村上淳子さんのドラマ批評 - サラ・キムという女

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

サラ・キムという女

2026/4/6公開

サラ・キムとは何者か? 緊張感あふれるサスペンス

画像:サラ・キムという女 1

Netflixシリーズ「サラ・キムという女」独占配信中

 前々回、こちらの連載で取り上げた南アフリカの『バッドインフルエンサー』も、この『サラ・キムという女』もどちらも高級ブランドの偽造バッグにまつわるストーリー。アフリカの最南端と韓国が同じテーマの作品を打ち出したのは、いかに高級ブランドのバッグが現代を象徴するものであるかがわかるというものです。

 物語の発端はソウル、清潭洞(チョンダムドン)の高級ブランドストリートの地下で、顔が潰された身元不明の遺体が発見されるところから始まります。その遺体は足首のタトゥーと側にあったバッグから高級ブランド「プドゥア」のアジア支社長サラ・キム(シン・ヘソン)だと特定されます。

 ところが、身元照会したところサラ・キムは実在しない。捜査を担当する刑事パク・ムギョン(イ・ジュニョク)が、彼女と関わりのあった化粧品会社社長、ホスト、貸金業者などに話を聞くたびに新たな事実と証言の矛盾が明らかになり、捜査は難航していきます。

 いったい彼女は何者なのか? 遺体は誰なのか? が二転三転し続けるのでまったく先が読めないのです。

画像:サラ・キムという女 2

Netflixシリーズ「サラ・キムという女」独占配信中

 一話ずつ周りの人々が証言していく手法で最初はひとつのパーツだったサラ・キムの人物像が何人もの証言によってパズルがはまるように見えてきます。

 最初にサラ・キムは韓国系アメリカ人でオックスフォード大学出身。全身、高価なファッションを着こなし、高級ブランドのアジア支社長として颯爽と登場。演じるシン・ヘソンのアジアン・ビューティな美貌と相まってセレブ感に圧倒されます。

 しかし、実は――。

 ここからネタバレになりますが、学歴詐称を主導した大物の貸金業者の台詞が、本作の核心を突いているのです。

「もし誰かに専攻を聞かれたら論文は金で買ったと言え。下手に取り繕ったりするな」
「人々は君の無知よりオックスフォードの卒業証書を買えた財力に目を向ける。不正よりその正直さに驚くだろう。財力でオックスフォードを卒業したと言う一文だけで、人々の脳裏には君は飾らない金持ちでしかも才媛だと刻まれるわけだ」

 いや~、なんと見事な策略。学歴詐称がバレないように必死で辻褄を合わせをすることなく人々を魅了するあざとさ。

 この学歴詐称もしかり、本作で繰り返し出てくるのが本物と偽物というキーワードです。

 化粧品会社代表がサラ・キムと交換したバーキンを売ろうとしたら偽物で、鑑定者は「よく出来た偽物は本物を上回る。本物の目標は完璧さじゃない」と告げるのです。

 しだいにサラの嘘が暴かれ、あろうことか高級ブランド「プドゥア」も彼女が作り上げた虚像であったというとんでもない展開に……。

画像:サラ・キムという女 3

Netflixシリーズ「サラ・キムという女」独占配信中

 しかし、実は2006年に韓国でヴィンセント&コー詐欺事件(中国で製造された腕時計を世界の1%しか持てないスイスの高級腕時計としてセレブ達に高額で販売)が実際に起こっており、このドラマが配信された後、検索ワードに上がるほど再注目を集めました。

 現代のSNS時代は、見せ方と情報操作で価値が生み出されるというのを徹底してサラ・キムに体現させ、「偽物と本物」「嘘と真実」を対比させたこれほど綿密な脚本が、脚本家チュ・ソヨンのデビュー作だというのに驚かずにはいられません。監督は、韓国では評価が高いNetflixドラマ『人間レッスン』のキム・ジンミン。

 それにしてもこの難役でシン・ヘソンが別人格を完璧に描写して見せたところが凄い。そんな彼女に翻弄されるイ・ジュニョク。取調室での冷静な攻防戦は緊迫感があり、秀作ドラマ『秘密の森』以来、6年ぶりの共演で互いに研ぎ澄まされた演技の応酬は身動きできなくなるほどの迫力です。

画像:サラ・キムという女 4

Netflixシリーズ「サラ・キムという女」独占配信中

 本作を見終わって、80年代の映画『ウォール街』で印象に残った台詞を思い出しました。実の親子であるマーティン・シーンとチャーリー・シーンが父子役で共演。証券マンとして野心満々で投資家に取り入ろうとする息子に、飛行機会社の整備士の父親が「財布の大きさで人間を図るのか」と激怒する場面があるのですが、ほんとに耳が痛い。SNSで繰り広げられる金持ち自慢を見るたびに、サラ・キムとこの台詞を思い出すことになりそうです。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「サラ・キムという女」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2026年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ