松本侑子さんのドラマ批評 - ダイナマイト・キス

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ダイナマイト・キス

2026/2/20公開

懸命に働く「人妻」に恋する御曹司のロマンチック・コメディ

画像:ダイナマイト・キス

Netflixシリーズ「ダイナマイト・キス」独占配信中

 ヒロインは、ソウルに暮らすダリム(アン・ウンジン)。
 彼女は、公務員試験などに落ち続けている無職の30代。

 そんな彼女のことを、家族は世間体が悪いと思っているようで、ダリムは妹の結婚式に出席させてもらえません。
「ダリムは海外に留学している」ということにして、無理矢理、欠席させられたのです。

 おまけにダリムがソウルにいると、万が一、人に見られるかもしれないと、遠くの済州島へ、無理矢理、一人で旅行に行かされます。

 すると済州島は、新婚夫婦や幸せそうなカップルでにぎわっていました。

 ダリムは、何もかもがイヤになり、自分には仕事がない、お金がない、彼氏もいないと、絶望の叫び声をあげます。

 しかしその済州島で、運命の出逢いが待っていました。

 彼女は、ひょんなことから、財閥の御曹司ジヒョク(チャン・ギヨン)と恋人同士のフリをすることになります。

 シンデレラ姫のような水色のロングドレスと宝石で着飾って、見違えるように美しくなり、豪華な舞踏会に出て、二人でダンスをするのです。

 さらに、ある理由から、ジヒョクと熱烈なキスをする羽目になります(その理由は、ドラマでお楽しみください)。

 この情熱的で官能的な長いキス「ダイナマイト・キス」に、男のジヒョクは恍惚となり、ダリムに夢中になります。

 彼女をデートに誘い、ベッドにも誘い、いよいよ結ばれるとき……、ダリムはソウルに帰ってしまうのです。

 実は、ダリムの妹の新婚の夫が詐欺にあい、妹は巨額の借金を作り、借金取りから逃げるため、失踪して行方不明。それを知った母は、心臓発作で倒れ、緊急手術をうけたのです。

 そうとは知らない御曹司ジヒョクは、旅先の済州島で、名前も素性も知らないけれど、不思議な魅力の女性に恋したものの、彼女は急にいなくなり、傷心のままソウルに帰り、彼女を探して、思いをつのらせます。

 ソウルにもどったダリムは、母の高額な入院費を払うため、働く必要に迫られます。
 しかし、何の職歴もない女性に、よい報酬の仕事は見つからず、面接で断られます。

 ただ一つ、大手の育児用品会社で、幼い子どもがいる母親限定で、好条件の募集がありました。

 独身で子どももいないダリムは、不正な就職をしてはいけないと迷いますが、背に腹は代えられないと、応募して合格。
 幼なじみの男友だちに頼んで「夫」のフリをしてもらい、母親として働くことになります。

 すると、その会社の御曹司こそ、ジヒョクだったのです。

 ジヒョクは、忘れられない女性ダリムが「既婚で子持ち」だと知り、ショックを受けます。

 さらに彼女が、済州島では独身と偽って、自分をだましたと勘違いして怒り、ダリムに辞職を迫ります。

 しかしダリムは、食べていくため、母の入院費を払うため、やっと見つかったこの仕事に、しがみついて働く必要がありました。

 ダリムの配属先は、哺乳瓶などの育児用品に、母親の視点からアドバイスをして商品開発をする部署でした。

 ダリムは、育児経験もないのにウソをついて就職しました、と告白するわけにいかず、ほかの母親たちに気づかれないよう、一生懸命に働きます。

 こうして「人妻」のダリムに実は未練たらたらで苦しむ上司ジヒョクと、何が何でも働きたい部下ダリムの恋模様と職場の人間関係が、ダリムのウソがいつばれるか、ハラハラドキドキの面白さで展開していきます。

 さらに、社長のポストをめぐるジヒョクと姉の社内の激しい権力闘争。
 育児用品会社の環境問題への取り組み。それは直接的な利益にはならないけれど、次世代の子どもたちに豊かな自然を残すという、大企業としての責任であり、その取り組みなどをめぐるジヒョクの父親と母親の対立。

 ダリムの夫のフリをしてくれる男友だちとの友情と秘めた恋など、周囲の人間ドラマもよく考えられています。

 映画「ローマの休日」のように、女性が身分を偽って展開していく胸キュンのときめきと騒動の楽しさ。不遇で貧しい女性が、裕福な男性と出会って幸せになるシンデレラ・ストーリーのロマンチックさ。

 けれどダリムは、王子の力で幸せになるのではありません。

 自分に絶望していた女性が仕事を見つけ、努力して働き、誠実に生きるうちに、自分でも知らなかった意外な能力を開花させて、目に見える成果をあげ、周囲に認められ、何よりも自分のことが好きになり、自分を肯定して生きていく成長物語なのです。

 ちなみに、既婚女性を好きになり、苦しむイケメンのドラマと言えば、ヒット作「イルタ・スキャンダル~恋は特訓コースで~」。

 これは、男性の予備校講師が、教え子の母親に恋するドラマですが、相手の女性は、実は生徒の母ではなく、独身のおばでした。

 儒教社会の韓国では、本当の人妻と若い男の恋愛は、映画ではOKでも、ドラマでは難しいのかもしれません。

 また、旅先で知りあった女性に恋したものの、突然、彼女が姿を消し、男が忘れられずに苦悩する人気ドラマは「都会の男女の恋愛法」。

 本作「ダイナマイト・キス」は、こうした人気作のヒットの秘訣を採り入れつつ、うまく作られています。

 とくにジヒョク役のチャン・ギヨンとダリム役のアン・ウンジンの恋人同士の演技は、仕事とは思えないほど甘く、幸福感に満ち満ちて、情熱的です。

 2人は本作で、SBS演技大賞のベストカップル賞を受賞、ロマンティックコメディ部門でも優秀賞を受賞。その高評価も納得の息の合った名演技です。


第27回カナダ『赤毛のアン』ツアー(プリンス・エドワード島とケベック州モントリオール、ケベックシティへ)。2026年9月6日(日)~9月12日(土)。松本侑子企画・同行解説、ケイライントラベル株式会社主催、受付中。詳細は松本侑子さんのホームページ。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「ダイナマイト・キス」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2026年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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