村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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暴君のシェフ

2025/11/17公開

フレンチシェフが朝鮮王朝時代にタイムスリップ

Netflixシリーズ「暴君のシェフ」独占配信中

『暴君のシェフ』には撮影前から驚かされました。人気ドラマ『イカゲーム』でトランスジェンダーで女装した役柄を演じたパク・ソンフンが急遽、主役を降板。

 撮影1ヵ月前の緊急キャスティングで イ・チェミンが抜擢されたのですが、『イルタ・スキャンダル』『ヒエラルキー』で高校生役をやっていた人がなぜ? と疑問に思ってしまいました。

 でも、結果は大ヒット! Netflix 9月10日付ランキングではグローバルTVショー(非英語)部門で2位を記録、累計44地域で1位を獲得し国際的な成功を収めました。ドラマの公式グッズも発売され、日本でもポップアップストアが展開されたほど。

 ウェブ小説『燕山君(ヨンサングン)のシェフとして生き残る』をベースに、朝鮮王朝時代にタイムスリップした現代のフレンチシェフ、ヨン・ジヨン(ユナ)が、“暴君”と呼ばれる美食家の王イ・ホン(イ・チェミン)と出会うという設定です。

「信長のシェフ」の韓国版ともいえますが、シェフを女性にして、タイムスリップというファンタジー要素と宮廷の権力抗争、美食とロマンスが絶妙に交錯するストーリー展開。

Netflixシリーズ「暴君のシェフ」独占配信中

 とにかくヒロインのユナと王のチェミンがハマり役でふたりの組み合わせが放つ演技の相乗効果が作品の魅力をよりアップさせているのです。

 カリスマK-POPガールズグループ「少女時代」のセンターだったユナは、実年齢35歳が信じられないほど、本作で溌剌としたキュートな輝きを見せています。

 作中のジヨンは才能溢れるフレンチシェフ。フランスの料理大会で優勝して帰国するはずが、飛行機内から朝鮮王朝時代にタイムスリップ。はじめは時代劇のロケに迷い込んだと思い、王にタメ口で接していたのですが、元の時代に戻るために美食家の王を満足させる「未知の料理」を作る宮廷料理人となるのです。

 極限状態でパニックになりながらも、前向きに次々と降りかかるトラブルを未来を知る知恵で乗り越えていく。ときには姉のように暴走する王を諫めることも。そして、しだいに葛藤を抱えながらも王の真っ直ぐな想いに惹かれていきます。

 ホン王は10代王ヨンサングンがモデル。朝鮮王朝の国王の中で「最悪の暴君」と悪名高い存在です。しかし、本作では母親の死の真相を追求して時に暴走しつつ、美食家で恋する相手には奥手の面もあるナイーブで複雑な人物として描写。ジヨンとの交流を通じて変わっていく姿を描き、新たな魅力を引き出しているところが良き。

Netflixシリーズ「暴君のシェフ」独占配信中

 これまでヨンサングン役は『七日の王妃』のイ・ドンゴン、『逆賊 民の英雄ホン・ギルドン』のキム・ジソクのようにキャリアのある30代後半の俳優が演じてきました。降板したパク・ソンフンは40歳でした。

 それを実年齢25歳のチェミンが難しい王役をやり遂げ、高貴な王のオーラとピュアな恋心、激情を爆発させる熱演で絶賛されました。とりわけ母の死の真実を知るシーンの壮絶な演技は圧巻でした。

 もし、パク・ソンフンが演じていたらふたりのロマンスパートも、激昂するホン王をジヨンが落ち着かせるシーンも全く違うものになっていたはずです。歳下の王と歳上のヒロインだからこそ、これまでにない新鮮ならケミストリーが生み出され視聴者の心をとらえたのです。

 加えて、本作の面白さの理由は、シリアスとコメディの見事な融合です。ヨンサングンの史実をモチーフにした展開や、宮廷内部の権力争いや陰謀、明(中国)の天才料理人との対決など緊迫感のあるストーリーと同時に、ジヨンと王のロマンスにコメディ要素が入り、緩急のバランスが絶妙。

 また、華やかな宮廷美食の味を脳内のファンタジーで描き、演技だけでは表せない美味しさを表現。想像力を掻き立ててくれます。

 ジヨンの料理を食べた瞬間、恍惚の表情が浮かび、脳内がスパーク。花火が上がったり、食材が舞い踊ったりと、コミカルな描写がシリアスなストーリーの軽妙なアクセントになっています。加えて、ジヨンがメニューを考案する過程で韓国料理の変遷が学べるという利点も。

Netflixシリーズ「暴君のシェフ」独占配信中

 韓国ドラマのお家芸ともいえるタイムスリップものは、時代劇では『屋根部屋のプリンス』、現代ものでは『私の夫と結婚して』など名作が次々に生み出されていますが、久々に韓国時代劇のビッグヒットとなった『暴君のシェフ』も間違いなく名作の仲間入りです。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「暴君のシェフ」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2025年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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