「あのドラマ、面白そうだけど、長いんだよなあ」なんて敬遠している作品、ありません? 年末年始はイッキ見するチャンスです。ウェブ通販生活の人気連載「週刊テレビドラマ」の筆者が、「ぜひ見るべき!」という「おすすめドラマ」を紹介します。

田幸和歌子

23年ドラマの振り返り&24年1月ドラマの予習として!

配信隆盛時代で、海外ドラマのような長尺ドラマを意識した複数脚本家による「チーム制脚本」が増えてきている。

そんな中、大胆な実験として注目されたのが、TBSプロデューサー・磯山晶氏と、宮藤官九郎と大石静による共同脚本ドラマ『離婚しようよ』(Netflix/2023年)だ。NetflixとTBSが全世界配信するソフトとして、磯山氏がラブストーリーの連続ドラマ企画を出すことになり、当時『俺の家の話』を準備中だったクドカンに打診したものの、夫婦の機微や男女の意見の食い違いを描く上で「女性脚本家との共同制作」案が浮上。そこで白羽の矢が立ったのが、『大恋愛~~僕を忘れる君と』や『恋する母たち』など、女性ならではの生々しい感情やセリフを魅力的に描ける大石静だった。実際の脚本作りは、リモートでの交換日記形式で進められたと言う。

Netflixシリーズ「離婚しようよ」独占配信中

主人公は、気持ちは冷え切っているものの、大勢に関わる利害関係からすぐに別れられない人気女優・ゆい(仲里依紗)と温室育ちの世襲議員・大志(松坂桃李)夫婦。大志の不倫に続き、ゆいも不倫(?)に陥るが、そのお相手は「生きているのに死んでるよう」で「不能」の「パチアート(パチンコ+自称アーティスト)」恭二(錦戸亮)。一方、大志のお相手は女子アナで、野心家でパフォーマンス巧みな対立候補(山本耕史)のもと、政界進出を目指す。

ドラマ好きにとっては「大志のボンクラ描写はクドカンだな」「色気ダダ漏れ恭二は大石静で、パチアートの名前はクドカンだろう」「このセリフは」などと読み解く楽しみがある。また、本作で選挙の面白さを知ったら、ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』『NO選挙,NO LIFE』などを観るのも良い。

さらに1月には、大石静脚本の大河ドラマ『光る君へ』、宮藤官九郎脚本のTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』もスタートする。2023年ドラマの振り返りとして、2024年1月ドラマの予習として年末年始にチェックしてみては。

たこう・わかこ●ライター。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。雑誌、ウェブ媒体等で俳優やタレントなどのインタビューを手掛け、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(blueprint、共著)など。

成馬零一

会話シーンだけ見ても面白い「ゆんたくドラマ」。

2001年に放送された連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ちゅらさん』(NHK)は沖縄が本土に復帰した1972年5月15日に沖縄で生まれた、えりぃこと古波蔵恵里(国仲涼子)の物語だ。

物語は沖縄の小浜島から始まり、えりぃが初恋の人・上原文也(小橋賢児)と出会う幼少期を描いた後、高校時代のえりぃの青春が描かれる。

やがてえりぃは、文也に会うために東京に上京し、一風館という寮で暮らすことになるのだが、どの回を観てもひたすら楽しく幸せな気持ちになれることに放送当時は驚いた。

脚本は岡田惠和が担当。『ちゅらさん』、『おひさま』、『ひよっこ』と現在、朝ドラを三作執筆している岡田だが、『ちゅらさん』は岡田の初期集大成と言える代表作だ。

何より岡田の作家性が色濃く出ているのが『南くんの恋人』(テレビ朝日系)等の漫画原作ドラマで培ったファンタジーテイストだろう。

劇中では確信犯的に偶然や奇跡が多用される。これが普通のドラマだったら、ご都合主義だと批判したくなるが『ちゅらさん』の場合は沖縄という土地の力もあってか「そういうものさ」と力技で納得させられてしまい、この「力技」自体が作品の魅力となっている。

また、劇中の設定にはあだち充の『タッチ』(小学館)や高橋留美子の『めぞん一刻』(同)といった漫画の影響が強く、それまでの朝ドラにあったリアル志向とは違うポップな手触りが大胆に持ち込まれていた。

同時に本作には『時間ですよ』(TBS系)、『寺内寛太郎一家』(同)といった、久世光彦&向田邦子が手がけていたホームドラマのコメディ要素も持ち込まれていた。

「ゆんたく」という沖縄方言で「おしゃべりする」という意味の言葉があるのだが『ちゅらさん』は「ゆんたくドラマ」とでもいうような作品で、とにかくえりぃたちが食事をしながら、わいわい喋って団欒する場面が頻繁に描かれる。

序盤はえりぃたち古波蔵家の家族の姿が描かれ、上京してからは一風館の一癖も二癖もある住民たちとえりぃが打ち解けていく姿が描かれるのだが、どの会話もコメディとして狙い過ぎではなく「適度に面白い」のが本作の魅力だろう。

特別なことをしなくても、会話さえ面白ければテレビドラマは成立するのだと、本作を観ていると改めて実感させられる。

朝ドラなので、初めから順番に観てももちろん面白いのだが、つまみ食いをするように「ゆんたく」の場面を拾うだけでも十分楽しめるのが、本作の凄さである。

なりま・れいいち●ライター、ドラマ評論家。ドラマ、映画、マンガ、アニメ等について幅広く執筆。著書に『TV ドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する 6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)など。

辛酸なめ子

心も体も熱くなる本作は寒い季節におすすめ。

次々と名作が生まれるアジアのBLドラマシーン。台湾BL「奇蹟」は、ストーリー、設定、萌えシーン、イケメンレベルなど全てにおいて完成度が高く、王道路線ながら激アツな内容でした。タイBL「KinnPorsche」のようなハードボイルドでアクションシーンもあるドラマがこのところ人気のようです。「奇蹟」は台湾の同性婚にも触れていて、LGBTQの現状への理解が深まる作品でもあります。

「奇蹟」は、台湾のヤクザの構成員と、優等生の男子高生の物語。ある日、バイ・ゾンイーが下校中、道でに血まみれの男性に腕を掴まれ、行きがかり上、その男性、ファン・ジョールイを家に匿うことになります。優しいゾンイーは、渋々ながらジョールイの傷を手当てします。BLで欠かせないのが、手当てや看病シーン。すでにフラグが立っているような…。年上のジョールイに脅されて居候されることになり、最初のうちは塩対応のゾンイー。でもそれも時間の問題で、次第に惹かれ合うように……。ジョールイは料理上手で実は数学が得意といったギャップ萌えの要素も。

いっぽう、ジョールイも所属するヤクザ組織では、兄弟のように一緒に育ったアイ・ディーとチェン・イーという青年がいて、チェン・イーはヤクザのボスを慕っていました。アイ・ディーは密かにチェン・イーに片思いしていますが、素直になれず、つい挑発的な行動をとってしまいます。

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BLドラマでカップルは名前を合体させて呼ばれたりしますが、この二組も「白范CP」と「陳艾CP」という愛称で呼ばれています。それぞれのカップルは心を通わせるうちにスキンシップも増えてきて、「お姫様抱っこ」「あごクイ」「壁ドン」「バックハグ」など観たいシーンが次々出てきます。さすが台湾BLヒット作を次々生み出しているリン・ペイユー女史が監督・脚本を手がけただけあって、期待以上のときめきが。雷が鳴ると過去のトラウマがよみがえってパニックになるゾンイーを、ジョールイがハグしたり一緒に寝て落ち着かせようとして、後ろから眉間をもむシーンも印象的でした。あごクイや壁ドンなどの定番のシーンにとどまらず、「眉間もみ」という新たな萌を開発するクリエイティビティに感動。エンゲージリング代わりに、ゾンイーとジョールイがお互いの左手の薬指に歯形をつけるシーンも良かったです。

後半は白范CPも陳艾CPもキスシーンを惜しまず、半裸で重なり合う刺激的な場面もあって、興奮と感動の渦に。タイBLではキスシーンはかなり貴重で、回数も数えられるくらいでしたが、キスが降り注ぎ、まさに奇蹟的なドラマです。心も体も熱くなる「奇蹟」は、寒くなる季節におすすめです。愛と萌えのパワーで暖房代も節約できそうです。

しんさん・なめこ●漫画家・コラムニスト。独特の観察眼と妄想力で世の中を捉えるエッセイやイラストで人気を博す。主な著書に『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書)、『ヌー道じゅんとなめ子のハダカ芸術入門』(みうらじゅんとの共著・新潮社)、『大人のマナー術』(光文社新書)など。