田幸和歌子さんのドラマ批評 - ゲームチェンジ

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ゲームチェンジ

2026/2/13公開

人生の岐路に立つ若者3人がスマート農業と出会う

 BS-TBS「木曜ドラマ23」枠で1月8日から放送開始の『ゲームチェンジ』は、人生の岐路に立つ若者3人がスマート農業と出会い、人生をリスタートさせるオリジナル・ヒューマンコメディーだ。

 主人公の草道蒼太(中沢元紀)は、パン屋を営む実家でニート生活を送っていた。しかし、両親はパン好きが高じて日本全国パン屋巡りの旅に出ることになり、パン屋は休業。家は親戚に貸すことになり、蒼太は職探しをする。パン屋巡りに行く両親の生き方に「夢中になれるものがある人生っていいよな」と呟いたそのとき、オンラインゲーム上に謎のアバターが現れ、紹介されたのが短期OK・寮完備・食事付きの茨城の「ドッグマウンテンファーム」。仕事内容は「スマート農業」だった。

 しかし、実際に行ってみると、元ITマンでスマート農業を手掛ける犬山浩(小松和重)宅の1室を与えられ、一つ屋根の下で同居するという生活。落胆する蒼太だが、ドローンによる肥料散布を目の当たりにすると、「すげぇ……」と目を輝かせる。蒼太はゲーム会社に勤めたものの、パワハラで退職していた。とはいえ、そこからのめり込むわけではなく、繊細で後ろ向きで、食べなきゃ生きていけないと言われると「ホントに生きなきゃいけないのか」と呟く。

 一方、犬山家が始めた婚活アプリの普及に能力を発揮するのが、仕事で大きなミスをして謹慎処分となった東京のPR会社勤務の沢樹結女美(石川恋)だ。そこに、就職活動に苦戦する雑草オタクの大学院生・立花龍郎(髙松アロハ・超特急)も加わり、それぞれが茨城県を舞台に新たな一歩を踏み出していく。

 企画・脚本・プロデュースを手掛けるのは、『直ちゃんは小学三年生』シリーズや『姪のメイ』『風のふく島』で知られる青野華生子氏。個々に背負う困難やシリアスな背景を足元に置きつつ、人間のたくましさ・面白さ・愛おしさを湿度の低いユーモアをまじえて描く作風で知られ、ニッチなテーマのなかにも人間の普遍性を描くのが持ち味だ。

『直ちゃんは小学三年生』では大人が小学三年生を演じるという異色の設定で「コスプレでも"ごっこ"でもない笑い」を追求し、ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞を受賞。『姪のメイ』では福島12市町村を舞台に、姉夫婦を事故で亡くした主人公が姪を引き取り仮移住するひと夏を描き、「希望を持てない若世代が生きることを学んでいく」様子を温かく見つめた。『風のふく島』でも福島12市町村を舞台に、実在する移住者たちにフォーカスしたオムニバス形式のヒューマンドラマを描いている。

 制作を手掛けるフラッグの公式コラムによると、本作のきっかけは、スマート農業関係者との出会いだったという。「令和の米騒動」で露呈した生産者と消費者の分断、農業を取り巻く諸問題を現代社会全体の課題として捉え直す試みだ。青野氏が「農業×テクノロジー」というテーマから抽出したキーワードは「調和」。人間とAIの調和、そして人間同士の調和である。

 ここ1年で一気に浸透したAIに、仕事を奪われるのではないかと戦々恐々としている人や職種は多い。しかし今、AIによる効率化で、人間ができること・人間にしかできないことを考え、より人間らしさを問い直す段階にきている。本作でもスマート農業を敵視する"昭和のがんこじじい"猿島次時(山内圭哉)が登場。第1、2話の段階では古い価値観と新しい価値観の分断が生じている。

 ゲーマーでニートという蒼太の設定にも時代の課題が見える。ドローンという技術は戦争にも農業にも使われる。同じ技術が人を殺す道具にも、食べ物を育てる道具にもなる。農業の人手不足と日本のニート約60万人をマッチングできないかという発想も、従来の枠組みを超えた思考だ。実際の農家への取材も重ね、農家の考えや思いも丁寧に描き込んでいるという。

 蒼太を演じる中沢元紀は、『下剋上球児』で注目を集め、朝ドラ『あんぱん』では嵩(北村匠海)の弟で、戦争で命を落とす千尋役で印象を残した若手俳優。本作がドラマ初単独主演となる。

 青野氏が一貫して描いてきたのは、困難に直面しながらも前を向いて歩き出す人々の姿だ。本作でも、パワハラで退職した蒼太、ミスで謹慎処分となった結女美、就活に苦戦する龍郎と、それぞれが挫折や壁に直面している。しかし彼らは、スマート農業という新しい世界との出会いを通して、自分を縛っていた概念に気づき、新たな可能性を見出していく。

 ちなみに、タイトルの「ゲームチェンジ」はビジネス用語では、従来のルールや常識を覆し新たな価値基準を生み出す意味がある。AI時代という時代の変わり目、登場人物たちが迎える人生の節目という多層的な意味も重なるのだろう。技術革新が社会を変える時代に、人間一人ひとりが自分の人生のあり方を書き換えていく。その勇気と希望を、青野氏は茨城の田園風景を舞台に軽やかに描き出していく。スマート農業という入口を通して、AIと人間、個と調和、過去と未来という普遍的なテーマに軽やかに切り込む作品だ。

今回ご紹介した作品

ゲームチェンジ

放送
BS-TBS系にて毎週木曜23時~放送中
配信
U-NEXT、huluなどにて配信中

情報は2026年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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