松本侑子さんのドラマ批評 - 告白の代価

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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告白の代価

2026/3/30公開

復讐する者の癒えない傷を描く犯罪心理サスペンス

画像:告白の代価 1

Netflixシリーズ「告白の代価」独占配信中

 本作の監督は、「愛の不時着」を手がけたイ・ジョンヒョ。主演女優は、韓国映画&ドラマ界を代表する名優チョン・ドヨンと、名作ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」で無邪気な女子学生を演じたキム・ゴウン。

 というわけで、期待に胸をふくらませて見ました。

 結果、あまりの面白さに2日で全12話を視聴。人間心理の深層をとことんえぐる犯罪サスペンスの凄さと複雑なプロットに圧倒され、ラストシーンの皮肉に満ちた余韻も重なり、しばし、ぼう然としました。

 ヒロインは、高校の美術教師のアン・ユンス(チョン・ドヨン)。
 彼女の夫は、銅版画アーティストで、若い女性にも人気があれます。

 妻のユンスが夫のアトリエへ行くと、夫は首を刺されて血だまりに倒れ、虫の息でした。ユンスは救急車を呼びますが、夫は死亡します。

 第一発見者であるユンスは、警察で取り調べを受けます。
 取り調べ室には大きなマジックミラーがあり、隣室にいる刑事や検事がユンスの表情を注視していました。

 美術教師のユンスは、彼女自身も自由な表現者、アーティストであり、一般常識にとらわれないファッションや髪型をしています。体には母子像の入れ墨があり、昔のヒッピーのようなラフな長髪で、煙草も吸います。

 そんなユンスのすべてが、元警察官である男性検事の反感と誤解を招きます。

 ユンスが赤いシャツを着ていると、夫が死んで悲しむ妻には見えない……、といった思い込みです。

「女らしさ」のない女性へのステレオタイプな偏見と差別感情から、ユンスは犯人と決めつけられ、逮捕起訴され、さまざまな不利な状況証拠が重なって、刑務所に収容されるのです。冤罪の恐ろしさ……。

「私は夫を殺していない」と叫んでも、誰も信じてくれない絶望。
 しかもユンスの幼い一人娘は、父を殺され、母は刑務所に入ったため、施設に預けられたのです。

画像:告白の代価 2

Netflixシリーズ「告白の代価」独占配信中

 そんな救いようがないユンスに、殺人をおかして同じ刑務所に入った若い女が、恐ろしい取引を持ちかけます。

 その若い女は、裕福な歯医者夫婦を毒殺したモ・ウン(キム・ゴウン)。

 モ・ウンはユンスに言います。自分があなたの夫を殺したと罪を「告白」すれば、あなたは刑務所から出ることができる。その「代価」として、ある男(モ・ウンが毒殺した歯医者夫婦の一人息子)を殺害してほしい、と頼むのです。

 取引には期限があり、期日までにユンスが男を殺さなければ、「告白」は虚偽だったと明らかにする、つまりユンスは刑務所に逆戻り、という条件です。

 ユンスは早く刑務所から出て娘に会いたい一心で、この取引を受け入れます。そして釈放されて自宅に帰り、娘と暮らします。

 しかし、ユンスは学校では生徒に慕われる教師であり、家庭では母親です。
 そんな女性が、果たして、本当に人を殺(あや)めることができるのか?

 ユンスの心は善と悪に引き裂かれて迷い苦しみ、良心と恐れに葛藤します。それでも殺さなくてはならないという焦り。

 しかも釈放されたユンスは、電子足輪をつけられ、GPSで、位置情報が監視されています。行動範囲も、せまい生活圏内に制限され、好き勝手な場所に行くことはできません。

 この厳しい監視網を、ユンスは、どうやってくぐり抜けて、男を殺しに行くのか? どうやってアリバイを作るのか? 

 さらなる奇想天外な展開に、視聴者はだまされ、あっと驚かされます。

画像:告白の代価 3

Netflixシリーズ「告白の代価」独占配信中

 また、この危険な取引をもちかけた若いモ・ウンは、なぜ歯医者夫婦を毒殺し、その息子まで殺そうとするのか。

 強い殺害動機の背後には、どんな恨みがあるのか? どんな壮絶な過去があったのか?

 モ・ウンの過去の衝撃と悲しみが、暗く陰鬱な色彩構成の画面を通じて、少しずつ浮かびあがってきます。

 そもそも、夫殺しの真犯人は誰なのか? 
 登場人物の利害関係と愛憎がからみあい、真犯人が、ユンスを追い詰めて、さらなる危険に追い込んでいくのです。

 最後まで、凝りに凝った複雑な脚本のうまさが光り、引きこまれます。

 本作の名演技者は、モ・ウン役の女優キム・ゴウンさんです。

 キム・ゴウンさんは、2016年のドラマ「トッケビ」では、髪をたらした愛らしい女子学生役でしたが、2025年12月公開の本作では、すっかり大人になり、髪を坊主頭に刈り上げ、無表情なサイコパスの殺人鬼を静かな気迫で演じています。

 しかもドラマ中の殺人鬼モ・ウンは、本当は誠実で優秀な、ある専門的な職業人なのですが、わざと不気味なサイコパス殺人者のふりをして、警察とユンスを見事にだましています。キム・ゴウンさんの、この二重の演技のうまさに震えます。

 感情表現に乏しい無表情の演技、その無表情の裏に隠された決して癒やされない悲しみ、死を覚悟した諦念、自分の命をかけてでも果たす復讐のせつなさが、見終わったあと、ひしひしと重く胸に迫ります。

 このドラマにおいて、すべての悪の根源は、結局は、司法の不十分さにあると言えるのではないでしょうか?

画像:告白の代価 4

Netflixシリーズ「告白の代価」独占配信中

 最後に一つ余談ですが、このドラマを見て、韓国の警察の取り調べ中の録画に気がつきました。

 ドラマでは、刑事がユンスやモ・ウンの取り調べを始める前に、机に設置されたビデオカメラのスイッチをオンにするシーンが毎回、必ず映し出されます。

 調べると、韓国では、原則として録画が義務化され、とくに殺人事件、汚職事件、性犯罪などの重大事件の取り調べは必ず録音録画するよう法改正されたそうです。

 録画により、取り調べが密室化せず、透明化、可視化されます。

 刑事が強い口調で容疑者に圧力をかけない、不適切な質問をしない、供述と異なる調書が作られない、長時間の取り調べで容疑者に身体的、精神的な負担をかけないなど、公正で民主的なプロセスが保証されます。

 司法にとっても、取り調べの全録画があるため、裁判で不要な対立や混乱がなく、判決までの日数が短縮される、司法と警察への信頼が高まる、など利点があるようです。

 思い返せば、本作と同じくイ・ジョンヒョ監督のドラマ「ライフ・オン・マーズ」では、主人公の刑事が、1980年代の警察へタイムスリップしたところ、昔の刑事は、容疑者に殴る蹴るの暴行を加え、怒鳴り、自白を強要していたため、現代ソウルから来た刑事は仰天します。

 韓国では、こうした過去の捜査手法を改善するため、取り調べの録画が原則として義務化されたのです。


松本侑子さんの講座「『赤毛のアン』と手帳で幸せに暮らす方法」
2026年4月19日(日)13時半~15時。中日文化センター名古屋・栄教室。ご自宅でZoom受講も可能。詳細は松本侑子さんのホームページにて。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「告白の代価」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2026年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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