第1章
三浦しをんさんと
マキタのターボ・60
みうら・しをん●06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。5月にファン待望の新作『墨のゆらめき』(新潮社)を上梓。
こんなに軽くて動かしやすいのに、
ボタンさえ押してくれれば砂粒だって
ぎゅーんと吸うぜ、の頼もしさたるや。
あまり人には言いたくないのですが、2週間に1度お掃除のプロの方に来ていただいています。それくらい掃除は嫌いです。面倒くさい......。でも、生きていればホコリはたまっていくし、来客前はさすがに掃除したい。それで10年前からマキタさんを使っています。
大好きなのは軽さと、軽さゆえの動かしやすさ。象さん型のホースの掃除機だとソファの脚に重い本体やホースが引っかかって「奥のあのホコリを吸いたい」と思っても思い通りに動かせないのに、マキタさんはソファの下の〝遠くの奥〟までヘッドを伸ばせてラクに吸えます。階段もラク。ヘッドが軽いから空中へスッと持ち上げて、段差の端にぴたっと合せて吸える感じです。たとえばこのキャビネットの脚は六角形ですけど、こういう小さな面の端のホコリまできれいに吸えるところがすごい。
玄関の三和土の砂粒も「ターボ」で余裕です。思うにこのヘッドの角度を自由に調節できるのも重要で、吸込み口が床面に密着するから強く吸えるんじゃないかな。お掃除の方もよく吸うってマキタさん一辺倒です。やるな!
第2章
高山羽根子さんと
メディカル枕
たかやま・はねこ●14年『うどんキツネつきの』(東京創元社)でデビュー。20年『首里の馬』(新潮社)で芥川賞を受賞し、SFと純文学のはざまでジャンルを超えて活躍。最新作は本年1月に刊行した『パレードのシステム』(講談社)。
このくぼみに頭をのせると、意識が
あるようなないようなぼんやり心地にスッと
入って、いつの間にか眠りに落ちている。
夢が作品のヒントになる作家もいると聞きますが、私は夢をほとんど見ません。かわりに、夜、眠る前に枕に頭をのせてぼんやり心地で考えをめぐらせるのが習慣で、その日に取り込んだことを熟成させる大切な時間になっているのですが、頭が冴えて「寝こじれて」しまい、寝つけなくなることがよくありました。
2年前に枕をこれに変えてから、この「寝こじれ」があまり起きなくなった。以前の低反発枕よりも柔らかいのに、内側にハリがあって頭と首の重さを安心して預けられるところがいいんでしょうかね。くぼみに頭をのせると首と肩の緊張がスッとほぐれて、間を置かずにぼんやり心地に入っていける。うつらうつらしながら形にならない考えをぐにょぐにょ思考しているうちに、ストンと眠りに落ちてしまう。ありがたい枕です。
執筆の合間に1時間ほど仮眠をとっても、深く眠れてスッと起きられるのもありがたい。私は苦しいとかつらいとかそういう部分にはちょっと鈍い側の人間のようで、この枕がこれまでと比べて劇的に違うかと言われると、わからない部分もある。でも、以前のように寝違えて首が動かなくなることもなくなったから、首が支えられることで安定して眠れているのかもしれません。
第3章
深町秋生さんと
メディカルパッド
ふかまち・あきお●『果てしなき渇き』でこのミステリーがすごい!大賞を受賞。近作に『探偵は田園をゆく』(光文社)
腰が体の重みから解放されるのだろう。
油を差さないと動かないようなきしみが、
これで寝た翌朝は軽くなっている。
僕の腰痛の敵は締め切りです。机に向かって昼夜問わずに同じ姿勢で書き続けるから、たちどころに腰の血流がわるくなる。少し眠るかとベッドに横たわると腰がきしむ感じがして、目覚めたあとも腰は固まったまま。いっこうに腰が重みから解放されない。
もしかしてマットレスが問題か? と気づいたのが去年の終わり。うちのは国産のわりといいやつで、たしか30万円くらいしたと思う。寝心地もよかったけど、10年間、体重75キロの僕を毎日支えてさすがにヘタったんだろうね。腰と尻が沈み込む感じが気になって、この敷パッドを試したら当りだった。
極端に言うと、前は腰を起点に体を「Vの字」に曲げて寝ているイメージだったのが、腰も体も「Iの字」にまっすぐ伸ばされるような感じ。沈み込まないのに体の重みを受け止めてくれるほどよい柔らかさがあるのがまたいい。日中に体の重みが集中していた腰を、ひと晩かけてゆっくりストレッチしているようなものだから、朝起きると腰の違和感が軽くなっているのも納得だった。
第4章
平山夢明さんと
アースプラス
ひらやま・ゆめあき●日本推理作家協会賞をはじめ受賞作多。近作に『俺が公園でペリカンにした話』(光文社)がある。
執事みたいに静かなのに、外から帰った
とたんフル稼働する。俺、何か悪いこと
してきたっけ?ってビクッとしちゃうよ。
白黒ハッキリしない道具って使う気にならないんですよ。空気は目に見えないから、空気清浄機はその際たるものでしょ。換気なら窓を開けりゃいいと思っていたけれど、花粉症には勝てなかった。ものは試しで1回くらい使ってやるかと4年前にこれを部屋に置きました。
予想外に白黒ハッキリした。澄んだ空気ってわかるもんだね。いちばん違うのは、朝起きたときの口の中。以前は鼻が詰まって口呼吸になるせいか、朝起きると喉が乾ききっていて、口の中が山椒でピリリと痺れたような「激辛」状態になっていたのが、空気が澄んだおかげで寝ている間に鼻が詰まらなくなったんだろうな。朝の「激辛」がないし、のどもイガイガしなくなった。
日中は仕事をするリビングに持ち運んで「自動モード」つけっぱなし。音が静かだから執筆に集中できるのもいい。そのくせ昼飯の支度をしただけで煙に反応してブンッと動きだすから、仕事に忠実な執事ってところかな。こいつの仕事ぶりは信頼していたから、コロナの流行期になってからも過剰な心配をしないで過ごせました。
第5章
大槻ケンヂさんと
座・気まま
おおつき・けんぢ●今年デビュー35周年となるロックバンド「筋肉少女帯」では、6月に最新アルバム「一瞬」を発売。作家活動も30年を超え、星雲賞を2年連続受賞した。近作に『いつか春の日のどっかの町へ』(角川文庫)がある。
極度の猫背の僕は、硬い椅子やソファだと、
首や腰が変に緊張するクセがあるが、
なぜだかこれはリラックスできる。
去年16年ぶりに小説を執筆しました。ひとり机に向かって、コクヨの原稿用紙に鉛筆でカリカリ書いては消し、またカリカリ書く(僕は今でも手書きです)。山のような消しゴムのカスを前に、疲れと孤独が限界になると、この気ままに体をあずけてグダッとする日々でした。
こう見えて体は満身創痍。40代でライブ中に右膝を傷めてから膝サポーターは欠かせないし、膝をかばうせいで腰も首もやられている。立派なアラ還ロッカーの見本です。
ラクな座り方は日ごとに違って、寝そべって体を伸ばしたい日もあれば、丸まって痛みを逃したい日もあるし、ドカッと寄りかかって腰を重力から解放したい日もある。
これがいいのは、どんな姿勢の日も体がしっくりなじんでムラなく支えられている感じがするところ。部屋にはソファもあるけど、4年前にこれが来てからほとんど座らなくなったな。
最近、新たに開発した使い方は、ベッドの上に置いて、膝から下をのせて血行をよくしながらひたすら寝る。2時間のライブを終えた翌日、いや翌々日にどっと来る疲れにはこれがいい。
第6章
松田青子さんと
エグザーム
まつだ・あおこ●21年『おばちゃんたちのいるところ』で世界幻想文学大賞受賞。新刊に『持続可能な魂の利用』(中公文庫)。
文字をクリアにする灯り。
ざらざらしたペーパーバックの
細い英字がよく見えます。
4歳の子どもを育てているので、おもに夜中が私の執筆時間です。天井の蛍光灯がつらかったのは翻訳仕事のとき。文字が細くて小さい英字の原文と、パソコン上の自分の訳文を何度も見返していると、1、2時間くらいで目がかすんできて原文が見えにくかった。
これを使ってから目をシバシバさせることが格段に減りました。蛍光灯は光が真っ白くて明るすぎる感じでしたが、このランプの灯は昼間の光のような自然な光。ピカピカの強い光よりも文字が見えやすいので、ひたすら文字に集中できます。リアーン・モリアーティの『死後開封のこと』(創元推理文庫)を読んでいたときは、物語世界に没頭して、気づけば6時間。ああ、目が疲れたという感覚がなくておどろきました。
第7章
中島桃果子さんと
沖縄ビーグ敷き
なかじま・もかこ●09年デビュー作の『蝶番』が新潮エンターテイメント大賞受賞。近作の他『魔女と金魚』(幻冬舎)など
この上でうつぶせで本を読むのが夏の至福。
5年経っても涼しさは変わらないのだ。
メゾネット式マンションの2階のリビングが私のリラックス場所です。四方すべてに窓があるので何しろ明るい。そして何しろ暑い! 大切に飾っていたガラス入りキャンドルの上の部分が、部屋の熱で溶けてしまったほどです。
5年前にこの分厚いビーグを敷いてから、床が爽やかになりました。クーラーをつけないとサウナ状態になるのは同じだけど、涼感が違う。素足でも足裏や脚が汗でベタベタ貼りつく感じがないのでクーラーは28°Cで十分涼しい。ヨガもここでします。
ビーグの爽やかな香りに包まれてうつぶせで本を読むのは至福の時間。コロナでこもっていた3年前の夏は、この上に小さな机を置いて近作の『宵巴里』(モカティーナ書房)の原稿を書きましたが、そういえば暑かったという印象がないのだよな。