地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
太宗(テジョン)イ・バンウォン~龍の国~
2025/2/21公開
朝鮮王朝の基盤を作った第三代王の生涯を描く
歴史ドラマの面白さを再認識させてくれた秀逸な作品といえば、2021年に韓国KBSで放送された大河ドラマ『太宗(テジョン)イ・バンウォン~龍の国~』(全32話)が挙げられる。
イ・バンウォン(李芳遠)は、朝鮮王朝の三代目の王。日本では、朝鮮で最も優れた王とされ、ハングル(訓民正音)を創始した四代目世宗大王の父と言えば分かりやすいだろうか。しかし、少しでも朝鮮史を学んだ者であれば、このイ・バンウォンを、すさまじい兄弟殺しをやってのけた殺戮者として記憶しているはずだ。
イ・バンウォンは、始祖であるイ・ソンゲ(李成桂)の五男として生まれ、朝鮮王朝の成立に多大な貢献をしたが、父が後継者に選んだのは幼い異母弟の八男だった。
そこで、彼はまず異母弟の七男と八男を殺し、兄の次男を王に据えた(長男は既に病死していた)。次に四男を殺し、政権奪取に力を貸してくれた妻の一族をも殺しまくった。
もともと武人一族だった李氏の中で、彼は唯一科挙に合格した文官エリートであり、一族の危機を何度も救った功労者でもあった。その彼がなぜこれほどの殺戮を行ったのか、理由は単なる権力欲だけだったのか。
彼は、王朝の権力基盤を盤石なものとするため王族の私兵を廃して国軍の強化を図り、また長男のできが悪いと見るや、さっさと見捨てて最も優秀だった三男に譲位した。このことだけからも、イ・バンウォンが何を求めていたのか興味をそそられる。
しかし、資料も乏しいこの時代の人物の心の内は、想像力を駆使して推し量るしかない。
この作品はそこに切り込み、まさに彼の行いの動機を描き切ったと言える。しかもそれは、私たちが教えられてきたイ・バンウォン像とはかけ離れたものだった。
追い詰められた果ての選択、いや、選択肢すらない中で、生き残るためにあがいた結果としての殺戮だったとしたら。そこからは、歴史そのものが今までとは違う立体感を帯びて立ち上がってくる。
もちろん、これはドラマだ。
あくまでも想像の世界でしかない。
しかし、その想像力こそ、“人間”を知るために欠かせないものと言えないだろうか。
朝鮮史をある程度知る者にとっては、どの回も「え! そうなの!?」とか「そんな解釈あり!?」と唸ってしまう展開ばかりだ。
たとえ史実通りではなくとも、今までの固定観念を破壊するほどの威力がある作品で、さすがKBS大河ドラマ!と言うしかない。
なお、高麗時代のイ・バンウォンやイ・ソンゲの雰囲気を知りたいなら、名作『六龍が飛ぶ Roots of the Throne』(2015年)がある。高麗を倒して理想国家を建てた6人の英雄を描いたドラマだ。
それを見てから『太宗イ・バンウォン』、そして息子である世宗大王の苦悩を描いた『根の深い木-世宗大王の誓い-』(2011年)を見れば、強大な父親の下でどうすれば善政を行えるかという世宗の葛藤を垣間見ることができる。
民に文字を与えるとは、まさに特権階級からその特権を奪い、下々に革命の力を与えることでもあるからだ。
仏教をベースにした高麗から儒教国家朝鮮の成立、そして王朝の基盤を作ったイ・バンウォンとハングルを制定した世宗大王まで、約150年の歴史を一気通貫で楽しんでいただきたい。
今回ご紹介した作品
太宗(テジョン)
イ・バンウォン~龍の国~
- 配信
- Amazon Primeにて配信中
DVD-BOX全3巻 発売中!
発売元:「太宗イ・バンウォン~龍の国~」日本語版製作委員会
販売元:TCエンタテインメント
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情報は2025年2月時点のものです。