村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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トラウマコード

2025/3/10公開

「オレ様」天才外科医の痛快アクション

Netflixシリーズ「トラウマコード」独占配信中

 最初に医療ドラマでタイトル『トラウマコード』と聞いときは、精神科が舞台かと思いましたが、韓国版タイトルは『重症外傷センター』英語ではトラウマに「(身体的)外傷」の意味もあり、『トラウマコード』とは重症外傷患者への迅速な対応を目的にしたシステムのことでした。

 熱血スーパードクターが活躍するところは『ドクターX』『TOKYO MER~走る緊急救命室』の世界観に近いのですが、そのスケール感、振り切った各キャラクターの設定、師弟の絆が際立ち、怒涛の面白さ。Netflix のランキング(1月下旬)で『イカゲーム2』(2024)を超え、世界17カ国で1位を独占したのも納得でした。

 なんといってもチュ・ジフン演じる主役ペク・ガンヒョクのキャラクターが良き。天才的な外科医として中東の紛争地域でも大活躍していた彼は大学病院の重症外傷チームのリーダーとして赴任。この抜擢は保健福祉省の女性長官カン・ミョンヒの采配でした。超一流のスキルと戦場で鍛えた臨機応変さで、危機的な状況の患者の命を次々と救うのです。ヘリコプターから自らロープで降下、救急車のなかで緊急手術もひるまない。患者の命を救うことにかけてはあらゆる手段を講じ、真摯に取り組みます。

Netflixシリーズ「トラウマコード」独占配信中

 でも、オレ様キャラで口は悪く、無理矢理、助手にした肛門科の若手医師ヤン・ジェウォンを「肛門」、自分をヤクザと間違えた看護師チョン・ジャンミを「暴力団」とあだ名で呼ぶなどパワハラも平気。

 しかし、救命のために尽力する重症外傷チームには莫大な経費がかかり、「赤字を出さない病院経営」を目指す病院長一派と激しく対立。ガンヒョクは院長の陰謀によって追放されそうになるのですが――。

 とにかくガンヒョクから目が離せない展開です。高身長(187センチ)にラフに着た白衣もスーツ姿も決まる。熱血でオレ様でカッコいいだけでなく、コミカルで笑いもとる。現場に駆けつける疾走感はアクションシーンのようで型破りのスーパーヒーローといえます。

 制作発表会でチュ・ジフンは「この作品はファンタジー性が濃いメディカル活劇」と発言していますが、まさに!です。

Netflixシリーズ「トラウマコード」独占配信中

 原作は現役医師が手掛けたウェブ漫画だけに、医療現場や病院経営の実情が加わり、ファンタジーとリアルを融合させ、韓国の医療体制や病院が抱える問題を代弁するかのようなシーンが多々出てきます。

 とりわけ命とお金について考えさせられるのがドクターヘリのエピソードです。病院長一派が経費節減のため、ヘリを飛ばさないよう画策。移送に時間がかかったせいで患者は脳死状態になってしまい、ガンヒョクは怒りを爆発させます。

 大学病院内での医師の派閥やヒエラルキー、救命にかかる経費をどう捻出するかなど、日本でも同様の状況だということは容易に推察でき、考えさせられずにはいられません。

 チュ・ジフンはモデルから俳優に転身。2006年のドラマ「宮 Love in Palace」の皇太役での大ブレイクから約20年、俳優にとって代表作になる役に巡り合うのは、実力はもちろん運も大きく左右しますが、40代に入ったチュ・ジフンを最高に輝かせる本作を引き寄せたのは強運だったといえそうです。

 同じく本作が代表作になるに違いないのが若手医師ヤンを演じたチュ・ヨンウ。『オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-』(24)でヒロインをひたすら愛し支える役どころと武芸の達人の一人二役を演じ、一躍、人気を集めた彼が、本作では真面目な小心者でちょっとポンコツなお坊ちゃんの奮闘ぶりを喜怒哀楽たっぷりに好演。

Netflixシリーズ「トラウマコード」独占配信中

 患者のため院内を走るヤンに可能性を感じたガンヒョクに重症外傷チームに引き入れられ、最初は腰が引けていましたが、しだいに天才的な技術を持つガンヒョクを尊敬し師弟関係となり、飛躍的に外科医として成長していくのです。

 とにかくガンヒョクとヤン、このふたりがお互いを引き立てあうケミストリーが最高。ありがちなバディものではなく師弟関係という切り口で、ヤンの成長ぶりを描くのが見どころのひとつでもあります。

 また、恋愛要素が一切なく、主要女性陣の看護師チョン・ジャンミ、保健福祉省長官カン・ミョンヒも仕事のできる逞しい女性なのがいっそ清々しい。

 この局長を演じるのがキム・ソニョン。あの『愛の不時着』(19)では北朝鮮・人民班長て婦人会のボス、『彼女の私生活』(19)では傍若無人なギャラリーのオーナーと別人のように変幻自在に演じ分け、ドラマにスパイスを与える名バイプレイヤー。

 今回は次期、大統領を狙う策略家として大学病院長と対峙。ガンヒョクとの密約を実現するため「圧力をかけにきたんですよ!」とズバリ切り出す迫力演技にシビれました。

Netflixシリーズ「トラウマコード」独占配信中

 全8話を見終わって、本作をひと言で評すると「痛快!」という言葉に集約されるエンタメ医療ドラマですが、毎回、登場する手術シーンは内臓がはっきり見えるリアルさゆえ、何かを食べながら見るのは絶対やめたほうがいいと忠告しておきます。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「トラウマコード」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2025年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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