地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ナインパズル
2025/8/4公開
近年まれにみる緊張感のあるパズル犯罪ドラマの傑作
© 2025 Disney and its related entities
近年まれにみる緊張感を味わった作品が『ナインパズル』(2025年、全11話)だ。
女子高生のイナが自宅の扉を開けると、叔父が殺されていて、そこには一枚のパズルのピースが残されていた。
第一発見者のイナは容疑者として取り調べを受けるが、アリバイを主張すべきその時間の記憶がない。証拠不十分で嫌疑なしとされたものの、担当刑事のハンセムはその後もイナを疑い続けていた。
そして10年後、同じようにピースが置かれた第二第三の事件が発生する。
今ではソウル地方警察庁の犯罪分析チームに所属しプロファイラーとして活躍していたイナと因縁の刑事ハンセムがタッグを組んで事件の謎に挑むのだが、なにしろ毎回「こいつが怪しい」という人物がどんどん登場し、しかも、様々な糸で人間関係が絡み合っていく。
連続殺人事件の真の始まりはいつだったのか、ピースの絵に秘められた犯人のメッセージは何なのか、この人は味方なのか敵なのか、それとも容疑者なのか。
衝撃の事実が次々と明らかになり、誰しもが持つであろう他者への疑念、そこからくる恐怖心と罪悪感が絡み合い、パズルの謎解きは最後の9個めのピースが発見されるまで続く。
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イナのような天才肌でちょっと神がかった若い女性役を選ぶとしたら、私でも迷わずキム・ダミを指名するだろう。『梨泰院クラス』で存在感を発揮した彼女の新人類系演技は、ここでも見事に発揮された。
そしてこのイナに茶化され振り回される、真面目で執念深い刑事ハンセム役をソン・ソックが演じた。
ソン・ソックといえば、ゾッとするほど恐ろしい犯罪者から意地悪な上官まで自在に演じ、エロさが爆発したと言われる『私の解放日誌』では世界中の女性を虜にした。ところが今回の作品では、彼の持ち味である、あの沼底に落ちるような暗い妖艶さは封印され、不器用でいながらカッコいい刑事を見事に演じ切った。
この二人だけでなく、何しろ出演者がみんなうまい。最終話放送前のネットでの考察合戦は、私でもついていけないほど盛り上がっていた。
見終わって、よくここまで騙してくれたな、と感動するほど頭が疲れた。(笑)
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ところで、私がミステリー小説は大して読まないのにミステリードラマや映画に魅了されるのはなぜだろうか。それは多分、自分が持っている偏見を、映像という具体的な形で目の当たりにすることができるからだ。
物語が進んでいくにつれて「怪しいと思える人」が出てくるのだが、その人をそう思う裏には、私自身の日常的な偏見とか、外見から判断してしまう差別心などが重なりあっている。ミステリードラマはそこを見事に突いてくる。怪しげな行為の裏には必ず何らかの複雑な事情があることを教えてくれるのだ。
例えば性売買のニュースでは、女性たちはいつも「遊ぶ金欲しさ」といった枕詞付きで報道される。そこでは、その背後にある貧困、虐待、性暴力、性売買業者による搾取などは見えなくされている。
ミステリードラマは、そんな紋切り型の報道に流されず、立ち止まって考える力を与えてくれるのだ。
中でも特に『ナインパズル』は、疑心、恐怖、罪の意識と共に、「信じる」とはどういうことかを考えさせ、目に見えるものを見ているだけでは足りないことを思い知らせ、そして最後には、温かな人間関係がいかに大切かを伝えてくれる。
現時点では、パズル犯罪のドラマとしてこれを超えるものはないと言えるほどの傑作となっている。
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今回ご紹介した作品
ナインパズル
- 配信
- ディズニープラスのスターにて全話独占配信中
情報は2025年8月時点のものです。