ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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あきない世傳(せいでん) 金と銀2

2025/5/9公開

小芝風花主演、江戸の「ど根性商人ドラマ」

 長く時代劇の世界で女性が主役のシリーズといえば、お姫様かくノ一、大奥ものが大半だった。しかし、近年、「女性商売人」が主役の作品が増えてきた。料理人、医師、実業家などなど、さまざまなヒロインが出たが、NHKBSで放送中の「あきない世傳金と銀2」もまさにそのひとつ。大坂天満の呉服屋・五鈴屋を舞台に主人公の幸(小芝風花)が、さまざまな困難と闘いながら、商売に励む。

 小芝といえば、深夜ドラマ「マッサージ探偵ジョー」(テレ東系)で容疑者全員をマッサージして真犯人を突き止める気弱探偵ジョー(中丸雄一)の助手で、女子高生やらキャバ嬢姿に変装、「美食探偵 明智五郎」(日テレ系)では、変人探偵(中村倫也)に勝手に「小林一号」と呼ばれて運転手替わりにこき使われた。「妖怪シェアハウス」(テレ朝系)では、河童やぬらりひょんなどに励まされながら暮らす。変わり者に関わってはズッコける役が多かったが、今年は、大河ドラマ「べらぼう」(NHK)で吉原を代表する花魁瀬川を演じるなど、しっかり者役も増えている。

「あきない世傳」の大きな特長は、以前、このコラムで取り上げた西郷輝彦主演の「どてらい男」や日本だけでなく世界中で人気を博した朝ドラ「おしん」といった「ど根性商人ドラマ」に欠かせない5つの要素がしっかり織り込まれていることだ。その要素とは、「甘ったれの身内」「ライバル」「アドバイザー」「アイデア」「出会いと別れ」である。

 23年に放送されたパート1では、幸は甘ったれに振り回されることになった。

 もともと幸は、学者の父を亡くし、五鈴屋に女中奉公にあがった娘。だが、店の跡取り徳兵衛(渡辺大)は放蕩三昧で、大店出身の嫁の持参金にまで手を付けて離縁となり、五鈴屋も廃業危機に陥る。幸の先輩の女衆(おなごし)お竹(いしのようこ)が徳兵衛につけたニックネームは「典型的なあほぼん」だった。その救世主として老番頭の治兵衛(舘ひろし)が徳兵衛の後添いにと選んだのは、通常、身分的にはありえない幸だった。

 ひどいモラハラ旦那・徳兵衛が亡くなると、五代目を継いだやり手の次男の惣次(加藤シゲアキ)は幸との結婚を望み、事業拡大路線を目指すが、頓挫。幸を離縁し、店の金を持ち出して姿を消す。そして六代目となった心優しい三男の智蔵(松本怜生)と結ばれた幸は、パート2で、新たな店づくりを始めた。ヒロインが三度も結婚するのは珍しい。

 強力な「ライバル」も登場している。

 五鈴屋が苦労して産地を見つけて売り出した絹織物「浜羽二重」を船場の真澄屋(山西惇)が「うちから盗まれたもの」と訴えてきたのだ。疑いは晴れたが、五鈴屋が帯を売り出すと、真澄屋は「帯の真澄屋」とチラシを大量に配布してパクリ商法を展開する。山西は、「相棒」シリーズで、杉下右京(水谷豊)に「暇か?」と声をかけてくる角田課長役で知られるが、ここでは口をへの字にして、嫌な顔ばかりしているのが面白い。

「アイデア」もど根性商売には欠かせない。

 真澄屋に帯の売り上げを奪われたが、幸は昔流行した帯にヒントを得て、リバーシブルで使える帯を考案。発売日には、妹とともにその帯を締め、ランフェイかレッドカーペットのごとく町を歩き、にぎわう芝居小屋の前でポーズを決めて注目を集めた。デザインと宣伝、両方にアイデアが発揮され、見事「逆転」。この気持ちよさは、かのドラマの「倍返し」にも通じるものがある。

 幸の逆転劇の裏には、いつも優秀なアドバイザーがいる。

 それは治兵衛だ。こども時代、治兵衛が丁稚たちに教える商いのイロハ「商売往来」を幸も習いたいと願うが、女子だからと相手にされない。それでも横で墨をすりながら講義を聞くことを許してくれたのだ。幸は治兵衛の家で近江商人の商いのやり方を聞き、販路開拓のヒントを得た。真澄屋のパクリも「マネするもんは必ず出てきますわ」と治兵衛は冷静で、リバーシブルの「くじら帯」の話をしてくれる。五鈴屋の知恵袋なのだ。

 かつてはバイクで走るわ、拳銃はバンバン撃つわ、あぶない役も多かった舘ひろしが、縁側や座敷でにこにこと幸にアドバイスする姿は、なかなかに新鮮だ。

 そして「出会いと別れ」

 幸にとって別れでもっとも辛かったのは、授かった子の死産に続く智蔵の急死だろう。魂が抜けたような状態からやっと立ち直った矢先の夫との別れ。後継者選びのところで、「わてが継ぎとうおます」と宣言する幸だが、大坂には「女名前禁止」という定めがあり、幸は女主人にはなれない!?

 幸は大坂の店を広げ、江戸出店を目指す。江戸の人の着物の好みが、大坂と違うのは今も同じ。店の金を持ち出して姿を消した惣ぼん(惣次)も再登場しそうだし、新たなベテランアドバイザーも登場する。「江戸の商いの川、金色と銀色に染めてみなはれ」治兵衛の言葉を胸に、五鈴屋を率いる幸が新天地でどんな商いを見せるか。ここ一番のチャレンジも、商売ドラマには不可欠。ど根性の見せどころだ。

今回ご紹介した作品

あきない世傳(せいでん) 金と銀2

放送
NHK BSにて毎週日曜18:45~放送中

情報は2025年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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