通販生活×あすのば 入学準備金カンパ

新入学で必要なランドセルや制服が買えずに不安を抱えている子どもたちに、一口2000円のカンパをお願できませんか?
2016年冬号から公益財団法人「あすのば」さんとタッグを組んではじめたこの企画は、今年で4年めを迎えました。

カンパのお申し込み

19年度春 小・中・高入学準備金カンパ

“返さなくていいお金”が子どもたちの明日をつくる。
室井佑月さんが、あすのばカンパを立ち上げた学生さんたちに聞きました。

「新入学で必要なランドセルや制服が買えずに不安を抱えている子どもたちに、一口2000円のカンパをお願いできませんか?」
16年冬号にはじまったこの企画では、2年間でのべ4万6514人の読者からカンパをお寄せいただきました。
そもそもはこの新入学応援カンパ、子どもの貧困当事者として「あすのば」に参加している学生さんと元学生さんたちが街頭募金から立ち上げた支援が始まり。
昨年、街頭募金に立った石川昴さん、深堀麻菜香さん、奈良裕二さんと、この春、新高校生として入学準備金を受け取った仲里七星さんに、室井佑月さんがお話を聞きました。

左から:石川 昴さん・室井佑月さん・深堀麻菜香さん・仲里七星さん・奈良裕二さん
左から:石川 昴さん・室井佑月さん・深堀麻菜香さん・仲里七星さん・奈良裕二さん

室井 自己紹介がわりに私の話からするね。私はいま高3の息子がいるんだけど、食費なんか目じゃないくらい教育費をかけていて、どうしてかっていうと、私が子どもの頃に貧しくて、親が夜逃げをしたりして小学校を6回も転校しなきゃいけなかったのね。自分が離婚して1人で息子を育てることになったとき、住む場所と教育だけはちゃんと与えようと思ったんだよね。
みんなは学校のことで何がいちばん大変だった?

深堀 うちは3人姉妹なんですけど、引っ越しで私と妹たちとで中学校の制服が違ったり、妹たちが2歳差で同じ時期に中学校に通わなくちゃいけなかったので、立て続けに制服が3着必要で。たしか、学校の制服のリサイクル販売でブラウスや靴なんかの消耗品は安く買えたのかな。それでも母はお金のやりくりが大変そうでした。

石川 僕も制服はお下がりです。2歳から児童養護施設にいて上の学年の様子を見ていたから、そういうもんだと思ってた。自分の身長に合うきれいなやつを早いもの勝ちで選ぶ (笑)。教材や文房具はふつうに買ってもらえたけど、「シャーペンは1人1本」とか予算が決まっているから、失くしたときは困りました。

この給付金がもらえることになって、お母さんが『全日制の高校に行けるよ』って。うれしかったです。(仲里さん)

仲里 私はランドセルが親戚のお下がりだったんですけど、それが赤紫みたいなビミョーな色で(笑)。友だちのランドセルはピカピカだし、色もかわいくてうらやましかった。だから今年、妹が小学校へ入学したときは、絶対に買ってあげたほうがいいよってお母さんにしつこく言って。

室井 買えたの?

仲里 あすのばの給付金で買えました。妹もお店へ一緒に行って自分でうす紫色のを選んで、すっごく喜んでいました。私も今年高校入学だったんですけど、この給付金が決まるまでは全日制の高校に行きたいって言えなかった。制服とか入学前にお金がたくさんかかるから、通信制しか行けないなって。お母さんも気づいていたと思うけど、お互いにつらいから話せなくて。あすのばから給付金の通知をもらって、お母さんに「これでみんなと同じ高校に行けるよ!」って言われたときは、うれしかったです。

室井 学校って子どもが社会へ出るための準備期間なのにさ、家にお金がないとその最初の最初から差がついちゃう。スタートラインにちゃんと立たせてもらえないんだよね。

上の学年へ進むほど、スタートラインの差は開いていく。

室井 大学生の2人は、学費はどうしてるの? 奨学金破産が問題になっているけど。

奈良 僕は日本学生支援機構の奨学金を月に3万円借りています。足りない分の学費は母が払ってくれていると思っていたんですけど、半年くらい前に、本当は僕の姉たちから借りているらしいって知って、ちょっと驚いたっていうか。

室井 お母さんは話さないの?

小4で父が亡くなって親戚にお母さんを頼んだよと言われたとき、母が心配することはもうできないなと思った。(奈良さん)

奈良 うちは僕が小4のときに父が亡くなって、母が福祉関係の仕事をして5人の兄弟を育ててきたんですけど、僕は末っ子のせいかお金のことをあまり教えてもらえなかったんです。大学に入ってから、あのとき母が書いていたのは生活保護の申請書だったのかと気づいたり。僕自身も、父のお葬式で親戚のおばさんに「お母さんを頼んだよ」って言われてから、困ったことがあっても母に言わないようにしようって思うようになって、お互いに心配させないようにしている感じです。

深堀 うちは私が中3のときに出稼ぎに行った父と連絡が取れなくなって、母のパートだけで暮らせなくて生活保護を受けるようになったんですけど、大学に進学するために「世帯分離(※)」の手続きをしなくちゃいけなかったのが大変でした。1人暮らしのアパートを借りるのにも、家族はまだ生活保護を受けていて保証人になれないから保証会社に頼もうとしたら、「保証会社を利用するための保証人」が必要だったりして。友だちは受験が終わってわーいって遊んでいるけど、私はそんなヒマないぞ、みたいな。

現行の制度では、生活保護世帯の子どもは高校卒業後は働くことが原則とされており、進学する際には「世帯分離」の手続きを取って子どもだけ生活保護の対象から外れる必要がある。
(※)現行の制度では、生活保護世帯の子どもは高校卒業後は働くことが原則とされており、
進学する際には「世帯分離」の手続きを取って子どもだけ生活保護の対象から外れる必要がある。

室井 もともと困っているのに、なんでそんな余計な苦労をしなくちゃいけないんだろう。

深堀 今年は妹が医療系の大学に進学したんですけど、学費が6年分かかるので利用できる奨学金 をいろいろかけ持ちして、1200万円借りています。返済予定表を見せてもらったら、完済するのが2050年とかでドラえもんレベルの未来の話になっている(笑)。

室井 奨学金って親が借りるんじゃなくて、子どもが借金しなきゃいけないんだよね。未来が来る前に国や世の中が変わって「学費の借金はぜんぶチャラでいいですよ」ってならないもんかな。日本は資源がない国なんだから、子どもこそ資源なのに。

街頭募金のとき、僕、泣いたんです。こんなに支えてくれる人がいるのかって。子どものときは見えなかったから。(石川さん)

おもりを背負ってきたからふつうにスタートした人より先へ跳べる。

室井 みんなスタートラインで苦労したけど、上の学校へ行けて少し先が見えてきたじゃない? どこで追い抜こうと思っている?

奈良 将来、みたいなことですか?

室井 うん、だって当たり前じゃん。イヤな思いをしたんだから、ふつうと一緒じゃトントンにならないじゃん。もっといい目をみないと。

石川 そう思います(笑)。僕、じつは一度大学に入ったんですけど、周りが勉強しないで遊んでいるやつらばっかりで、バカバカしくなってやめちゃったんです。でも、あすのばの活動で自分と似た境遇の子たちと話すようになって、社会に僕たちの声を届けられるようになりたいと思うようになった。来年また大学を受け直して勉強しようと思っています。

室井 いいぞ、いいぞ。

石川 僕、この給付金の街頭募金に立ったとき、2年連続で泣いちゃったんですよ。僕らを支えてくれる人がこんなにたくさんいるんだって。小さいとき、親に虐待されて家の外に出されても通り過ぎる人は冷たい目でしか見てくれなくて、ずっと大人を恨んでいたけど、1円、10円の募金でも「頑張って」って自分たちのことを思ってくれる人がいるって知っただけで、すごく居場所を感じたというか。

入学後もつらいことはたくさんある。給付金がきっかけで、あすのばの仲間とつながれることが大きい。(深堀さん)

深堀 お金だけ受け取るんじゃないんだよね。あすのばは給付金を受け取って終わりじゃなくて、夏休みに希望者がキャンプに参加できたり、同じ立場の子たちがつながりを持てる機会があるんです。この給付金がなかったらつながれなかった子たちが、一人ぼっちでなくなることはすごく大きい。

石川 お金は応急処置で必要だけど、傷をふさぐにはやっぱり人とのつながりが大事だと思う。僕らは自分が経験してきたから、あとから来たやつらの気持ちがわかるし、つながっていける。生まれ変わって同じ人生をやりたいかって言われたらイヤだって言いますけど、起きてしまった過去は変えられないから、自分のエネルギー源に変えて誰かの力になるぞって。

室井 私、わかったよ。世間のスタートラインに追いつこうなんて思わなくていいんだ。私、20歳の頃にホステスをしながら作家を目指して這い上がろうとしていたときに、親に仕送りをしなくちゃいけなくなって、どんだけ不公平なんだって世の中を恨んだけど、マイナスのおもりがいっぱいついていたから必死になって頑張って遠くへ跳べたんだと思う。 スタートさえできれば、みんなもっと先まで跳べる力を持ってるんだよ。スタートのために、余裕がある大人が手を貸すのは当たり前なんだから、「助けてもらった」なんて世間に遠慮しちゃダメだからね。自由に跳ばなきゃ。

石川 跳びます(笑)。

支援してもらったからって世の中に遠慮しなくていい。余裕のある大人が子どもを助けるのは当たり前なんだから。(室井さん)

室井佑月さん
むろい・ゆづき●1970年・青森県生まれ。
雑誌モデル、ホステスなどを経て97年に作家デビュー。
息子の中学受験を綴った『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)など著書多数。

中里七星さん

なかざと・ななせ●2002年・沖縄県生まれ。
高校1年生。母と小学校1年生の妹との3人暮らし。

深堀麻菜香さん

ふかぼり・まなか●1998年・北海道生まれ。
大学2年生。3人姉妹の長女。現在は1人暮らし。

石川昴さん

いしかわ・すばる●1996年・東京都生まれ。
社会人。2歳から児童養護施設に入所。現在は1人暮らし。

奈良裕二さん

なら・ゆうじ●1996年・秋田県生まれ。
大学4年生。5人兄弟の末っ子。母との2人暮らし。

「新入学準備金カンパ」を受け取った親子、1506通のアンケートから。

昨年の夏、あすのばではこれまでに新入学準備金カンパを届けた子どもと保護者合せて3195人に「生活と声」を聞き取るアンケートを実施しました。回答数は、じつに半分近くの1506通。ぐっと歯を食いしばって暮らす親子の姿が見えてきました。

※アンケートの回答とあすのば職員による追加調査をもとに作成。題字はA4サイズの自由回答欄に大きく書かれていた子どものことば。


子どもAさん(北海道・東北地方在住・17歳)の声

美術部の画材が買えなかったときはつらかった。気がつくと、仕方がないと諦めるクセがついていました。

 小学校6年生で両親が離婚してから、食べ物がなくてもお金がなくて買えないことが増えました。中学校で美術部に入部して画材セットを買ってもらいましたが、セットの絵の具で使い切った色がでてきても、買ってと言えなかった。体の弱いお母さんが病院に通いながらパートで頑張って働いてくれているのを知っていたからです。
あすのばの入学準備金は、高校受験の前にもらえることになったと聞きました。私のお金のことでお母さんが心配しなくてすむと思ったらホッとしました。制服は姉のお下がりがあったので教科書代に使いました。いまは合唱部に入っていて毎日楽しい。でも将来を考えると不安です。製菓学校へ行きたいけど、就職したほうがいいのかな。


保護者Bさん(中部地方在住・44歳)の声

給付金を申込む前、交通事故で10ヵ月間働けなかったので、この“返さなくていいお金”は本当に助かりました。

 上の子どもが中学に上がる前年、通勤途中に交通事故に遭いました。全身打撲で救急車を呼ぶほどの大ケガでしたが、小学生の子ども2人では生活できないので強引に退院し、自宅で療養しました。
ほぼ1ヵ月寝たきり状態でそのあとも9ヵ月間仕事に行けず、実家の父に生活費を50万円借りてしのぎました。この中から上の子の制服代も何とか支払いましたが、入学後も運動部のユニフォーム代などでお金が万単位で出ていったので、この給付金がどれだけ心強かったか。春からパートの仕事に復帰しましたが借金の返済に必死です。子どもたちの成長につれてもっとお金がかかると思うと、体も心も限界を感じることが多いです。


保護者Cさん(九州・沖縄地方在住・70歳)の声

孫が1歳のときから育てています。成長は励みだけど、この歳で訪問介護の仕事は体にこたえる。あと数年働けるかどうか

 7年前に息子が離婚し、嫁も息子も面倒を見切れないということで、私が1歳7ヵ月の孫を引きとることになりました。訪問介護の仕事で生計を立てていますが、非正規で時給も安く、数年前にわずらった脳梗塞の後遺症もあって長時間働けないため、育ち盛りの孫の食費や学童の費用までは賄えません。いまは足りない分だけ生活保護を受けています。
あすのばの給付金は、孫の小学校入学に必要なランドセルや学用品に充てました。孫は学校が大好きで、先生も友だちも大好き。寝るときには「ばあば、こっち見て寝て」と言う甘えん坊です。この子がいるから働く活力が出るけれど、正直、体はきついです。あと何年かはふん張って、保護費に全額を頼らないようにしたい。

地域の子どもは、地域で育てる。

『沖縄こども未来プロジェクト』の取り組み

入学準備金が足りずに苦労する子どもは日本全国で毎年60万人以上にのぼるそうです。あすのばの支援だけでは、つらい思いをしているすべての子どもを助けることはできません。もどかしい状況の中、地域を支える新聞社として、地域の子どもたちの新入学準備金応援に乗り出した沖縄タイムス会長の豊平良孝さんにお話をうかがいました。


沖縄県民の皆さんの“ゆいまーる(相互扶助)”の精神が、子どもたちを助けています。

豊平良孝さん(沖縄タイムス会長)

とよひら・よしたか●1951年・沖縄県生まれ。政経部などの記者職、代表取締役社長を経て2018年6月から現職。

 2016年1月29日、衝撃的な数字が県から発表されました。「沖縄の子どもの貧困率29.9%」。全国平均のじつに2倍、沖縄の子の3人に1人が貧困状態にあるという調査結果です。
 現場の記者から「たいへんな数字が出そうだ」という情報を事前に得ていたので、われわれタイムスでも年明けから県内の子どもの貧困事例を伝える連載(下写真)を始めていたのですが、取材へ出た記者たちが「ここまでひどいとは思わなかった」と打ちのめされて帰ってくる。新聞社も報じるだけでなく、解決へ向けた取り組みをすべきじゃないかと議論していたところにこの数字が後押しとなって、11日後の16年2月9日に『沖縄こども未来プロジェクト』を創設しました。

 驚いたのは読者の反響です。紙面を通じてサポーター(法人/一口月1万円、個人/一口月1000円)を募集したところ、総額で法人をしのぐ個人からのお申込みをいただいた。沖縄には“ゆいまーる”という考えがありましてね。いわゆる相互扶助です。自分に余裕がなくても、もっと苦しい人がいれば当たり前のこととして助ける。実際、個人サポーターさんから「年金生活だけれど、月に1000円なら出せます」という声もよく聞きます。地域の困っている子どもに何かしたいという県民の焦燥感をひしひしと感じました。

【沖縄タイムス】1948年7月創刊。発行部数はおよそ15万部(2018年現在)にのぼる。

 1年めは県内の子どもの貧困支援の団体さんに援助しました。2年めとなる昨年からは、あすのばさんの取り組みを知って、自分たちの手で新入学準備金の直接支援をスタートさせました。新聞社にふさわしい活動だと確信したからです。紙面を通して困っているご家庭へ給付金応募の情報を広く伝えられますし、なじみのある地元の新聞社ならお母さんたちも「お金をくれるなんて騙されているんじゃないか」と警戒しないで申込んでもらえる。
 担当者があすのばさんへ弟子入りして、応募や審査方法、書類照会について一から教えていただき、18年の入学式の前までに県内の小中学生652人へ2306万円の入学準備金をぶじにお渡しできました。
 お金の支援はもちろんですが、652人の子どもたちが「困ったら助けてくれる大人が沖縄の中にいるんだ」と知ることができた。これが大きい。道すがら、僕を助けてくれたのはひょっとしてこのおばちゃんかな? と想像できる子どもが増えれば、やがて“3分の1の子ども”が、“3分の1の子どもを助ける大人”に成長して沖縄の社会を支えてくれる。長い体系でのゆいまーるが、戦後、経済復興から置き去りにされつづけてきた沖縄を、根っこから変えてくれるんじゃないかと思っています。