「韓国ドラマ? あー、ヨンさまね。興味ないです」
「韓国ドラマ? どうせメロドラマばかりでしょ」
「韓国ドラマ? 韓国映画は観るけど、ドラマはねえ…」
そんなあなた、ぜひ、この座談会を読んでください。
きっと、あなたがハマる作品があります。
大げさでなく、韓国ドラマを観れば、
人生の楽しみが増えます。
ウェブ通販生活の人気連載「週刊テレビドラマ」で、
韓国ドラマを紹介している
辛淑玉さん、寺脇研さん、松本侑子さんが、
韓国ドラマの魅力をご紹介します。
新自由主義の痛みを描いた傑作
『イカゲーム』。
- 辛
- 寺脇さん、お久しぶりです!
- 寺脇
- ごぶさたしています。
- 松本
- 私は、お2人にお会いするのは初めてです。
光栄です。どうぞよろしくお願いします。 - 編集部
- いつも皆さんにはウェブ通販生活の
連載「週刊テレビドラマ」で、
主に韓国ドラマを紹介していただいていますが、
今日は、韓国ドラマを今まであまり
観たことがない人に向けて
「韓国ドラマはこんなに面白い!」という話を
していただきたいんですね。 - 松本
- 楽しみにして来ました。
- 寺脇
- 私は、もともと映画専門の人間。
ウェブ通販生活でのドラマ批評も、
ただ好きな作品を書いているだけなんです。
だからお2人に比べて韓国ドラマの知識はないので、
今日は主に聞き手になります。 - 辛
- そんな遠慮なさらずに(笑)。
- 編集部
- 今日のテーマはドラマですけど、
寺脇さん、映画の話もぜひお願いします。
皆さん、たくさんお話ししたいことがあると思いますが、
まずは、韓国ドラマファンでなくても、
その名前は聞いたことがあると思う作品の話から
お願いしたいのですが。
『イカゲーム』なんて、どうでしょうか。 - 松本
- 2021年に、世界94ヵ国でNetflixの
視聴ランキング1位を獲得するほど
大ヒットしましたね。驚きました。
- 辛
- あれは、新自由主義の痛みを
描いたドラマなんですよ。 - 寺脇
- 私もそう思います。
借金に苦しむ456人の生活困窮者が、
命をかけて一発逆転の苛酷なゲームに挑む。
突拍子もない話のようですが、
新自由主義の嵐が吹く現状を鑑みれば、
そうとも思えない。 - 辛
- 私は、世界的な収奪の状況、
つまりは少数の経済的勝者が
大多数の敗者を支配する世界を、
誰にでも分りやすいゲームという形にして
つくり上げた傑作だと思っています。 - 松本
- 劇中では、「だるまさんが転んだ」
のような単純なゲームで勝敗を決めて、
敗者はすぐに殺されてしまいます。
でも、なぜ自分が殺されるのか、
誰に殺されるのか、分からないんですよね。 - 辛
- そうなんです。
気がついたら競争の中に入れられていて、
必死に頑張らざるを得ない。
相手を倒さなければ、自分がやられてしまう。
一旦は疑問を持ち、その場を離れるんだけど、
結局また舞い戻ってくるという展開も、
とてもリアリティがある。
不合理な死は、不景気になると切り捨てられる
非正規労働者の姿も思い起こさせます。
ドラマを通して、世界各国で共有できる
残酷な現代社会の在り様を
まざまざと見せつけてくれる。
観終わった後に、ゾッとしないでいられる人が
いるのだろうか、と思いました。
- 松本
- 韓国映画として初めて
アカデミー賞作品賞を受賞した
『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でも、
新自由主義の格差社会が描かれていましたね。
豪邸の富裕層と、半地下に暮らす一家……。 - 辛
- 現実の経済や政治など難しいことが分からなくても、
映画やドラマであれば理解しやすい。
しかも、『イカゲーム』はドラマで、何話も続くから、
細かいところまでよく描けていて説得力がある。
そう考えると、『イカゲーム』は
あらゆる政治批評とか経済批評とか現代評論の中で、
『イカゲーム』は最高なんじゃないかと。
日本映画『カイジ』と
『イカゲーム』の大きな違い。
- 寺脇
- 日本にも、同様のテーマを扱った
『(賭博黙示録)カイジ』(作:福本伸行)という
名作漫画があります。 - 辛
- 『イカゲーム』は、『カイジ』に
似ているとよく言われます。 - 寺脇
- 『カイジ』も、命がけの賭博ゲームを
スリルとサスペンスたっぷりに描いていて、
とても読み応えがあります。
ただ、映画化された『カイジ』はダメ。
商業映画化され過ぎたということもありますが、
長編漫画を2時間ほどの映画にしたことで、
バックグラウンドにある日常まで
描けなくなってしまった。
その点、辛さんがおっしゃるとおり、
『イカゲーム』は1話60分ぐらいで
全9話もあって長い。 - 辛
- そう、だから、細部まで描ける。
- 寺脇
- 原作、脚本、演出を担当したのは、
ファン・ドンヒョクという監督。
聴覚障害者学校で実際に起こった
性的虐待事件を映像化した
『トガニ 幼い瞳の告発』(2011年)など、
もともと社会派作品を手掛けてきた映画監督です。
『イカゲーム』も、
刺激だけを求めた娯楽ドラマで終わらせていません。 - 辛
- 善人が命乞いのために
残忍な面を覗かせるなど、
人物の描き方も立体的でしたよね。 - 松本
- あのー、盛り上がっているところで、
まことに心苦しいのですが、
実は私、『イカゲーム』は途中で挫折したんです。 - 辛
- えっ! そうなの!?
- 松本
- はい。つらいな~と思って……。
- 辛
- 好き嫌いはあって当然ですよ。
北朝鮮の庶民を悪者と
決めつけない『愛の不時着』。
- 辛
- では、そんな松本さんが
最近ハマった作品といえば? - 松本
- たくさんありますけど、
韓国ドラマファンでない方でも
聞いたことがある作品となると、
『愛の不時着』ですね。 - 編集部
- 『愛の不時着』は、
『イカゲーム』の前年の2020年に話題になり、
日本での第四次韓流ブームを
牽引した作品とも言われています。 - 松本
- 私は『冬のソナタ』(2002年)で
韓国ドラマにハマったのですが、
2010年代あたり、
あまり観ない時期もあったんです。
それが『愛の不時着』を観て、
また韓ドラ愛が復活しました。
韓国の財閥企業の経営者である女性と
北朝鮮の将校の恋の物語で、
まず、波乱万丈のラブストーリーとして
抜群の面白さです!
でもこのドラマは、ヒロインを通して、
時代とともに変わってきた韓国女性も描いています。
さらに北朝鮮の人々の暮らし、
人間らしい暖かな心も魅力的なドラマで、
その点も珍しくて、興味深かったです。
日本に韓流ブームを巻き起こした珠玉のラブストーリー 冬のソナタ(2002年)
- 出演
- ペ・ヨンジュン、チェ・ジウ、パク・ヨンハ
- 配信
- U-NEXT、Hulu、FOD、ABEMA
- 寺脇
- 確かにそうですね。
軍事境界線上の南北の兵士たちの
交流と顛末を描いた『JSA』(2000年)など、
韓国映画では以前から北朝鮮のことが
描かれてきました。
でも、『愛の不時着』は、
同じ北朝鮮を描くにしても、
スパイがどうとか、板門店がどうとか、
そういう話とはまた違う。 - 松本
- そうなんです。
北朝鮮は、いろいろな映画で
怖そうなイメージですが、
このドラマでは普通の人たちが登場します。
北朝鮮の村の女性たちとその子どもたち、
兵隊たちに人間的な魅力があり、
南から来たヒロインとの間に、
友情が生まれていきます。
北朝鮮の一般の庶民を悪者と決めつけない描写が、
新鮮でした。 - 辛
- 『愛の不時着』、残念ながら、私はアウトでした。
- 松本
- そうなんですか!
- 寺脇
- 私も、まぁ、何かを考えさせる作品ということでは
意味があると思いましたが、ドラマとしては……。 - 辛
- 私のような在日コリアンは、
リアルな韓国や北朝鮮と
向き合わなくちゃいけないじゃないですか。
だから、彼らのラブロマンスに
まったく入り込めませんでしたね。
それから、観ていてもう一つ思ったのは、
結局、“男のネタ”が尽きたんだろうな、ということ。 - 松本
- 男のネタですか?
- 辛
- そう。大統領であったり、
財閥御曹司であったり、
王様や世子(王子)であったり、
韓国のラブロマンスには
いろいろなタイプの男性が出てきたけど、
ネタが尽きて、そこに“北の男”も
入れてきたんだなと。 - 松本
- なるほど!
- 辛
- しかも、その眼差しには、
昔を懐かしむというのではなく、
韓国より北朝鮮が劣っているという
前提に成り立った、侮蔑の要素が
入っていると感じたんです。
だから、ちょっと失礼だな、
とも思いました。
でも、同時に、北朝鮮の人たちを
人間とも思っていなかった人たちに、
あのヒョンビン扮する北朝鮮の将校
リ・ジョンヒョクが与えた影響は、
ものすごく大きかっただろうな、
とも思いますけど。
- 松本
- 『愛の不時着』の監督の
イ・ジョンヒョさんは、インタビューで
「これはファンタジーだ」と
おっしゃっていました。
というのも、北朝鮮で撮影したわけではありませんし、
北の軍人と南の女性が恋愛するのは実際には難しい。
でも、その困難に挑戦する心意気、
世界的なヒット作に作り上げた熱意に、
私は100点満点をあげたい。 - 寺脇
- ファンタジーでも何でも、
こうして外国のドラマを観ることは、
その国の文化や歴史を知ることにつながる。
例えば、韓国だけでなく、
北朝鮮の映画やドラマも
日本で観ることができるようになれば、
「鬼が住んでいる国だ」なんて
思わないようになると思います。 - 松本
- そのとおりですね。
私もドラマを観て、韓国の生活、食文化、
冠婚葬祭、家族を知りました。
ドラマを観るうちに、
「こんなふうに求婚するんだ」とか、
「受験競争が大変そう」とか、
いろいろなことが分かって、
親しみも共感もわいてくる。
こうして相手の“心”を知った国と、
なかなか戦争はできない。
ドラマは、人々の暮らしを知ることで、
ひいては平和の架け橋にもなると感じています。