6月23日は沖縄「慰霊の日」──
沖縄を二度と
戦場にしないために。
沖縄から15人の声
太平洋戦争末期の1945年6月23日、沖縄での日本軍による組織的な戦闘が終結したことから、6月23日が「慰霊の日」に定められました。この日、沖縄では犠牲者を偲ぶ追悼式が行なわれます。今年5月15日(沖縄の本土「復帰」の日)から5日連続で公開した「沖縄から15人の声」を改めてお読みください。
私はこう考える
石井暁さん
共同通信専任編集委員
“戦争のできる国”から“戦争をする国”へ進む日本を止めるために、台湾有事を起こさせない努力を。
戦争をしない、平和を守る――。憲法に示されたこの理念は、過去にも「曲がり角」「正念場」を何度か迎えました。しかし、敵基地攻撃能力を軸とする今回の安保政策大転換こそ、いよいよ、本当の正念場です。安倍政権の手で2015年に安保法制が成立し、日本は“戦争ができる国”になりました。そして、岸田政権下の今回の政策転換で“戦争をする国”へのレールが敷かれた。アメリカと歩調を合わせ続けた結果です。
防衛力の増強は対中国を見据えたものですが、核保有国の中国が日本の防衛力を脅威に感じ、敵基地攻撃能力が抑止力として働くでしょうか? 攻撃のタイミングなどを誤れば、日本が先制攻撃の弓を引くことになるかもしれない。安倍政権は2021年末、「台湾有事は日米同盟の有事」との姿勢を打ち出しました。日本と米国は一蓮托生という意味です。中台情勢が緊迫し、米中武力衝突の可能性が高まれば、日本の自衛隊が敵基地攻撃能力を使い、中国に戦争を仕掛けるという最悪の事態になりかねません。少なくとも、その準備は着々と進んでいる。そうなったら犠牲になるのはまず沖縄、そして日本全体です。
日米同盟を守るために日本は敵基地攻撃能力を使うのか、日本国民の生命を守るために参戦しないのか。答えは明らかです。沖縄を再び戦場にするようなことがあれば、「いったい何をしていたのか」と次の世代に叱られるでしょう。台湾有事を起こさせないために、いたずらに軍事情報に踊らされず、外交を徹底的に強化することが必要です。
いしい・ぎょう●1961年、神奈川県生まれ。85年、共同通信入社。約30年、防衛省(防衛庁)と自衛隊を取材している。近年では、沖縄関連の取材に力を入れており、『南西諸島に攻撃拠点 米軍、台湾有事で展開 住民巻き添えの可能性』(2021年12 月)など数々のスクープを手掛けた。著書に『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社)。
大矢英代さん
ジャーナリスト、米国シラキュース大学助教授
南西諸島へのミサイル配備などは「アメリカの国益」のため。アメリカにいると、それがよく分かります。
石垣島と波照間島、そして沖縄本島で計7年間暮し、その後、アメリカに来て4年になります(ニューヨーク在住)。よく聴いている公共ラジオのニュースで最近、「Japan」「Okinawa」を頻繁に耳にするようになりました。中国に対抗して同盟国日本が軍備を増強しているという文脈なのですが、その中で強調されているのは「日本のミサイル基地の増強や防衛予算の増額はアメリカの国益になる」ということなんですね。
アメリカにいると、それが実によく分かります。決して日本防衛が第一の目的じゃない。あくまでアメリカの国益を守るための政策です。沖縄の在日米軍基地に駐留していた退役軍人たちと話す機会も多いのですが、彼らも首をひねるんですよ。「日本人は米軍基地があるから日本が守られていると誤解している」って。「基地は真っ先に標的になり、戦場になる。軍事の常識でしょ?」と。
私はアメリカに来たとき、現代のアメリカを日本人に考えてもらうためのドキュメンタリー映画を作りたいと思っていましたが、今は違います。沖縄、日本や各国を軍事的に従属させている実態をアメリカ人にもっと知らしめたい。例えば、辺野古新基地の建設について説明すると、アメリカ市民は首をかしげます。日本国民の血税で外国軍の基地を造る日本、世界に例のない米軍「思いやり予算」に年間約2110億円を投じる日本、それをどうしても理解できない。「植民地ならともかく、日本は独立国でしょう? 信じられない」と。
そして米兵たちも苦しんでいます。「正義のために」と信じて沖縄から出撃したイラクやアフガンで、彼らは民間人も殺害してしまう作戦に駆り出され、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥る人や、自殺者もあとを絶ちません。南西諸島で軍事的緊張を高めていくと、軍事的衝突が起きたとき、真っ先に標的になるのは基地のある場所であり、最終的には日米両国の若者が犠牲になるでしょう。そんなことが許されていいはずはありません。
おおや・はなよ●1987年、千葉県生まれ。米ニューヨーク州のシラキュース大学公共コミュニケーション学部放送デジタルジャーナリズム学科助教授。ジャーナリスト、ドキュメンタリー映画監督。早稲田大学大学院生や琉球朝日放送の記者時代、通算7年ほど沖縄で暮す。三上智恵氏との共同監督作品『沖縄スパイ戦史』(2018年)は文化庁映画賞優秀賞などを受賞。著書に『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』(あけび書房)。
ピーター・カズニックさん
歴史家
米中の軍事衝突が起きたら、最初の標的は沖縄です。一つの巨大な米軍基地である日本列島全体も消滅するでしょう。
第2次世界大戦で核兵器による被害を受けた日本は、世界のリーダーとして非核化・武装解除を推進すべきです。しかし、残念ながら、広島出身の岸田首相は軍国主義を支持している。これは恥ずべきことです。
いま、多くの専門家が米中戦争の可能性を指摘しています。航空機動司令部のマイク・ミニハン大将はその可能性を「2025年までに」と言及しました。バイデン大統領も前任のトランプ氏と同様、中国との敵対を続けています。実際、アメリカはフィリピンに4つの基地を新設。朝鮮半島には数十年ぶりに核武装した原子力潜水艦を送り込み、場合によっては核爆撃機も投入の予定です。今年3月には、サンディエゴでアメリカ、イギリス、オーストラリアの3カ国首脳会合があり、AUKUS協定(米英豪の安全保障協定)に基づいてオーストラリアに米原潜の供与が発表されました。アジア太平洋地域全体が中国との軍事的対立に向かっています。
米中戦争が起きたら、最初に標的になるのは沖縄です。私の沖縄の友人たちとももう二度と会えないでしょう。しかし、これは「限定戦争ができる」という考えに基づく発想であり、狂気の沙汰です。日本は戦争の最前線に立つことになる。ミサイル防衛システムを備えても大規模な核攻撃には機能しません。つまり、一つの巨大な米軍基地である日本列島全体が消滅してしまうのです。
私は2025年までに米中戦争が起こるとは思っていませんが、残念ながら、世界は日に日にその方向に進んでいます。(敵基地攻撃能力の保有などで)日本がアメリカの立場を強化するのは、とんでもない間違いです。
今や日本の主要な貿易相手国は、アメリカではなく中国です。中国は、ほとんどのアジア諸国にとって主要な貿易相手国でもある。中国と日本が友好的に付き合えないわけがないと思いますし、日本は平和の仲介役でなければなりません。
ぴーたー・かずにっく●1948年、アメリカのニューヨーク州生まれ。アメリカン大学歴史学部教授。映画監督のオリバー・ストーン氏と共にアメリカ現代史を再評価するプロジェクトを実施。ドキュメンタリー番組『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』は世界各国で放映され、早川書房から同名の翻訳書も出版された。広島・長崎への原爆投下については、「早期の戦争終結のためだった」というアメリカの公式姿勢を厳しく批判している。訪日経験も多く、2013年にはオリバー・ストーン氏と共に沖縄を訪れ、米軍普天間飛行場などを視察した。