3人のお母さんたちが綴るコロナ禍日記。

鈴木花恵さん(46歳)と 優希さん(高2)、沙希さん(中3)の2週間

8月1日(土)

 食品関係の事務員として入社して8年になる。土日、祝日が休みなので子どもの行事には参加できるが、収入が増やせないのが問題だ。
 フルタイムの正社員だが、月給は手取りで約10万円。母子手当や、独立した長女と次女が入れてくれているお金を足しても、1ヵ月の生活費は20万円を切る。一家3人で暮すにはギリギリだ。貯金なんて、もちろんできない。

 今日は高2の三女、優希の部活の試合があって、朝早くから送っていった。優希はお金がかからないように試合のときはおにぎりを持参する。「お店で買うよりお母さんが作ったおにぎりがいい」という。おいしかったと言われるとはりきってしまう。
 中3の四女、沙希も部活に入っていて、中学校最後の大会で優勝できた。キャプテンとしてみんなをまとめて勝利した娘がカッコよくて誇らしくて、元気をもらう。

 私には持病がある。治療でつまずく事もあるが、今は子どもの成長がいちばんの楽しみであり、支えとなっている。

8月2日(日)

 飲食店をやっている友人から「突然バイトの子が辞めたので手伝いに来てほしいんだけど、大丈夫?」と頼まれる。3時間だけ行ってきた。休日のためかお客さんも多くてコロナ感染が心配だったが、十分に注意をして働く。本業に影響しないように気をつけなければ。
 帰り際、「子どもたちに食べさせて」とたくさんお土産をもらう。ありがたいなぁ。

 もらったお手伝い料はガソリンを入れたらなくなってしまった。明日からまた頑張って働こう。

8月3日(月)

 優希の髪を切ってあげた。今回もショートボブ。美容師免許を取っておいてよかった。髪を切るお金が浮く。自分の髪も毛だらけになりながら切る。

 娘たちの髪はずっと私が切ってきた。細くて柔らかかった髪がつやつや太くなって、最近は注文も多い。お姉ちゃんの携帯で検索した髪型の画像を見ながら、ここをもっと梳いて、軽くしてなどの細い希望にこたえる。節約のためなのだが、娘から「友だちに部活が忙しいときに夜でも切ってもらえていいねってうらやましがられる」と聞くと、やっぱり嬉しい。

8月4日(火)

 夏が終われば、秋。修学旅行が近づいてくる。今年は沙希の中学校の修学旅行。旅行費の支払いにはいつも頭を抱える。市から就学援助が出るのだが、振り込まれるのは修学旅行のあと。それまでは立て替えなければならないので、やりくりが苦しい。

 大きな出費のときは10万円まで借り入れができる銀行のカードローンを利用して、母子手当が振り込まれた時に返済している。利息で1回に1000円くらいもっていかれてしまうが、誰かに借りて迷惑をかけるよりずっといい。
 沙希の修学旅行費は約5万円。今回はコロナの一律10万円給付金の中から払った。何か緊急のときのためのお金にとっておきたいところだが、ふだんどこにも連れていってあげられないので、旅行のことも大切に考えてあげたい。

8月5日(水)

 夏休みに入り、中3の沙希は部活を引退して高校受験の勉強の日々……のはずなのだが、日中は仕事に行っているので様子がわからない。毎日のように口をすっぱくして「勉強しないと」と言っているので、頑張ってくれていると信じて私も1日仕事を頑張る。
 沙希はまだどの高校を受験するか迷っているようだ。

8月6日(木)

 今日は月に1回の病院受診日。私の持病は若年性劇症1型糖尿病だ。インスリンを毎日注射している。インスリンがないと生きていけない。

 1型糖尿病は沙希の出産後、1ヵ月検診の時に保健師さんに私の体調不良を相談して発覚。即入院となり、あの時は本当に落ち込んだ。原因はストレスとホルモンバランスの乱れと言われて納得した。出産の少し前から夫が家に帰らなくなっていたから。沙希を出産したあとも、嬉しさよりこれからどうしようという不安でベッドで泣いていた。

 糖尿病という病名のせいか、人から食べ過ぎで起こる生活習慣病のように言われて何度も嫌な思いをした。怠けている人の病気なんじゃないかという偏見の目がつらい。病院のお金もかかる。薬代と管理料(糖尿病の医師の指導料)で毎回2~3万円ぐらい。高額療養費の申請で自己負担が3千円ほどになるので助かるが、お金が戻ってくるまで自分でやりくりしなければならない。
 検診の結果は特に変わったことはなく、体調管理もよくできていると言われ安心した。今日も1日元気に生活できていることを幸せに思う。

8月7日(金)

 今日はお母の誕生日。
 病院の先生に言われた言葉が頭から離れることはない。
「若年性アルツハイマーですね」
 お母は58歳で若年性アルツハイマーになった。施設に入ってずいぶんたつなぁー。

 認知症は、若くして発症すると悪化も早いと言われるが、今は会いに行っても私の顔も分からない、会話も出来ない状態。お母と会う時は会えるという嬉しい気持ちよりも、悲しい気持ちになる。元気だった時は、子育ての何もかもを相談していた。お母が頼りだった。

 コロナで今は面会も限られていて、リモート面会だけ。ヘルパーさんの撮影してくれた写真だけ。
 会いたいな。

 お母、68歳おめでとう。お母の作ってくれた親子丼、いくら真似して作ってもあの味にはならない。
 今日はお母の思い出に浸る1日。

8月11日(火)

 年に1度の会社の役所申請の日。何事もなく終了すると達成感と安堵とでほっとする。
 入社して8年。事務も経理も1人でこなしているが、昇給もない。ボーナスも給与の1ヵ月分が出たり出なかったり。コロナの今年はもちろん出なかった。ギリギリの生活をするだけで精一杯だ。きびしすぎる。

 来年の沙希の高校入学のお金も不安だ。今までは高校の入学用品や制服は、お姉ちゃんたちや先輩のお下がりで済ませて節約してきた。それでも高校の校納金などがかかる。入学してからの定期代、部活入部費用もかかる。そのうえ、来年は地域の高校の制服が新しくなるらしく、お下がりがない。たぶん入学準備のお金だけで18万円はかかるだろう。
 ただでさえ貯金ができていないのに、少しずつ節約をしたとしても来年の3月までに18万円も残せるだろうか。不安しかない。

 沙希には「県立しか行けないからね。落ちたら働く! だから勉強、勉強!」と明るく励ましている。