2024/11/15公開

岡田将生と中井貴一競演が生み出す「安心感」

　日頃楽しむドラマに何を求めるかは、視聴者によってさまざまだと思います。また同じ人間であっても、その時の自身の状況に応じて見たくなる作品は違ってくるはずです。日々の生活がイマイチうまくいっていない時に、ドスンと重くなる物語には触れたくないという気分になりがちでしょうし、一方であまりにノー天気なお気楽系のドラマは苦手という人もいることでしょう。そして個人的な嗜好を超えて、現在置かれている社会状況がどうかということも、好まれるドラマの種類に大きな影響を及ぼします。私も時折使いますが、「ドラマは社会を映す鏡」とは、まさに言い得て妙な表現だと感じています。

　今期のドラマの中で大いに楽しんで見ている作品のひとつが、「ザ・トラベルナース」（テレビ朝日系）です。第一弾は2022年に放送されましたので、２年ぶりの続編ということになります。主演を務めているのは、岡田将生さんと中井貴一さんという極めて豪華な2人ということもあって、前作も大いに話題となり視聴率も獲得していました。細かな事情は分かりませんが、全8話という些かショートバージョンだったことも、続編を求める声が高まった理由のひとつかもしれません。もう少し見たい！　といういわば飢餓感は、エンターテインメントを提供する上でとても大事なことでしょう。

　岡田将生さんは、今年を代表するヒット映画「ラストマイル」で満島ひかりさんと共に、素晴らしい演技を披露してくれました。また伊藤沙莉さんが主演し大きな話題となった前作の朝ドラ「虎に翼」では、伊藤さんの夫役として、内省的な難しい役柄を見事にこなしていました。今一番乗っている俳優といっても言い過ぎではないでしょう。相当な忙しさかと想像しますが、それを感じさせないエネルギーに満ちています。

　中井貴一さんの活躍については、読者の皆さんに改めて説明する必要がないほど、今やベテランの風格が滲んでいます。主演はもちろんのこと、今年初め、木梨憲武さんと奈緒さんの共演が話題になった「春になったら」（カンテレ制作・フジテレビ系）では、木梨さんの高校時代の友人として１話だけ出演されましたが、さすがの存在感でした。小泉今日子さんと共演した名作「最後から二番目の恋」（フジテレビ系）が来年あたり放送されるのでは？　との噂もあります。もし実現したら最高ですね。

　さてドラマの内容ですが、タイトルに「トラベル」とあるように、フリーの看護師の物語です。九鬼静（中井）と那須田歩（岡田）はいずれも超優秀な看護師なのですが、やたらと互いにぶつかります。けれども心の奥底では、誰よりも信頼し合っているのです。前作では、静は命に関わる病気にかかっており、続編は無理なのか？　とも思われましたが、さきほども述べた通り、視聴者の熱き声で今回実現に至ったと言えるかもしれません。

　前作と今作では舞台となる病院は変わり、医者たちも違った顔ぶれになっていますが、ナース役として寺島しのぶさん、安達祐実さん。野呂佳代さんは続投ですし、ナース紹介所の社長役で浅田美代子さん、おむすび屋で働く池谷のぶえさんなどお馴染みのメンバーたちも、立場を若干変えながら引き続き出演しているのは嬉しいものです。前作同様のパターンですが、静と歩は新メンバーも加えたナースたちとおむすび屋の2階をいわば「寮」として共同生活をしています。そこでのユーモラスな展開もドラマの楽しみのひとつです。

　こうしたいわば「安心感」がベースにあるのは続編の大きな強みでもあるわけですが、今回は「病院の働き方改革」をテーマに据え、院長たちと現場の対立構造を上手く描写しています。一見穏やかに見えながら、実は独断型の若き院長・薬師丸卓を演じているのは、山﨑育三郎さんです。「ドクターＸ」を初め数々のヒット作を持つ中園ミホさん、そして香坂隆史さんの脚本は、続編でも切れ味抜群です。