6月23日は沖縄「慰霊の日」──

沖縄を二度と
戦場にしないために。

沖縄から15人の声

太平洋戦争末期の1945年6月23日、沖縄での日本軍による組織的な戦闘が終結したことから、6月23日が「慰霊の日」に定められました。この日、沖縄では犠牲者を偲ぶ追悼式が行なわれます。今年5月15日(沖縄の本土「復帰」の日)から5日連続で公開した「沖縄から15人の声」を改めてお読みください。

玉城デニーさん

平良啓子さん

前泊博盛さん

私はこう考える

玉城デニーさん

沖縄県知事

反撃能力の保有は、憲法9条に基づく「専守防衛」との整合性など様々な問題があります。

 憲法9条に基づく専守防衛は、急迫・不正の事態に対処する手段がない場合にやむを得ず行使するものです。しかし、相手国の射程圏外から攻撃する「スタンド・オフ能力」を日本が保有することは、専守防衛との整合性の問題があります。これは、米軍が担ってきた反撃能力を日本が保有することであり、これまでの政府見解とも整合性がありません。
 沖縄で反撃能力の保有に反対する人が多いのは、そういった日米同盟の変質をよく知っているからです。沖縄では、米軍やその訓練は日常風景。日米安全保障体制の現実を日々目の当たりにしているのです。
 国民への説明も不足しています。沖縄県が防衛省に対して長距離ミサイル配備計画について尋ねると、今でも「そのような考えはない」と言います。ところが、政府は南西諸島での自衛隊基地強化を掲げ、沖縄本島に長距離ミサイルを配備するとの報道もあります。有事の際の先制攻撃の対象になりかねない計画なのに、沖縄県には何も説明せず、後から方針決定を伝えるのでしょうか。これでは、不信感が増すだけです。
 必要なのは、日米同盟の堅持を前提としつつ、「戦争をしない」という方針を関係国に伝える外交努力ではないでしょうか。その目的を達成する一助として、沖縄県は今年4月、「地域外交室」を設置しました。アジア太平洋地域での国際交流を深め、緊張緩和と信頼醸成を積極的に進めます。
 4人に1人が亡くなった沖縄戦の記憶を忘れてはなりません。沖縄の人たちが平和を強く求める思いを理解してもらえるよう、これからも県としてできることを最大限に進めていきたいと考えています。


たまき・でにー●1959年、沖縄県与那城村(現・うるま市)生まれ。専門学校を卒業後に福祉関係や内装業などの仕事をしながら、バンドマンやラジオパーソナリティーとして活動。2002年に沖縄市議選に立候補し、トップ当選。2009年の衆議院議員選挙で初当選。2018年、翁長雄志前知事の急逝による沖縄県知事選に出馬し、当選。2022年の県知事選で2期目の当選を果たした。

平良啓子さん

沖縄戦の語り部

「対馬丸」事件で生き残って、88歳まで平和のために頑張ってきたのに、再び「戦(いくさ)」を見ることになるの?

 私は、沈没した疎開船「対馬丸」の生き残り(対馬丸は1944年8月、疎開児童ら1788人を乗せて沖縄から九州へ航行中、米軍の魚雷攻撃で沈没した)。故郷の安波(あは)集落から乗船した40人のうち、37人が帰らないさ。同じ9歳だった従妹のお母さんに「うちの娘は太平洋に置いてきたの?」と言われた言葉が今も刺さっています。1484人が沈んでしまった。それからは、いつも海に手を合わせ、生きているうちは反戦平和のために頑張るねって言ってきた。
 戦後は教員として、わが子を親に預けて沖縄の復帰運動に奔走しました。集落のおばあたちは「子守はいいからあんたたちは闘ってきなさい、栄養付けて!」と送り出してくれた。1972年5月15日の本土復帰の日には、こんなことがありました。NHKの中継番組のために教員15人がある小学校に集められたのですが、後ろの黒板に「1ドル350円になっても自衛隊が来ても私たちは日本人だ」という紙が貼られていた。NHKが勝手に書いて出したそうです。私たちは猛抗議しました。“復帰を喜ぶ沖縄の先生たち”という中継だったのに、誰も笑っていなかったよ。
 基地もない、戦闘機も飛ばない沖縄を夢見たのに、米軍基地も残るし、自衛隊も入ってきた。今は、新聞読むのが怖いです。「戦」の文字が毎日増えてる。また戦争が来るんじゃないか、避難する所がないんじゃないか。妹は(自宅近くの)この山に避難小屋を作ろうかと言い出す始末です。自衛隊だ、ミサイルだ、って沖縄にどんどん置かれて。「誰かが短気でも起こしたらどうなるの?」って考えてしまい、寝られん日があるよ。
 いま、沖縄県の避難計画では、住民は船と飛行機で九州に避難する話になっているでしょう? 対馬丸の時も受け入れ先は宮崎でした。海はどこからでも狙われる。船で避難はできません。88歳まで、こんなにも平和のために頑張ってきて、また戦(いくさ)を見るの? 絶対にやめてほしい。


たいら・けいこ●1934年生まれ。沖縄本島の国頭村(くにがみそん)安波出身で、現在は大宜味村(おおぎみそん)に住む。学童疎開船「対馬丸」生存者として、現在も戦争の語り部活動を続けている。「大宜味村憲法9条を守る会」代表。2022年1月に発足した「ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会」設立発起人。

※平良啓子さんは23年7月29日、お亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします(ウェブ通販生活編集部)。

前泊博盛さん

沖縄国際大学教授

「戦争になるのは沖縄でしょ」という認識だから、本土の多くの有権者は“傍観者”でいられるんです。

 敵基地攻撃能力を持つ大きな理由として、防衛省や多くの政治家はあたかも沖縄本島を中心とした南西諸島を舞台に中国とのミサイル戦が始まるような議論をしています。しかし、これらは前提が完全に間違っています。日中の武力衝突の議論をするなら互いの首都を攻撃する前提で話したらどうか。そうすれば、本土の多くの主権者も「敵基地攻撃能力の保有なんて冗談じゃない」と立ち上がるでしょう。沖縄など周辺部を想定した議論だから傍観者が増えるんです。
 だいたい「攻撃されたらどうするか」から議論を始めるから間違うんです。なぜ狙われることになるのか? 誰がこの危機を作っているのか? そこを判断しなければいけない。危機を煽っているのはアメリカです。台湾有事を利用し、日本を使って自らは手を汚さずに邪魔者(中国)を追い込もうとしている。日本政府は言われるままにアメリカから武器を買い、財政に余裕もないのに軍事費を上げている。アメリカの目的が日本の目的にすり替わっている。そんな政治家ばかりを選んでしまったのは、われわれ国民なんですけどね。
 誰が戦争の危機を招いているのか? それは政治の貧困です。まともな政治家が育っていない。敵基地攻撃力はシンプルに憲法違反です。なのに、国民は憲法をないがしろにする政治家を放置している。われわれの政治的な未熟さが今の状況を招いたと考えるべきでしょう。メディアも「ウクライナの次は台湾有事だ、戦争だ」という前提でミサイルの飛距離や核の保有を語り、率先して戦前の空気を作り出しています。賢明な国民は簡単にその議論に乗らないことです。


まえどまり・ひろもり●1960年、沖縄県生まれ。琉球新報社の論説委員長を経て、沖縄国際大学教授。琉球新報記者時代の2004年、日米地位協定をめぐるスクープとキャンペーン報道で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『もっと知りたい! 本当の沖縄』(岩波書店)、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)など。