栗原紀子さん(48歳)と美乃里さん(高2)の2週間
8月1日(土)
早朝5時前に、パジャマが濡れる程の寝汗で目が覚め、体の違和感に気づく。左下肢の痺れ……一瞬、脳梗塞を疑った。
朝イチの介護訪問が8時から。他のヘルパーさんに代わってもらうのも急で迷惑をかける。痺れを我慢しながら出勤。何軒か訪問して合間の時間にかかりつけの病院を受診する。検査の結果、頭部は問題ないようですと言われ安心した。
先生から「会社は君の面倒を一生みてくれないよ。体をいたわらないと」と言われた。確かにそうだ。
これまで私は朝から晩まで働いてきた。昼ごはんも食べる時間がないときもよくあった。働けばその分、収入も増えるからだ。父親がいなくても自分が頑張って働けば、子ども達に人並みの生活をさせてあげられるという思いが強かった。
8月2日(日)
足の痺れは治っていない。今日は午前中のみ出勤なので、頑張って行った。無理をしているなぁと思いながら働いた。仕事終わりにはかなり疲れを感じ、自宅に戻るとずっと横になっていた。
娘は友達とプールへ。コロナ休校の影響で夏休み返上で登校しているので骨休めで行ったのだが、夕方に泣きそうな声で連絡が入った。「荷物から目を離した隙にお財布を盗られた。友達も盗られた。電車代がないから迎えにきて」と。
娘のお財布は月曜日に購入したばかりだった。車の中でかなり落ち込んでいたので、こっそり同じ財布を注文してビックリさせようと思う。
8月4日(月)
今日も朝から暑い。テレビの天気予報が熱中症に気をつけてと言う。
訪問先でも高齢の方は体温調整が難しい。暑い中エアコンをつけずに窓も締め切っている方がいる。室温が高いのに暑くないと言われる方もいるので、体調の確認が欠かせない。今日は入浴介助。暑さで汗が吹き出る。着ている服も汗を拭くタオルも一気に濡れた。夏の入浴介助は倒れそうになる。
訪問先のお宅は、一人暮らしや老老暮らし、家族同居など様々。同居家族の中には仕事で県外に行かれている人もいるので、コロナの不安がいつもある。持病の治療で体力が落ちているので自己防衛のためマスクを1日に何回も替える事もあるし、ゴム手袋は毎回使い捨て。アルコール消毒もかかせない。すべて自己負担なのでかなりの出費だ。
8月5日(水)
今日も酷暑だ。少し動くだけで、汗が止まらない。
今日の訪問介護は、通販生活の読者さんのお宅へ。2年前、娘の入学のときにあすのばさんの入学準備金をいただいたときにカンパをされていた方だ。「うちの娘も○○さんに支援してもらったんだね、ありがとう」と話したことがある。
今回のコロナカンパにも募金したそうで、
「米粒1つだと何にもならないけど、たくさんの米粒が集まったら、1個のおむすびになるんよ。募金も同じ。みんなから少しずつでも集まれば、困っている人を少しでも助けてあげられるからね」
とおっしゃっていた。
私はいまは支援してもらうばかりで、日々の生活で精一杯だけれど、いつかは自分が助けもらったように恩返しで支援ができる人になりたい……と感じた1日だった。
8月7日(金)
午前中は子どもの用事で仕事をお休みした。午後からバイトが入っている娘を送っていく。娘は去年から通学の定期代のためにバイトを始めた。それと夢のため。中学生の頃から目標だった仕事に就けるように専門学校に行きたいという。入学金は自分で貯めるといっている。
私が学生の時は、毎日が楽しければよくて、バイト代は遊ぶためのお金。目標を持って頑張っている娘の姿を見ると、なんとしても応援したいと思う。
とはいえ、授業料と通学のお金を合せると、1年間で約100万円。これが2年間つづく。訪問件数を増やせば収入も増やせるけれど、最近の体調を考えると若い頃のように無理はできないかもしれない。
8月11日(火)
いまの心配は医療費だ。いまは災害による雑損控除があって医療費も安くて済んでいるが、適用期間はあと1年で終わる。
私の持病には月2回の注射が必要で、薬価で30万円弱。3割負担でも9万円。これに診察料と検査費、飲み薬代を考えると、病院代を払うために働いているようなものだ。治療を躊躇しそうになる。
病気の原因は、感染症や疲れ、ストレスなどと言われているがはっきりしない。投薬なしで良い状態をキープしている人もいるようだが、私は一生薬と付き合っていかなければならないかな……とお医者さんから言われている。
8月12日(水)
早朝、寝汗で目が覚めた。エアコンを入れて就寝したのに、パジャマが濡れていたので着替えた。頭痛もひどく、体がだるいが仕事を休むわけにはいかない。今日頑張れば、明日から2連休。気力で持ちこたえる。
夜は遅い時間に帰宅したので、1人で晩ごはんを食べた。食欲もほとんどないが、今日は同居している母が食事をつくってくれたので、食べられる分だけできるだけ食べる。父も母もぐったりした私を見て心配していた。
本当はこんな姿を見せたくないし、心配をかけたくない。いままではいくらしんどくてもムリをして元気そうな言葉を発していたが、最近は家に帰ると素の姿が出てしまう。
明日からのお休みは人混みを避けてゆっくり過ごし、子どもたちとおいしいごはんでも食べに行けたらと思う。
8月14日(金)
帯状疱疹が出た。これで5回目。6月は症状がひどくて1週間入院した。お医者さんにまた入院をすすめられたが、今日は息子が仕事先の寮から帰省していて、娘もバイトがお休み。一緒に居たい。痛みが強くなったら即入院! と約束して自宅へ戻る。
夜、息子が「僕がお金を出すから晩ごはんを食べに行こう」と誘ってくれる。仕事をしてから初めて稼いだお金で奢ってくれた。レジで自分のお財布から支払いをしている姿を見て、社会人になったんだなぁと嬉しくなる。
この子が2歳のときに暴力をふるう元夫と離婚して16年。お金の心配をしない日はなかったが、子どものためなら力をふり絞れた。あっという間だったなとも思う。