6月23日は沖縄「慰霊の日」──

沖縄を二度と
戦場にしないために。

沖縄から15人の声

太平洋戦争末期の1945年6月23日、沖縄での日本軍による組織的な戦闘が終結したことから、6月23日が「慰霊の日」に定められました。この日、沖縄では犠牲者を偲ぶ追悼式が行なわれます。今年5月15日(沖縄の本土「復帰」の日)から5日連続で公開した「沖縄から15人の声」を改めてお読みください。

東盛あいかさん

平良隆久さん

与那覇恵子さん

私はこう考える

東盛あいかさん

映画監督・俳優

台湾から沖縄に至る島々には、その土地で明日を生きる人々がいます。危機を煽るばかりでは分断は消えません。

 私の故郷、日本の最西端・与那国島。人口1600人余り。沖縄本島からは500キロ離れていますが、台湾との距離はその5分の1の約110キロです。天気の良い日には台湾が肉眼で見えます。私の中学校の修学旅行は台湾でしたし、戦前は与那国と台湾の人たちは普通に行き来していました。
 島には高校がないので、中学卒業と同時に多くの子どもは島を離れます。私は京都の大学で映画制作を学びましが、本土暮らしが長くなるほどに与那国の大切さが身に沁みるようになりました。93歳になる祖父は島の民具職人で、島の生き字引のような祖父の話が私は大好きです。私が監督・主演した映画のタイトルを『ばちらぬん』(与那国語で「忘れない」の意味)としたのも、私にとって、もちろん多くの島民にとっても島が特別な存在だからです。
 だけれども、島は変わりました。台湾有事を煽る報道やネット情報、実際の軍備増強に頭も気持ちも追いつきません。しかも島民はほとんど何も知らされてないのです。自分の島のことなのに、新聞やテレビを見て、演習の戦車やPAC3(迎撃ミサイル)が来ることを知りました。島の人たちが関与できないところで物事が決まり、与那国が変わっていくのが怖い。
 台湾から沖縄へと連なる島々は、時代の波に飲まれても独自の文化を築いてきました。戦争は誰も望まない。どんなに予想しても正解は無いのだから、今は海を越えた人と人とのさらなる繋がりを私は求めたい。


ひがしもり・あいか●1997年、沖縄県与那国町生まれ。石垣島で映画に出合い、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科で学ぶ。在学中に与那国島を舞台とした映画『ばちらぬん』を制作し、自ら監督・主演を務めた。ドキュメンタリーとフィクションを重ね合わせた力作は2021年の「ぴあフィルムフェスティバル」のコンペティション部門でグランプリを受賞。現在は台湾と与那国島を舞台とした新作に取り掛かっている。

平良隆久さん

漫画原作者

敵基地攻撃能力の保有がいかに愚策であるか、軍事の常識から考えれば分かることです。

 漫画『ゴルゴ13』はその時々の国際情勢や軍事問題をテーマにしています。シナリオ作家として関わってきた私は特に軍事を重視しました。例えば、第99話「沖縄シンドローム」は、過度な基地負担と犠牲を沖縄に強いてきた問題を告発する内容です。作中では不平等を打破しようと、自衛隊の有志らが沖縄独立を図り、日本との独立戦争を挑もうとする。漫画のストーリーではありますが、不平等な日米地位協定や沖縄の犠牲は絵空事ではありません。
 日本人は“軍事”を知らなさすぎです。学校でも軍事に関することを教えません。在日米軍専用施設の7割以上が沖縄に集中している、米軍は首都圏上空に広大な占有空間を持っている、東京の高層ビルより低い高度で飛行する米軍機を日本の航空法は規制できない……。不平等の実例はたくさんあるのに、ほとんど知られていないのです。
 次のような例もあります。「日米同盟を解消して自衛隊だけで日本を守る場合、23兆円もの防衛費が必要」と著名人らは言っています。だから日米同盟を現状のまま受け入れよ、という理屈です。しかし、この試算を出した防衛大学校の教官は、同盟解消後に必要な防衛費は「4兆2069億円」だと明示し、「23兆円」は経済波及効果を含んだ数字だと著書にはっきり書いている。米軍がいなくなれば毎年23兆円もの防衛費が必要になるというウソがまことしやかに語られるのは、日本の安全保障が、いかにあやふやな情報をもとに議論されているかを示しています。
 台湾有事についても、大事なことがスルーされがちです。日本が「抑止のため」と言って敵基地を攻撃したら、中国は日本攻撃を思いとどまるでしょうか。中国は核を持つ軍事大国です。核でアメリカを恫喝すれば、ウクライナ戦争同様、アメリカは直接手を出せません。そうなると、日本だけが矢面に立たされる。戦争はいったん始まったら簡単に終わりません。軍事的愚策を考えるのではなく、日中平和友好条約の原則に立ち返るなど、日本政府が検討すべきことは山のようにあるはずです。


たいら・たかひさ●1962年、沖縄県那覇市生まれ。『ゴルゴ13』や『名探偵コナン』など人気漫画のシナリオ作家の1人として活躍中。アメリカ施政下の沖縄で育ち、軍事に深い関心を持つように。父は占領下・沖縄の英字紙『モーニング・スター』で働いていた。著書に『まんがでわかる日米地位協定』(小学館)など。

与那覇恵子さん

名桜大学元教授

戦争で犠牲になる台湾と沖縄の声に耳を傾けた平和重視の外交を政府に求めます。

 2021年のクリスマス・イブの朝、沖縄に驚きのニュースが飛び込みました。『南西諸島に攻撃拠点 米軍、台湾有事で展開/住民巻き添えの可能性」という共同通信の配信記事を沖縄の新聞が大きく伝えたのです。ショックでした。以降、ウクライナ戦争を引き合いに出しながら、「台湾有事」(中国の台湾侵攻)が煽られ、それを前提に自衛隊配備やミサイル基地建設が急速に進行しました。地獄の沖縄戦から70年余り。“開戦前夜”の状況となり、再び戦場となりかねない危機に私たちは怯えています。
 そうしたなか、昨年5月に内外の有識者らが集う「沖縄対話プロジェクト」が発足しました。プロジェクトでは「戦争は対話が途絶えたところから始まる」と訴えています。対話とは、意見を異にする者同志が相手を尊重しつつ、意見や立場の違いを乗り越え共通点を見つけていく共同作業です。命を奪い、国土、文化、経済を破壊する戦争には、高齢者も若者も保守も革新も関係なく反対のはずです。
 沖縄対話プロジェクトは「シニアと若者の対話」「中国、台湾、香港、日本の若者の対話」も開催してきました。今年2月の「第1回沖縄・台湾対話シンポジウム」では、沖縄と台湾の立場を異にする識者らが「台湾有事とは何か?」「台湾有事を起こさせないために何ができるか」について対話。4月にも2回目の沖縄・台湾対話シンポジウムを開きました。
 “起こされる戦争”によって“犠牲にさせられる”沖縄と台湾の声が無視されていいはずがありません。沖縄も台湾も戦場にさせないためにも、国境を越えた対話重視の平和外交を施政者に求めます。これからも、対話で人を繋ぎ、戦争を防ぐ活動を続けます。


よなは・けいこ●1953年、沖縄県那覇市生まれ。沖縄県名護市の名桜大学国際学部教授を2019年に定年退官。専門は英語科教育。翻訳・通訳も務める。「東アジア共同体琉球・沖縄研究会」共同代表。著書に評論集『沖縄の怒り』、詩集『沖縄から見えるもの』(いずれもコールサック社)など。2022年5月発足の「沖縄対話プロジェクト 台湾を戦場にしてはならない・沖縄を戦場にしてはならない」共同代表。