「助けて」と言えない県民性の秋田県で、本当に困っている親子とつながる方法。
NPO法人秋田たすけあいネットあゆむ/秋田県秋田市
取材・文=横山健(通販生活編集部)
秋田県で貧困対策の活動をしている支援団体の人たちは、「生活が苦しくても、それを表に出したくない、『助けて』って言えない県民性だからね」と、よく口にします。
その言葉を裏付けるように、19年、秋田県の子ども食堂の数は11ヵ所と全国で最も少なく、子ども食堂の数を小学校の数で割った充足率も5.5%と最下位(※1)。
居場所ともなる子ども食堂の少なさは、秋田県の子どもの貧困支援が手薄になりがちなことを象徴しているように思えます。支援を受けることは、困っていることを公言しているようなもの、という意識が根底にあるのかもしれません。
15年に県内初のフードバンクを立ち上げて活動をしてきた保坂ひろみさんは、「本当に困っている人とつながることができているのだろうか」と疑問を持つようになりました。
※1 NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ調べ

ほさか・ひろみ●15年、50歳を前にして、世の中のためになにかしようと一念発起。秋田県で初のフードバンクを立ち上げる。翌年には「秋田たすけあいネットあゆむ」の活動をはじめる。夫と子ども3人の5人家族。
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「秋田県のシングルマザー家庭の7割近くが年間就労収入180万円未満で、シングルマザー家庭の子どもは16,370人(※2)います。ところが、市役所から教えられて支援の食料を送るのは、だいたいひと月に4、5軒ほどでした。市役所の窓口に『生活が苦しいです』と言える人は少ないということでしょう。
本当に困っている親子のうち、ほんのひと握りにしか支援できていないと感じていました」
保坂さんは、16年7月に「秋田たすけあいネットあゆむ」を立ち上げ、「本当に困っている親子」とつながることを目指して、学習支援、食糧支援、そして中学、高校の制服のリユースを始めました。
新品のブレザーだったら上下で4万円ほどかかりますが、ここなら寄付で集まった制服を250~1,000円、学校指定のダッフルコートでも2,000円と格安で買うことができます。
※2 2015年度母子・父子世帯実態調査(秋田県子育て支援課)

制服は年間400着ほど売れる。売上げはすべてクリーニング代になる。
「制服のリユースは、ほかの支援につながる窓口となります。そのために、リユースの制服を無料で配ることはしていません。安くても、あえて有料にすることで、ここへ入って来ることの抵抗感が少なくなるからです。
生活に困っている親子も、そうでない親子も買いに来られますが、お子さんが試着をしているときに、『中学校になったら勉強大変ですけど、土曜日に無償の学習支援してますよ』『無償の食料支援もしてますよ』と、雑談しながら伝えるようにしています」
居場所にも、支援の窓口にもなる親子食堂。
19年5月には、築30年、10年間空家だった木造住宅を改装して、念願だった親も来られる「親子食堂」をはじめました。
「6歳の娘さんと来てくださったシングルマザーが、『来年、この子が小学校に上がるのだけど、ランドセルどうしよう』と不安そうに話してくださいました。この親子には寄付されたランドセルをお渡しして、食糧支援にもつなげることができました。
まだ月に2回しか開けていませんが、スタッフを増やして、まずは月4回開くことを目指しています。また、来年度には不登校の親子の居場所になるように、平日の日中はここで気軽に集まって相談できるカフェも開く予定です」

もともと下宿屋だった家屋を改装して親子食堂として使っている。
保坂さんはそのほかにも、県内で民間初のDVシェルター、送迎付きのフリースクールと、秋田県で「本当に困っている親子」の居場所を次々に立ち上げてきました。
「フリースクールに来ている子の8割近くはシングルマザー家庭です。
たとえば、マユちゃん(仮名)のお母さんもシングルマザーです。DVから逃げてきて、マユちゃんが幼稚園のときから母子支援施設に住んでいます。
マユちゃんは統合失調症のためか小学校の教室に入ることができず、11歳の秋からここへ来ています。
最初はお母さんが休みの木曜日だけ、お母さんと一緒に通っていました。顔を見られるのを嫌がって、鼻の頭くらいまで前髪を垂らして顔を隠し、たとえば塗り絵をするときに好きな色に塗ってね、とうながしても『お母さん、何色がいい?』と聞いてしまう。

学習支援は小学生から高校生まで。現役や元高校教師もボランティアで教えている。
それでも段々とスタッフにも話すようになって、翌年の4月頃からは、一人でわたしたちの送迎車に乗って通うようになりました。すだれのような前髪を分けはじめ、表情も見えるようになり、じゃあね、と言うと『また来る』と満面の笑みで返すようになったのです。
ここはマユちゃんにとって居場所になっていると思います。でも、小学校へ通うことができず、他人と接する機会がとても少ない環境で育ってきましたから、来年は中学校だね、と言っても、『チューガッコウって何?』と聞いてくるほど一般的な知識が足りていません。中学校へ行くことは簡単ではありません。
フリースクールに来てくれる子どもたちに、居場所の提供だけでなく、学校へ戻れるキッカケをつくってあげることが次の課題です」