』で書いたように、妻が夫の健康を願い断食する「カルワチョート」という風習が当たり前に行われているまだまだ封建的なインド。親の言いなりになり孝行し家族に尽くすのが女性の理想とされている現状ですが、結局、アナミカは追い詰められてしまう。

 国民的女優であっても、毒親から逃れられず、支配的な夫との関係や問題を抱える子供の対応など、一般の女性と同じ悩みと葛藤を抱えているのを痛感します。

 主演を務めるマードゥリー・ディークシト本人も既婚でふたりの子供の母と役柄とのシンクロ率が高いだけによりアナミカをリアルに感じさせます。

 美人で踊りが上手く演技も素晴らしい役柄同様、数々の作品に主演した完璧な女優として評価されているマードゥリー。とりわけダンスはボリウッド映画界でいちばんと評されるほどで、本作でもその華麗な踊りでうっとりさせてくれます。

 でも、ゴージャスな衣装で着飾ったダンスシーンや受賞式の場面が華やかであればあるほど、アナミカの心の闇との対比が浮き彫りに。国や立場が違っても女性にとってはとても共感度の高い作品なのです。

予告編(インド版)

今回ご紹介した作品

フェイム・ゲーム ある女優の秘密

Netflixにて独占配信中

情報は2023年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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